マリーゴールドに 嫉妬の文字が 残った日


 「パ、パンツァーイーターを討伐したと……? そ、それは本当ですか……って、あなた方ならありえる、のか?」


 

 ポルトランドに着いてすぐ、ハンターユニオンの受付で、パンツァーイーター討伐完了の報告をすると、すぐさま支部長との面談の席が用意された。

 錫乃介とマリーは支部長室のソファーにどかりと足を大きく組んで座り、支部長秘蔵のぶっとい葉巻を勝手にヒュミドールという入れ物から出してバカバカ吸っていた。ちなみに葉巻はバカバカ吸うものではない。

 これがそこらの三下ハンターがやったならば衛兵を呼ばれて、牢屋に2~3日はぶち込まれても文句は言えない狼藉だがこの二人、錫乃介のほうは赤丸急上昇のハンターで、二つ名こそ“ドブさらい”だが、ユニオンでは既に上級ハンタークラスの重要人物として扱われている。

 そしてマリーもユニオンの受付なんかをやっていたが、あれは暇つぶしの小遣い稼ぎでドンチャックを脅して無理矢理やっていただけで、本来ならベテラン回収屋として知名度も実績も実力も抜群の、やはり上級ハンタークラスの人物であった。



 「おいタヌ山、アタシを疑うのかい?」


 表情が見えなくなるほどの白く濃い煙をバカーーと吐き出し、ドスの効いた声で支部長タヌ山タヌキックに圧力をかける。タヌ山はマリーの横で直立不動だ。


 「め、滅相もございま「アタシが持ってるアンタの裏帳簿、どっかで落としちゃうかもねぇ」


 「そ、その話はもう終わった「落としちゃうだけだよ。公表するのを止めてあげただけだよあの約束は」


 「マリーさん!ホント勘弁して下さい。疑うわけじゃなく、ちょっと話を聞きたいだけなんです!」


 「ダイノーシスの専門家呼んで嘘かどうか判断するって、疑ってるのと同位じゃないかい?」


 「ユニオンの決まりなんです! こんだけデカイ案件、討伐証明あっても無くても一緒なんです!」


 

 もう泣きそうなタヌ山を、それでもマリーは圧力を緩めることなくさんざん虐めて楽しむ。



 “いったい何があったんでしょうね?”


 さぁな。ただセメントイテンのドンチャックも舎弟にしてるって言ってた事を考えると、今後マリーを敵に回すのだけはやめとくわ。


 “賢明です”



 錫乃介もまた、どこからか取り出したティアドロップのレイバンをして、バカーーと煙を吐き出す。



 コイーバ・エスプレンディードスかぁ。昔働いていたシガーバーで一番高かったなぁ。


 “この世界じゃ、錫乃介様の時代より高いでしょうね”


 だろうな。




 「キルケゴールです。入ります」


 ようやく登場した彼のおかげで、タヌ山虐めは幕を閉じた。


 「これくらいにしといてやるか。また今度なタヌ山」


 と、支部長室から出ようと立ち上がるマリー


 「待って下さい、まだ面談はこれからなんです!さっさと帰って欲しいですけど!!」


 「そんなにいて欲しいならしょうがないねぇ、さっさと嘘発見器でもなんでもしな」

 


 再びどかりとソファーに座ると、バカーーと白い煙を吐き出す。



 「それではよろしくお願いします」


 キルケゴールは向かいのソファーに座り、おもむろにヒュミドールから葉巻を取り出すと、備え付けのシガーカッターでカットし、葉巻用のガスライターで火をつける。



 「え、なんでお前まで吸ってんの?」


 「裏帳簿って声が聞こえましたがなにか?」


 バカーーと白く濃い煙を吐き出し、ぞんざいに答えるキルケゴール


 「もういや!!」



 タヌ山はその場でぶるぶる足と手と顔を震わせて天を仰いだ。



 「アンタいいキャラしてるじゃないか。気に入ったよ」


 葉巻を口に咥え、ニヤリと笑うマリー



 「さぁ、はじめますよ」


 キルケゴールもまたニヤリと笑い返し、煙を再び吐き出し、葉巻用の灰皿シガーアシュトレイに静かに置く。



 「それではまずは錫乃介さん、パンツァーイーターを二人で討伐したのは本当ですか?」


 「当たり前だ。んじゃなきゃここに来るわけねぇだろ。キルケの能力知ってんのに」


 「はい、ありがとうございます。それではマリーさん。そのパンツァーイーターはどうやって倒しました?」


 「錫乃介が誘雷とかいう雷で一旦は倒したと思ったらまだ生きてて、TNT火薬を満載したアタシのトレーラーでどついてトドメを刺した」


 「はい、ありがとうございます。タヌ山、二人とも嘘言ってません。報奨金を出してOKですよ」


 取調べを早々に終え、キルケゴールはまた葉巻を口に咥え、煙を口内に燻らせる。



 「はっや!取調べはっや!ってかなんでワシ呼び捨て……わかったよもう」


 何かを諦めたかのように、デスクへ回るタヌ山。

 

 「おいタヌ山。俺は300。マリーが700にわけろ」


 「お前まで!……はい……わかりました」


 全てを諦めたかのように、デバイスを二つ用意するタヌ山。



 「何言ってんだい、それは回収屋の時の分け前だろ?」


 「無理すんなよババア。俺の国ではそういうの年寄りの冷や水って言うんだぜ。あの改造武装トレーラーお値段おいくらかな?」


 「嫌な男だね。そういうところが旦那そっくりなんだ」


 「光栄だね。ありがたく受け取っておきな。それにアンタがいなきゃ死んでたしな俺は」


 「それはお互い様だけどね」




………………




 タヌ山から報奨金が入った財布デバイスふんだくり、ついでに葉巻も鷲掴みで奪った二人はユニオンを出たところで立ち止まった。



 「それじゃ、これから祝杯打ち上げといくかい」


「すまねぇなマリー、ちょいと先約があってな。なんせ俺は今、夜の帝王だからな」


 「そういや女買いまくったんだっけね」


 「そう言う事だ。今夜は眠れそうもないから、祝杯はまた日を改めてな」


 それだけ言い残し、錫乃介はジャノピーをゆっくりと走らせた。

 


 「アタシが“年寄りの冷や水”ならアンタは差し詰め、“武士は食わねど高楊枝”かい?」


 その姿を見送るマリーは、僅かに笑みをこぼしながら呟くのだった。


 


………………



 

 『鋼と私』


 「おーい、またやっちまった!頼むぜぃ」


 「なんでぃ!てめぇ、2~3日前に直してやったばかりじゃねえか! いや、まてその前にパンツァーイーターはどうなった⁉︎」



 工場長サカキの問いに、無言でサムズアップする錫乃介。


 

 「やったか! 遂にやったか!」


 「ああ、やったぜ」


 「30キロのワイヤーを用意しろと言われた時は大丈夫かコイツと思ったが……そうか、やったか」


 

 溶接用のレトロなゴーグルを付けたままのサカキの目にはうっすら涙が漂っているのが、錫乃介には察せた。



 「ま、トドメを刺したのはマリーだけどな。岩屋に挟まれ動けなくなった山椒魚かと思いきや、そっから這い出して来やがった。そこをトレーラーごとドカーンとな。おっとマリーは無事だぜ」


 「そうか、マリーがやったか!」

 

 「それでよ、バイクが雷の影響で電気系統が狂ってな、その修理と支払いの残りを持って来たぜ」


 「あん? 残りだ? 前金で払ったろうが」


 「あのスティンガー、改造費用はもちろんだが、あれ本体そのもので調達費用いくらかかった?」


 「おめぇが払った10万cでやりくりしてやったよ」


 「んなわけねぇだろ。足りるかどうか知らんがホラよ」


 錫乃介が懐から取り出した財布デバイスは、先程タヌ山から支払われた報奨金が入った物だった。



 「てめぇ、気付いてたのか?」


 「ああともよ。この世界じゃこの手のミサイルは生産数が少ない。誘導が意味ねぇからな。その高性能ゆえに調整できる奴も少ないから費用も嵩む。どうやって入手したからしらねぇけど、少なくとも一式数百万だ。ただのロケット砲とは訳が違うんだからな」


 「やたら詳しいじゃねえか」


 「当たりめぇだろ。俺は前にアスファルトの街で銃器整備ずっとやってたんだぜ」


 「へっ! とっとと工場売っ飛ばして、隠居生活でもしようと思ってたのによ」


 「そいつぁ困るな。まだまだ俺のジャノピーが世話になるんだからよいらねぇって言っても置いてくぜ。修理代も込みだ」


 錫乃介はジャノピーと財布デバイスをシートに置く。



 「一つ聞きたいんだけどよ、何でこんな大枚はたいてまでスティンガー用意したんだ?」



 ゴーグルの奥の瞳は財布を見る事なく、錫乃介の顔を見つめ、そっと口を開く。



 「120キロのワイヤーを担いで30キロメートル飛ばすにはロケット弾じゃだめだ。多段式に改造したミサイルじゃないとな。それに耐久性も正確な飛翔性も必要だからな。総合的に必然的にスティンガーになった」


 そこで会話を止めると僅かに思案した後再び口を開く。


 「そして、マリーの旦那は俺のダチでもあってな。昔っから喧嘩仲間で、ハンター仲間でもあって、あいつの息子は俺にも良く懐いていた。パンツァーイーターに旦那と息子さんやられた時には、俺もハンター仲間を集めて弔い合戦したが結果は知っての通りだ。そんなとこか。変なこと思い出させるんじゃねえよ」


 「わりぃな。好奇心で古傷突いてよ。でもよ、あのスティンガーのおかげでバケモンは倒せた。さっきも言ったがここがなくなると困るから受け取っておけ。年寄りの冷や水は程々にしておけよ。全くジジババはどいつもこいつも……」


 「ぬかしやがる、テメェももうすぐジジィだろうが」


 「俺は永遠の二十歳だ」


 「キメェよ!」


 

 くだらないやり取りを最後に、錫乃介はその場を後にした。シートに残した財布デバイスには2,990,000cの文字が表示されていた。

 


収支12,350c


 



………………




 とあるホテルの一室。戦いを終え疲れを癒すためにシャワーを浴びるマリーがいた。

 50半ばとはいえ、日焼けし鍛え抜かれた無駄肉の無い体はハリがあり、胸も尻も垂れている様な所は見受けられない、スレンダーで均整のとれた肉体だった。


 

 なんだろうね、なんかムシャクシャするね。あの野郎アタシの誘いを足蹴にしやがって。

 本当に報奨金で女買いまくりに行ったんじゃないだろうね?


 ……ん? もしかして、アタシ妬いてるのかい?

 やんなっちゃうねぇ、いい歳こいて……



 明日から新しいトレーラー探さなきゃいけないってのに、何考えてんだか。


 


 ……若い娘用の換装ボディはいくらだったっけ?



 脱衣場の姿見の前でよぎった思いは、自分へのジョークだったかもしれなかった。



 マリーゴールドから“悲しみ“と“絶望”の花言葉が無くなった日 了

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