踊り疲れた留置所の帰り

 子供達に袋にされた後、宿に戻って備え付けのシャワーで汗を流す。

 今まで止まったどこの宿も部屋にシャワーなんぞ無く共同のシャワールームかサウナだったが、流石に200cもかかる部屋には付いていた。


 

 とは言え、こんな贅沢はいつまでも出来ないな。安めの定宿を見つけるか、テントに切り替え無いとな。この街そもそもの物価高いし。

 ま、それはおいおい考えるとして、ハンターユニオンにでも行きますか。


 

 チェックアウトした後、ハンターユニオンに向けてバイクを走らせる。先程ジョギングした際に見つけておいたのだ。宿からそう遠くはない。


 ものの数分でハンターユニオンに着く。堅牢そうな総コンクリート製で4階くらいはありそうだ。錫乃介の時代に照らし合わせれば、首都湾岸線にある、ニトリやIKEA並みの大きさだ。今まで見たどの建築物よりもでかく、数多くの車両が出入りしている。



 “ここは、ユニオンとしてだけではなく、受電設備でもありますね”



 だろうな、これ程大きくて、でっかいケーブルがいくつも繋がってるんだからな。たぶん役所みたいな機能も兼ねてるんじゃないか?


 “たぶんそうでしょうね。軍事施設でもあるようですし”



 確かに、整列した数十人ほどの集団が、列を乱さない様に建物の周りを走っている。あの規律は間違いな軍事教練中であろう。朝早くからご苦労様です、ってか早く無いと暑すぎて訓練なんか無理か。


 そんな走る軍人達を見送ってから、正面入口から中に入る。アスファルトやセメントイテンはハンガーが建物の裏にあったが、ここは正面がハンガーだ。とはいえ、ジャイロキャノピーの様な小物が入るのは少し抵抗があったため、微妙に緊張しキョロキョロしてしまう錫乃介であった。



 「錫乃介様、そんなにキョロキョロしてるとおのぼりさんみたいですよ」


 声を掛けて来たのは受付にいたロボオであった。


 「よぉ、わざわざここでも働いてるのか?」


 「報告が終わったら休暇で2〜3日は自由のはずだったんですが、人手がいないとかで駆り出されてます」


 「まぁ、下手に時間あると酒代が嵩んでしょうがないだろ。ロボオは働いていた方が節約になるぜ」


 「よくわかりますね。給料の9割は酒代で消えています。今日もハイエナの報酬で明後日まで飲む予定だったんですが、流れてしまいました」


 

 明日じゃなく、明後日なのね……


 「宵越しの銭は持たない主義なのか、お前は」

 「そういうつもりではないのですが、何故か無くなってしまいます。どーしてでしょう?


 何故かじゃねーだろ何故かじゃ。


 

 「酒代が9割って今自分で言ってただろが、それよかリクエスト受けたいんだけど、部屋どこだい?ここは随分広そうだからな」


 「それでしたら、こちらでも受けられます。どうぞ一覧表です」



 と渡されたタブレットには、新旧様々なリクエストがあった。

 


 野良機獣犬 駆除 1体50c


 農場警備 6時間 150c


 ウージー虫 ハント 1体150c


 カラシニャコフ ハント 1体200c


 ジャッカルカノ ハント 1体300c

 

 用水路整備 バイオモンスター駆除 500c


 キリスギリス ハント 1体 500c


 M2ホッパー 1体 500c


 デミブル ハント 1体1,000c


 バルカンムリワシ ハント 1体2,000c


 地下宮殿調査 3,000c


 ハイエナジーレーザー ハント 1体3000c


 ゴーストライダー ハント 1体5000c


 キャノンジラフ 1体8,000c


 バルコンドル 1体8000c


 廃ビル13号棟 探査 20,000c


 暴走バギー ハント 150,000c


 キャタピラバッファロー ハント 1,000,000c


 ワイルドタンク ハント 3,000,000c


 エレファンク討伐 10,000,000c


 フライングオクトパス討伐 50,000,000c



 「前より色々増えてるなぁ〜」


 「この辺りは機獣が増加しているそうです。ですのでユニオンでは人手が足りなくなっている模様です」


 「そっか〜他の受付のスタッフは機獣増加のせいで、現場に駆り出されて、ロボオはそのとばっちりってわけか」


 「いえ、受付スタッフ達はただの二日酔いです。昨夜は、よう久しぶり!ってノリで一緒に飲んだら皆んな倒れるまで飲んじゃいまして、今日生きてたのが、私だけだったんです」


 ひっどい有様だな。ここのスタッフは。



 「ところで、なんか割りのいい仕事はあるか?」


 「命の危険性という意味では野良犬駆除も農場警備も大して変わらないですね。なんせ堀の外ですから。であれば高額の仕事の方が良いかと思います。地下宮殿調査はいかがですか?」


 「何なのこれ?」


 「北に方角に山脈がございますね。10年くらい前ですが、あの山脈の麓の所に地下宮殿が見つかったそうです。何度か調査はされましたが、何も見つからず、ただ広い空間だけがあったそうです。

 ところが、ここ最近になって、その地下宮殿から機獣が出入りしているという目撃情報が入りまして、その確認の調査でございます」


 ふーむ、『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』みたいだな。ロマンたっぷりで心をくすぐるな。


 「そう聞くと比較的割が良い仕事に思えるけど、何でまた今までこのリクエストは残っているんだ?」


 「地下ってくらいですから、武装車両では入れない事。

 チームを組んで行くには報酬が安い事。

 1人で行くにはちょっと危険。

 何度か調査されていて、未開の地を探索する程の好奇心を掻き立てられ無い事。

 あと、既にソロで何名が行ったみたいですが、皆さん戻られていませんね。

 理由としてはこんな感じじゃないでしょうか。詳しいことは私も外部なんでわからないです」


 ……。


 そりゃそうだが、最後の理由は聞き流すにはチョイとヘヴィじゃないかい?

 詳細な情報は受付の横にある端末から引っ張るとして、やっぱり大人しく雑魚狩りしますか。



 「俺やっぱ初心に戻って雑魚狩りするよ。おっかねーよその宮殿。この用水路整備って街の中での仕事でしょ?どうなん?」


 「この仕事はキツイ汚い危険臭いの4Kに加え低報酬で不人気。あまりおすすめできませんよ」


 「いいからいいから」


 「この街にはご覧の通り水路が沢山あります。そのドブさらいの仕事なんですが、工業区の地下に通る水路では、ジャンボスラッグという巨大なナメクジや、コックローチαβという巨大なゴッキーや、メガクリケットという巨大なカマドウマや、マンモスフライという巨大なハエや、タイガーマウスという巨大なネズミが……」


 「みんな巨大じゃねーか」


 「あと、スライムがでます」


 お約束キャラがようやくここでか。


 「と、まあコイツらの駆除が主な任務です」


 「何にせよその手の害虫どもは得意でね、一捻りにしてやんよ」


 「それは助かります。受注者がいなくて、困ってたんですよ」


 「じゃあ、報酬あげろよ」


 「ドブさらいは、金目の物をもつ標的が出現しないせいで、何にも戦利品が無いので難しいのです」


 「世知辛いね〜。ま、俺やるから手続きしてくれや」


 「かしこまりました。そういえば、ドブに落ちてた物は、報酬にしてよいそうです」


 「そんな上手く金目の物落ちてるかよ」




 

 


 「ほらみろやっぱねーじゃねーか。こういうの、“あるじゃねーか”っていうフラグかと思って期待しちまったよ」


 “何1人で大声で愚痴ってるんですか”


 錫乃介は早速工業区の地下水路に入り込み、ドブさらいと害虫駆除をしていた。


 地下水路は存外天井が高く、歩くのはそれほど困難では無い。水路は幅2メートル程であり、土砂溜まっているので、これを長い柄がついた専用のショベルでさらって運搬機のトロッコに入れていく。

 下水では無いので思ったほど臭くは無いが、害虫害獣が多い。何を食ってこんなに大きくなってるのか不気味であるが、錫乃介は意にも介さない。

 

 ウージーの弾薬を大量に買い込み(費用として請求できた)次から次へと出てくる害虫害獣を、パラララッ!と撃ち仕留めていく。

 襲ってくる事はないが鬱陶しい事この上ない。


 

 “錫乃介様やたら慣れてませんか?こういうことって、キモいー、とか、ぎゃー、とか悲鳴のオンパレードがお約束かと思いましたが”


 そんなん言うくらいだったら、はなっからこんなリクエストやんねーよ。


 

 仕留めた害虫害獣を水路に蹴り落として、進んで行く。後で棒で突いていて、メタンガス発電用の処理施設まで流すのだ。

 

 

 “やはり経験がおありで?”



 まあな、ドブ掃除とかグリストラップ清掃とかは毎日やってたことあるし、ゴミ処理施設のバイトとかもあるからな。そんときゃこんなお化けみたいにでかい害虫はいねぇけど、ネズミとかゴッキーとか山ほど殺したよ。

 でもコツは一緒だ。コイツらぶっ殺すのも、心を無にして作業にしちまうんだよ。俺は殺戮マシーンだ、ターミネーターだ、ってな。デンデデンデン、デンデデンデン♪って心の中でBGMかけてよ。ターゲットを殲滅した、とか1人ナビゲーションしてさ。次のターゲットを補足、サーチ&デストロイとか、呟いてよ。


 “ぜんぜん、心を無にしてないじゃないですか。単にターミネーターになりきってるだけですよね”


 どんな状況でも楽しむのがポイントだな。

 


 ナビとくだらない事を話しながら淡々と作業を進めていく。



 に、しても重労働だな。とりあえずこの水路は終了だな。今日の分は終わり終わり。


 

 地下水路を出る頃には、日が落ちようとしていた。赤く染め上がる工業区をバイクに跨りユニオンに戻る。

 見覚えのある子供達がまだ薬莢拾いをしている。

 日が暮れてもまだ頑張るのか、大した奴らだ、と思いながら遠目に見てその場を去る。

 


 その時ふと見たバイクミラーに、軽ワゴンに押し込まれる子供の姿が見えた。

 すぐ様Uターンして軽ワゴンに向けて、ブローニングの狙いを定める。

 



 ナビ!


 “先に屋根に付いているコルド重機関銃から破壊しましょう。その後タイヤです。

 

 オッケィ!


 軽ワゴンはこちらから逃れるように走り始めている。

 屋根から男が顔をだし、コルド重機関銃を構える。

 だが、こちらの方が早い。狙いが定まった瞬間迷う事なく、バドドドッと屋根を掃射する。

 重機関銃に数発あたり、破壊できたようだが、男はすぐに車内に引っ込んだため、仕留め損なった様だ。


 後輪のタイヤに狙いを変えるが、軽ワゴンの窓から、カラシニコフで応戦してくる賊ども。ジャイロキャノピーとはいえ防弾仕様なのでそうは撃ち抜けない。



 とはいえ、傷だらけにしやがって!


 “もう、充分傷だらけでしたけどね”

 黙りねぃ!


 

 バドドドッと両輪を撃ち抜き、スピードが減速する軽ワゴン。バックドアが衝撃で開き、押し込まれた子どもが見える。

 並走は危険なので。後方から運転席を斉射したところで、軽ワゴンは止まった。運転手はやったか?

 子供達はこの隙に軽ワゴンから逃げ出している。メロディ、ピート、あとはリーダー格だった男の子か。


 逃げきれないとみた軽ワゴンから、一斉に発砲され、こちらのブローニングが破損し射撃不能となる。もう風防はヒビだらけだが、バックドア側へウージーを乱射しながら、構わず突っ込む。


 

 「修理費寄越せやコラーーー!」

 


 無防備だった3人には容易に命中し、仕留めたところで反撃が止む。

 バイクから降りて乗り込むが、どうやら運転手含め4人全員蠢いているので死んでいないようだ。子供達も残りはいない。賊どもに拳銃を突きつけ、財布デバイスからお金を回収する。

 留めを刺すか迷ったが、自警団が到着したので後を任せ、事情を話した後ハンターユニオンに向かうことにした。




 アレ?


 と、思ったらホールドアップだった。



 ですよね〜。

 街中で銃撃戦騒ぎですもんね。俺だって容疑者だよな。金奪ってるし。




 そのまま護送車に押し込まれ連行されたのはハンターユニオンの留置所だった。




 "ま、結果予定通りユニオンに戻ることが出来たからヨシとしましょう”


 呑気な事を……。ずいぶん遠回りで危険なご帰還だけどな。俺もう少し安全な生き方したいんだけどね。


 “子供達救えたんだから良いじゃないですか。今日はドブさらいに誘拐阻止と大活躍でしたね”


 大活躍したわりに、ここ留置所だけどな。


 “にしても、こんだけ発展してる街で人攫いとは、穏やかじゃありませんね”


 ああ、街ってのは発展して大きくなればなるほど、闇もまた大きくなるんだ。目端が行き届くアスファルトくらいがちょうど良いんだよ。

 東京とかニューヨークとかパリとか、世界的都市はどこも闇社会がでかかったよ。


 

 “そうですね。人攫いを肯定するわけじゃありませんが、そういう闇社会じゃないと生きていけない人々が集まってしまうんでしょうね”


 ああ、だからその存在は完全否定できない。したところで存在してしまう。であればこちらに害があれば戦うし、利がある時には利用する。上手い付き合い方が必要なんだよ。


 

 “酸いも甘いも噛み分けたような物言いですね”


 色々ドブ板踏み抜いてるからな。


 “その表現気に入りました?”


 ちょっとだけな。にしても腹減ったよ。今日何にも食ってねぇや。

 

 “ドブ掃除前にご飯は食べたくありませんでしたからね”


 カツ丼でもでてこねーかな。あーあ腹減ったから俺寝るわ。疲れたわ。



 “では、おやすみなさい”

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