ブラッククィーン編
Siriってみんな使う?
ポルトランドには夕方頃に着いた。その場でキャラバン隊は解散となり、ハローワークとモチローとは再会を誓い別れた。
ロボオはハンターユニオンに直行し、3日ほどこの街に滞在した後、アスファルトに帰るそうだ。帰る前に機会があれば会おうと話をし、俺は今晩の飯と宿をとることにした。ロボオはハンターユニオンに泊まるらしい。
ポルトランドの街はでかい。アスファルトくらいあるかもしれない。整備された大河も通っており、川付近は植生も豊かだ。
砂漠にはワジと呼ばれる、雨季の間だけにできる川があるがそれではない。ナイル川や、チグリス・ユーフラテス川のように、砂漠を突っ切る大河だ。
この大河を利用し、街の周りには広大な堀が造られている。さぞや大規模な工事であったのだろう。スクラッチ後の混乱し、かつ機獣が出る様になった世界で行った事業だと考えると、先人の努力には頭が下がる。
この街にはアスファルト以上にしっかりした自治体があるようで、外門にあった入管では通行税として500cの徴収となかなか高額の税をとられた。その時パスポートを発行されたが、住民登録してない者は有効期限がある。
ま、そうでもしなけりゃ、こんなしっかりした堀とか治水工事できねーやな。
街の中は今までのバラック小屋だらけの景観と違い、コンクリート製の建築物が立ち並び、その間を埋める様に、バラック小屋が散見している。
さて、今晩はどうしますかっと。おっと、この通りは立ちんぼのねーちゃんがいっぱいだな。ここは、また今度にしよっと。
入りかけた通りは“売り”の女性が沢山道を塞ぐ様に立っていたので、路地にはいる。
“そういえば、アスファルトに半年くらいいた時は、その手のお店行ったり、女性買ったりしなかったですね”
いや〜何か味気ないんだよね。別に前の時代の時も買ったりした事無いわけじゃ無いんだけどさ、つまんないんだよね。
やっぱさ、Hが目的なんじゃなくて、いや目的でもあるよ、そーじゃなくてそこに至るまでの過程っての?“堕とす”ってよく表現されるけどさ。そこが1番楽しいわけよ。ホテル行ったり家連れ込んだりしたらもうピークは過ぎてんだよ。
“確かに数々の創作品はその、恋愛過程が深く書かれていて、それを楽しむのが醍醐味でもあるようですね”
そーなのよ、ただスルだけじゃ駄目なんだよ。そーいう男も少なくないと思うよ。
ロマンってーのかな〜でも、性欲は勿論あるんだよ。
“私を気にされているのかと思いました”
ん?まぁ、それも無くはないかな。見られてるみたいな感覚はあるな。そーいう趣味の奴もいるみたいだけどなぁ。
“もしアレでしたら、私の入っているチョーカーを外して行かれても良いのですよ”
それはそれでアレじゃん?何かあった時、俺1人じゃ対処出来ないし、何より女の言葉わかんなくなるじゃん。
“……ヘタレですね”
黙りねぃ!
“そういえば、偶にチョーカー外されてトイレ行かれますよね。矢張りあれは……「そーーいう事言っちゃ駄目だよね。それって、察しても言っちゃ駄目な事じゃん。俺もう2度とチョーカー外してトイレ行けないじゃん。どーーすんのこの有様。なんか、親にエロ本見つかって、机の上に置かれていた時とおんなじ感情が沸き上がってきたよ。どーすんの。この歳でこの感情懐かしいけど、もう2度と感じたくなかったんだけど」
“ですから私には気になさらず”
もう遅いからね。そーいうのもう遅いから。
だいたいナビを気にしないなんてもう無理だから。SiriとかAlexaとかと訳が違うじゃん。もう俺にとって身内だし肉親だし、見られてるの気にしないなんて出来るわけないし。
覆水盆に返らずってこういう時に使う言葉なんだって、今勉強になったよ。
そうだ酒を飲もう。酒を飲んで今の事忘れれば良いんだ。それじゃ、もうここでいいや早く飲もう。
“おかしいですね、本来であれば嬉しいセリフを言ってたんですがね。エロ本が見つかった息子が逆ギレするのを受け止める時の母親の気持ちとはこんな感じなんですかね。おっさんなのに情けないやら哀しいやら”
投げ槍になった錫乃介が、裏路地にあった手近な金属製のドアを開けると、中は小洒落たオーセンティックなBARであった。
ダウンライトの店内に木目調の不思議な石のカウンターに、ゆったりとしたカウンターチェア。バックは各種酒瓶が並び、下からスポットライトが飾り立てる。
ピンライトが7つの席だけを照らしている。まだ客はいない様子だ。
「いらっしゃいませ。ーーご紹介でしょうか?」
カウンターに立つ黒い長髪の渋い顔した細面の男がマスターか。目も細くて手足も細長い。歳の頃は50代くらいだろうか。
「ありゃ、ここってまさか会員制?」
「左様で御座います。ご紹介でなければ、大変申し訳ございませんが、今日の所はお引き取りを」
「あ、ごめんごめん、確認しないで適当に入っちゃった」
まさか、こんな時代でも会員制のBARがあるとは思わなかったので、軽く謝って出ようとする。
「ジョドーさん私の連れって事でいいかしら?」
奥からかかる声は女性の声だった。低めの声色だがとても落ち着きのある、惹かれる様な美しい声だった。
おっと、奥にいるのは黒衣の貴婦人ですな。前も似たようなシチュエーションあったな。デジャブか?
奥に座る女性の席だけピンライトが付いておらず、黒のイブニングドレスが背景に溶け込む。
肌の色は黒、といっても黒人の黒ではなく、灰色を暗くしたダークグレー。切長な眼差しがこちらを見つめ、黒い瞳が艶かしく光る。
エキゾチックビューティー!!
「ーーかしこまりました。お客様失礼致しました。奥でお待ちで御座います」
なーんか危険な香り〜でも座っちゃお!びっじーーんだしね。
プンプンする怪しく危険でいて、美しく艶かしく甘い香りに引きつられ、錫乃介は黒衣の貴婦人の隣に座るのだった。
“さて、どうなるんでしょうかね?”
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