星の王子様と背徳の女子高生

 キャラバン一行は時速40〜50キロ程の速度で隊列を崩さないように進んでいた。

 先頭はハローワークとモチローが搭乗する『16式機動戦闘車』早い話しが、戦車のキャタピラがタイヤになった車両と想像してもらえば良い。

 戦車に比べ、多少装甲の面で弱さはあるが、機動性即応性は圧倒的に高く、赤い誰かさんが言う

 “当たらなければ、どうという事はない”

 を体現した機体なのだ。

 しかも、スーパーメカニックであるモチローがチューンナップしているため、その性能は計り知れない。



 しんがりを務めるのは、戦車の最高峰と名高い『M1エイブラムス』に搭乗するベテランハンター、アンドレ。

 彼はハンター歴30年間、今まで受けた依頼全てを失敗することなく完遂して来た逸話を持つ100%の男。『ハンドレッド』という二つ名がある伝説のハンターだ。

 しかし、彼はこれから本作に出てくる事は2度と無いので、覚える必要は無い。



 アンドレ「俺伝説なんですけど!」


 

 さて、錫乃介の配属はというと、小回りの利くバイクの為、遊撃というポジションにいる。重要なポジションだが機動力が必要なので今旅では錫乃介とロボオがライダーだということで抜擢された。


 

 「ロボオよ、おまーさんバイク乗りだったんか」

 「そうですよ、でないとアームに内蔵された20ミリ機関銃が生きて来ませんからね」

 「機関銃の為かよ、ワイルド過ぎんだろコイツ」


 それだけじゃない、ロボオの乗るバイクはヤマハのドラッグスターのトライクと言われる後ろに2輪、前1輪のやたらめったらゴッツイ3輪バイクだ。

 その世紀末ヒャッハーのボスが乗ってそうなバイクにその踏ん反り返ってまたがり、片手に持つ安バーボン『オールドクロウ』をぐびぐびラッパ飲みしながら、わざわざ蛇腹の足を伸ばしてハンドルにのせて運転している。



 ワイルドスギィぃぃぃぃ!!!



 バイクの武装は『40ミリ・ボフォース機関砲』という、機関銃と大砲の中間くらいのやつが2つ並んだ連装機関砲だ。

 こいつもWW2時代に開発されたくせに、2000年代過ぎても世界中で現役だった老兵である。

 威力は戦車以外のものだったら、大概一撃で沈めるくらいの破壊力だ。元々は対空砲として開発された名兵器である。


 

 こいつ、ひょっとして相当デンジャラスな、奴なんじゃないか?


 今更ながら、ロボオとは少し距離を置こうと誓う錫乃介であった、



 初日は特に何の障害もなく、最初の補給ポイントであるエーライトに到着した。太陽はもう完全に沈んでいる。走りっぱなしで10時間くらいは経っている。



 トイレはどうしてるかって?

 そこはそれ、携帯トイレもあるし無ければ電脳に運転代わってもらって、立ションたれグソだ。当たり前過ぎて、誰もそんなの気にしない。

 女はどうしてるかって?女も変わらん。

こんな荒野で1人立ち止まったら、機獣に狙われちまう。かと言ってキャラバン一行を止める訳にはいかないからな。

 でも、安心してくれ。長距離移動用のオムツもあるんだぜぃ。これは前の時代でも、10数時間走りっぱのダカール・ラリーやル・マン24時間耐久レースなんかでも使用してるんだからな。

 


 閑話休題



 エーライトはいわゆるモーテルandガソリンスタンドandダイナー、即ち以前立ち寄ったミーチの店と同じジャンルだ。

 少し違うのが、そのモーテルの周りに小さな集落というか街の様な生活共同体ができている。

 メタンガス発電所と地下水を汲み上げるポンプに、給水タンク、ガソスタ、モーテル、ダイナーの組み合わせは、この時代ではよく見られるセットのようだ。

 ダイナーは前の日本の幹線道路でもよく見られたタイプの造りで、地上が駐車場、2階に店がある。


 2階の店は『ダイナー 星の王子様』か。やけにメルヘンだな。

 「ぼく」が不時着したのは、サハラ砂漠だったか。その後も地球の砂漠に行ってなんやかんやあったな。読んだのも昔過ぎて忘れちまったよ。

 俺も「ぼく」と似た様な境遇だな。今読んだら共感できるのかね。当時はそんなに感じなかったが。そのうち王子に会うのかな?作者がいるなら、美人でスケベな王女に変えといてくれ。

 


 “歴史に残る名作を汚さないで下さい”


 

 でもよ『星の王子様と濡れる人妻』とかで一筆書けそうじゃね?

 なんか、“大切なものは目じゃなくて、ハートで見るもの”とか“自分しか持っていないものなんてこの世にないの”とか意味深な事テキトーに言って、砂漠に不時着した人妻が淫らになってくって。



 “その人妻に、痛い目見たばかりでしょ”


 そうだった、もうこの話は止めな。



 アホな話をしたかっただけなのに、ズキズキ心が痛む錫乃介であった。

 痛む胸を抑えながら店内に入ると、意外にも小綺麗なファミレスだ。テーブルは6人掛けが10くらいか。結構座れるなと思っていると、



 “お〜い、錫乃介こっちこいよ〜”



 と呼ぶ声がする。モチローだ。

 

 誘われるがままに席に座る。


 ちなみにロボオは飲み過ぎてバイクで酔い潰れている。



 「ハローワークは一緒じゃないのか?」


 「アイツは留守番と見張りだ。皆んなの車そのまんまにして置けないからってな。後で飯食ってひと眠りした他の奴と交代さ」

 「俺はいいのか?」

 「今回は短い旅だからな。その辺は大丈夫だ。それより何か食べろよ、食える時に食っておかなきゃな」

 「ちげぇねぇ」



 サーセン、とスタッフらしき太っちょのハゲ親父を呼びカツレツライスを注文する。

 モチローはラーメンだ。



 「俺はいつでもラーメンなんだ」

 「学生か、気持ちはわかるが早死にすっぞ」

 「なんで学生なんだ?」

 


 あ、そうか。



 何気なく突っ込んだセリフだったが、この時代に学校帰りにラーメン食って帰るなんて文化そのものが無い事に気付く錫乃介。

 ついついこのモチローが親しみ易い昭和な面をと話し方をするもんで、気を許してしまっている。



 ん〜コイツなら話しても大丈夫だと思うけど、それはそれで面倒くさいな。

 

 「あ〜俺の地元ではそれが当たり前だったんだ。色んな味のラーメン屋が街にいくつも合ってな、学校帰りは皆んなでラーメン食ってくか〜みたいなノリだったんだよ」

 「ラーメン屋が街にいくつもあるだと!夢の様な街だな。今度連れてけよ!」

 「だいぶ遠いぞ」

 「構わねーよ。色んな味のラーメンが食えるなら何処でも行くさ」

 


 そんな話をしていると料理が出てくる。


 モチローのラーメンは、ザ・昭和な醤油ラーメンだ。ナルト、メンマ、生卵がのっている。流石に海苔は無かったか。

 俺のカツレツはわらじカツだ。薄くて幅広くて、食いごたえありそうだ。千切りキャベツらしきものと、炒めたピラフの様な米が添えてある。


 俺もモチローもガツガツと飯をかっこむ。



 「あのさーー」


 ラーメンを啜りながらモチローが口を開く。

 

 「錫乃介の地元ってさ」


 飲み込んでから喋れ。


 「学校あるんだ」


 あ、そうか。この時代学校なんてロクにある訳ないか。

 ま、どこまで誤魔化せるかやってみるか。


 「あるぞ」


 カツレツを頬張る。薄いのに固いな。多分バッファロー肉だ。


 「すげぇな、学校があってラーメン屋がいっぱいあって、学生が帰りに寄れるくらいお金あって、そんなノリで生きて行ける街があるのか。理想郷“アルカディア”だな」


 もう、モチローのやつ気付いてるな。


 「俺たちな、旅の目的はそのアルカディアを探す事なんだ。お前の街がそーなのかもな」


 ナルトを飲み込むモチロー


 「そうなんだ。俺理想郷に住んでたんだな」


 そんな、良いもんじゃない様な気がするが。


 「なぁ、錫乃介」


 メンマを吸い込む


 「なんだ?」


 キャベツを、ワサっと食べる


 「お前の旅の目的は聞いても良いか?」


 スープをじゅるっと飲む


 「ああ、目的はーー、特に無いんだ」


 ピラフにがっつく


 「ガハハ、そうか」


 丼を傾ける


 「俺さ」


 ギシギシカツレツをナイフで切る


 「うん?」


 スープを飲み干す


 「2020年から来たんだ」


 最後のカツを食べ切った


 「ガハハ、そりゃ大変だったな」


 俺達は席を立ち上がる


 「ああ、死ぬかと思った」


 先に会計を済ます俺


 「だろうな。今度話聞かせろよ」


 次いで会計をするモチロー


 「ああ、いいぜ」


 店を出る俺たち


 「オウガ倒した時の」


 そっちかよ



 

 

 信じて無いんだろうな。


 “どうでしょう?眼鏡の奥の瞳は、人を訝しむ様子は無かったですよ”


 そうか、本気にしてないだけかな。



 

 「ハローワーク、帰ったぞ〜異常は?」

 「問題無し」

 「さっき錫乃介と飯食って来たぞ」

 「アイツか、オウガの話し聞いたか?」

 「いや、忘れた」

 「ーー相変わらずだな」

 「今度聞かせろって言って来たよ」

 「何話したんだ?」

 「ああ、アイツさ2020年から来たんだって」

 「そうかーー、そりゃ大変だったな」

 「だな」



 2人はそれで話を打ち切り、交代してハローワークは休憩をとりに行くのであった。

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