爆弾とカフェ

じゃあ、お前歩いて地図作ってみろよ

 灼熱の太陽が照りつける大地を、1台のジャイロキャノピーが砂煙をあげ、安っぽいエンジン音を響かせてひた走る。あたりは巨大な廃ビル群と砂と岩と瓦礫が残る道とも言えない荒野だ。

 錫乃介はサービスでもらったゴーグルをつけ、次の街へ(名前も聞いていないが)向かってアクセルを回す。


 ナビ、街いつ着くの?

 


 “南へ500キロとしか聞いてませんからね。現在平均時速で40キロ。直線距離にしたら13時間もかからず着くはずです”


 2日くらい走ってるよな。予備燃料も使ったし弾薬も心許ないなぁ。


 アスファルトをでて既に3日目。道中砂猫やジャッカルカノ、カラシニャコフ、ウージー虫、デミブルといった機獣達に襲われていた。

 殆どの機獣は新型ブローニングの掃射で片付けたが、デミブルは体高3メートル体長7メートルと象ほどではないが巨大であり、尚且つタフで好戦的であったため、仕留めるのに一苦労した。

 ブローニングが通用しなかったため、ナビにバイクの運転を任せ、蟻地雷を顔面に3個投げ付け、すかさずブローニングで地雷を狙撃し爆破して、ようやく倒すことができた。

 素材がでたが、収穫する間も無く新手のデミブルが来たため、泣く泣く逃げ去った。

 


 “休憩除いて26時間程度走ってます”


 ーー道、間違ってない?


 “さて、道などというものもありませんし、地図すら持たずに出てしまいましたし”


 そういえば、この時代の地図ってどうなってんの?グラウンドスクラッチでメチャクチャになった後さ。


 “地球観測衛星の類や軍事衛星は当然ながら使用でき無くなりましたから、一から測量のやり直しです。

 しかしながら、地道に測量して地図を作れるほど、機獣がいたり野盗がいたり争いがあったりと、平穏な世界ではありませんから。なかなかスムーズにはいきませんから、ざっくりしたものしかないでしょう”


 伊能忠敬でも厳しいだろうな。


 “いえいえ、彼のど根性を鑑みれば何があってもやり遂げると思いますよ”


 そういやそうだな。50過ぎから10年以上かけたんだろ。変態の域を超えてるよな。


 “偉人に対してなんて事を。55歳から17年かけたんですよ。真似出来る人が当時から現在に至るまで他にいたでしょうか?”


 だな。寿命が無ければ世界中歩いてただろうな。


 “でしょうね”


 



 ナビ、話は変わるが、いや戻すが、このまま走っていていいのか?


 “なんとも言えませんね”


 はっきり言ってまずいんじゃ無い?弾薬とかも少ない、こんなとこでタコとか出たら。


 “自らフラグ立てないで下さい。ですが、その辺は私が常に警戒を怠っておりませんのでご安心を”


 不安でしょうがねぇや。何か頭の中で音楽流せる?BGMが欲しいね、砂漠の中で孤独感、このムード嫌いじゃないよ。この暑苦しい太陽さえなければさ。


 “ではステッペンウルフ『Born to Be Wild』です”


 ベタだね〜、でも良いね〜、いきなりこれ以上無いチョイスだね。この場では最高過ぎて他流せないレベルだね。

 岩と砂と廃墟しかない広大な荒野を走るHarley Davidson。まさに今の“オレ”だね♪



 “乗ってるのホンダ・ジャイロキャノピーですよ”


 黙りねぃ!ホンダを馬鹿にすんな!でも気分はハーレーなんだよ!

 


 ナビを一喝して黙らせたが、実は状況は芳しく無い。

 予備燃料も無く、食料や水も少なく、確実に方向を見失っている。それ以前に目指す街の名前すら知らない。そんな不安をよそに楽天的に音楽を流して、“どうにかなるさ”をモットーに今を最大限に楽しむ刹那的な生き方をする、それが錫乃介であった。


 



 次は“異邦人“かけてよ


 “かしこまりました”


 こどもた〜ちが♪



 ーー♪




 い〜ほ〜じ〜ん〜♪

 

 

 まさに今の“オレ”だね。見知らぬ土地に飛ばされた異邦人とはさ♪


 “この歌の舞台は国立駅前ですけど”



 黙りねぃ!知ってるわ!それ初めて聞いた時衝撃だったよ!



 ナビを一喝して黙らせると、進行方向の廃墟ビルに人影が見える。道を聞けるかもしれないと、人影に向けて速度を早める。実は錫乃介、内心だいぶ焦っていたからだ。


 近づいて行くと、こちらに気づいたか、荷物を積んだ武装軽トラックの屋根の上で、手を振り大声で呼び始めた。



 「オーイ!」


 と僅かに聞こえる


 更にはっきりと姿が視認出来る距離まで近くなると、ハスキーな声の女性だった。

 ベージュのカーゴパンツと迷彩のタンクトップに深いワインレッドのショートの赤髪がよく似合う。



 「オーイ!すまなけどちょっと助けてくれ、エンストしちまったんだ」



 と両手を口に当て大声で叫ぶ。


 

 “錫乃介様、警戒を怠らずに”


 わかってる、物盗りの可能性だろ?


 “はい、言うまでもなく、窮状を訴え優しく手を差し伸べた所を、グサッとドキュンと来るかもしれません”

 

 でも、向こうも俺が悪人だったらどうすんだ?



 などと思いながら錫乃介は警戒をしつつも、バイクを女性より10メートルほど距離を置いて停めた。

 隣にある軽トラはちょっと見慣れないレトロなデザインの車だ。


 “初代スズライトキャリィ。1960年代の代物です”


 おいおい、化石かよ。


 

 「そんな警戒しないでくれ、と言っても無理ないか。でも、エンストして困ってるのは本当なんだ」



 と、粋のいい喋り方と笑顔が実に気持ちいい女性だ。そして出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでる、グラマラスな容姿であった。背丈は170くらいか。少女の様に元気な姿だが、僅かに見える表情の深さから言って歳の頃は20後半から30代くらいだろうか。



 オッパイ大きいな…



と、邪な事を考えてしまうのは男の性か。


 “下品ですよ”

 黙りねぃ!



 「燃料か?燃料だったら俺も分けるほど無いぞ」

 「いや、燃料はある。バッテリーがイカれちまったみたいでな。ちょっと、そっちと繋げてかけてくれないか?」


 ナビ、出来るか?


 “問題ありませんが、警戒はしたままでいて下さいね。他に気配は感じないので、問題無いと思いますが”


 了解。

 

 「そうか、じゃあちょっとやってみるよ。ケーブルはあるか?」

 「サンキュー!あるよ、頼むね」



 と、作業に取り掛かる錫乃介。

 警戒した割には、何事も無く女性は後ろで大人しく見ている。

 ものの数分で作業が終わり、エンジンがかかる。



 「オッケー!恩に着るよ!アンタどこまで行くつもりなんだ?良かったら家寄ってきなよ。お礼するからさ!」

 「どこと言われてもな。当てもない旅さ」

 「いなくなった旦那みたいな事言うね!面白いよ」

 


 いなくなった?死んだか蒸発か知らんが、異邦人じゃなく未亡人だったか。

 グッとくるな。


 “下品ですよ”

 黙りねぃ!


 「お礼か…そうだな…」

 「身体で払ってやってもいいよ!」

 

 おおーーーう、いぇぇぇっつす!!


 「じ、じゃ、……」


 “錫乃介様、警戒を”


 「なんて、こんなオバンいらないってね!ジョークなんだから笑ってくれよ!」


 ですよねーーー!


 「いや、大変魅力的でありがたい申し出なんだけどね。さっきも少し言ったけど、燃料とか食料が無くてね。いや、ほんと、余裕あれば、真っ先にそっちだし、おばさんだなんて、これっぽっちも思えないし、ここんところ女日照りだし、据え膳食わぬは、だから、やっぱり、燃料諦めて、下半身の燃料補充を…」


 “下半身の燃料は補充どころか無くなるだけですよね”

 黙りねぃ!!

 


 「そっか、燃料無いって言ってたな。ここからそう距離は無い場所に、アタシがやってるモーテルアンドダイナーがあるから、腹ごしらえも兼ねてどうだい?」

 

 と、なんとも様になるウィンクをされた。


 

 グサッとドキュンときた



 ナビ、俺モテ期きたかも






 “だから警戒しろって”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る