ナビゲーションは電気ショックの夢を見せるか
独特の匂いに包まれて目が覚めた男は、あたりを見回し、今までの体験がやはり夢ではなかった事に複雑な気持ちだった。
この先に関しての不安もあるが、この未来の地球への好奇心の方が優っていた。
なぜ2020年から百数十年でここまで地球の様子が変わったのか?
ここは日本なのか?そうでないなら、どこなのか?
なぜこの時代に転送されたのか?
なぜ自分だったのか?
といった根本的な問題から、
電気はあるようだが、どこから引っ張っているのか?
この電脳もそうだが技術革新が進み過ぎではないか?
そのわりにはまともな住居はなくビルは倒壊したままだったりバラック小屋やテントで生活しているのはなぜか?
この大量の銃器はなんのためか?戦争でもしているのか?
戦争だとしても、技術革新の割に兵器の類が旧時代的ではないか?
通貨があるということは政府があるのか?
といった目に付く全てに疑問符がでていた。
起きた直後に、老害から"稼がせてもらった礼じゃ"といって馬乳酒をもらった。濃いヨーグルトの様な味わいが美味いが、なんせクセが強く匂いがきつい。男はこう言うクセのある食べ物は好物なので意にも介さなかったが、老害からの意外なサービスに、老害から老人に表現を改めてやる事にした男は、今日の予定を考えていた。
えっと、ハンターユニオンに行くでしょ。服を買うでしょ。ゴダイゴ銃砲店にお礼参りして、電脳の機能も確認しなきゃな。
まずは、服だな。そういえば風呂入りたいけど、この世界なさそうだよな。水貴重品っぽいし。一応老人に聞いてみるか。
「すんませんが、トイレってどこですか?」
「外の小型のテントですよ」
「あと、風呂なんて流石にないよね?」
「マーケットの西側ですよ。昼間からお盛んですな〜まだ早いから女の子出勤してないんじゃないんですかね?やっぱり夜まで待たないと」
「ごめんその情報嬉しいんですけど、今知りたいのはそっちじゃないんですね。でもありがとうございます覚えておきますよ。んで、普通の風呂は?」
「ふぉっふぉっふぉっ、ここから少し北に行ったとこにありますよ。湯に浸かる様な贅沢な風呂ではごさいませんが」
蒸し風呂って事だな。やっぱり水は貴重品か。ま、風呂は今日の夜にでもするか。
「わかった、ありがとう。そろそろ出発するよ」
「へい、日没前でしたらゲルも空いてるでしょうから」
「足元見られて、ぼったくられてんのに来るか!でも、馬乳酒悪くは無かったぜ」
老人は微笑み手をふりながら"また来る事になりますよ"と呟いたが、男の耳には届かなかった。
まずは服だなとドンキーホームに来てみればまだ開いていなかった。マーケットも人がまばらだ。
先にハンターユニオン行こうかとも思ったが、道端の瓦礫に腰をかけ電脳の確認を優先することにした。
寝ていたせいか電脳が意識外だったが、電脳に意識を向かせると、脳内にパソコンのディスプレイの様な物が立ち上がった。右下角の方に時刻が9:05と出ている。いくつかあるソフト(アプリ)の中でナビゲーションを起動してみると脳内で
"電脳ナビゲーションシステムVer12.5起動"
と機械音声が流れる。
"ユーザー名を入力して下さい"
入力って、この白枠に思い浮かべればいいのかな?
"錫乃介 赤銅"と、当然偽名だ。どうせ戸籍も何もないんだから、適当でいいじゃないか。
"『錫乃介 赤銅』様でよろしいですね。
次に性別を選んで下さい"
男 女 オカマ オナベ アンドロギュヌス それ以外"
ここまで性別揃っててそれ以外ってなんだよ。"男"っと
"それではナビゲーション音声の選択です"
デフォルト
ギャル風
メイド風
執事風
オカマ風
子供風
幼女風
魔王風
女王様風
恋人風
熟年夫婦風
etc…
試しに魔王風をポチる
"フハハハハ!よくぞここまで来た勇者よ!我がこの世界を案内してやろう!"
勇者じゃねーし、ポチッ
メイド風
"おかえりなさいませご主人様!これから私がこのお屋敷をご案内致しまっ、キャ!転んじゃった!"
ドジっ子メイドか、芸が細かいな、ポチッ
恋人風
"ねえダーリン最近お小遣いたりなくて、これじゃ夜の案内できなーい"
これ恋人じゃなくて愛人だよね?、ポチッ
熟年夫婦風
"あらあら、もうこんな時間。あんた早く準備しなさい。チョッキきた?防弾防刃じゃないとだめよ?グレネード忘れてない?RPG忘れてるわよ!"
今の熟年夫婦ってこんなんなん?ポチッ
女王様風
"今度の家畜はより一層豚野郎だね、このワタクシにナビしてもらいたければ跪きな!頭が高いんだよ!ビシッ!
痛っ!電気ショックきたよ。ポチッ
このナビ作ったやつ頭膿んでるよな。
デフォルトでいいよ。飽きたら他のにすりゃいいし。
"ナビゲーションの名前を入力して下さい"
面倒くさいから"ナビ"でいいよ。
"初期設定が完了しました。まずは脳内でナビを呼び出して下さい"
はいはいそれじゃ"ナビ"
"はい、錫乃介様宜しくお願い致します"
よろしく、まず早速聞きたいんだけど、君って何ができるの?
"はい、私ナビは一言で言うなら、電脳内のソフトとユーザー様の間に摩擦が生じないようにするための潤滑油といったところです"
面接かよ。具体的には?
"例えば、錫乃介様の足元に生えている草、アルテミシアというのですが、これを調べるためには植物アプリを立ち上げていなければなりません。仮に立ち上げていれば、見ただけで名前と分類くらいはわかりますが、それ以上詳しく調べるには脳内で検索閲覧しなければなりません。更に栽培法やアルテミシアにまつわるエピソード、その他動植物との関わり、薬効、毒性、食用か否か、食用の場合調理法は?となると別のアプリを立ち上げる必要が出てきます。
これらの手間を私ナビが一手に引き受け、他のアプリを立ち上げていなくても、錫乃介様が私に聞くだけで要点をまとめお応え出来る様になる、そういうシステムです。更に外部記憶のオペレーションも行っていますので、錫乃介様が意識せずとも見たもの聞いた物などを集積分類分析をしています。ただ、あくまで脳内にあるアプリやソフトから情報を引っ張ってくるため、私自身にそれらデータがあるわけではありません"
成る程人工知能持ちのWikipediaってところだな。ネットに繋がってるわけではないんだね?
"ネットと申しますと、過去にあったインターネットやWebと称されるものでしょうか?"
そうだけど、その言い方だとまさか今ないの?
"はい、インターネットやそれに伴う無線系の通信は全て現代では、機能しておりません"
ふゎーーーーーい⁉︎
あれだけ、世界中に張り巡らせたネットワークが?衛星や光ファイバーはどうなったん?
"そのご説明にはお時間かかりますがよろしいですか?"
ああ、時間ならいくらでもあるから頼むよ
そう言うと、ナビは淡々と語り始めた内容に衝撃を何度も受けることになる錫乃介であった。
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