第3話

酒場の扉を開け入ってきた黒髪の男。

口まわりから顎にかけてたっぷりと黒髭を生やし、右の頬のあたりには大きな切り傷の跡があった。

一見するに直ぐわかる危険な男だ。


その男の危険な雰囲気から、これは先程の喧嘩のように簡単には収まらない事態が起きるだろうと俺は確信した。


そしてその男の後に続くようにぞろぞろと男達が入ってきた。

その男と合わせて全員で六人か…。


元ヒットマンというのは鼻が聞く。広い海の中でも血の匂いをかぎ分けられる鮫のようなものだ。

彼らからは血の匂いをする。

どうやら彼らはギャングのようだ。

彼らの中でもやはり1人異質な雰囲気を放っているのが一番最初に現れた黒髭の男だ。

彼がこのギャング達のボスなのだろう。


そんなギャング達の登場に酒場は緊張感に包まれ、誰しも言葉を失っている。


「一体何の用だ?チャールズ」


そんな静寂を破ったのは俺の隣にいるジョニーだった。


ジョニーが黒髭の男に憮然とした態度で話しかける。


しかし黒髭の男、チャールズは何も答えずにニヤリと不気味に笑っている。


するとチャールズの後ろから部下の1人が、ニヤニヤしながら俺とジョニーの居るカウンターの方へゆっくりと近づいてきた。


その男は、俺達の目の前までやって来た。

そして男はジョニーよりも彼らの手前側に居た俺の肩に自分の手を乗せ、さらに一歩体を密着させた瞬間に

「邪魔だ」

と俺の肩を後ろへ、グイと引っ張った。


俺はその男にされるがままに後ろへ派手に投げ飛ばされた。


そしてついにチャールズはその口を開いた。


「何の用かだと?ジョニー」


チャールズは不気味な笑顔を崩さずにジョニーに問いかけた。


そしてジョニーの返事を待たずにまた続けた。


「ジョニー。お前にはこの町の保安官を辞めてもらう」


その言葉を聞いてジョニーは怒気のこもった声でチャールズに言った。


「なんだと!?ふざけるな!この町の保安官は俺だ!!」


そんなジョニーに言葉に全く怯むような様子も無いチャールズは


「ならば親父のようになるか?」


とニヤつきながら言った。

その言葉を聞いたジョニーは更に怒りを増して、怒鳴りつけた。


「なんだと!?貴様…!!」


またチャールズが続ける


「お前の親父も正義面した頑固な野郎だったなぁ。ジョニー?お前は親父のように俺に逆らって死にたくは無いだろう?死にたく無ければ今すぐこの町から出ていくんだ」


なるほどジョニーの親父は亡くなっていると聞いていたが、それにはこのチャールズが絡んでいたのか。


「保安官になろうが、俺にとっては目の前で俺に親父を殺されて、めそめそ泣いてやがったあの頃の餓鬼のままだよお前は」


「この野郎!」


ジョニーの手は腰の拳銃を握りしめている。

いつでも抜ける形になっているが、それはチャールズ達にとっても同じこと。


余裕のある態度を崩さずチャールズが言った。


「まぁ待てよ、今この状況を考えろ。6対1だぞ。俺1人撃ち殺せたとしても確実にお前は死ぬぞ。」


たしかにチャールズの言うことは正しい、仮にジョニーがどんなに早く拳銃撃てたとしても、自分が弾を喰らわずに6人の人間を倒すことは不可能だろう。


ジョニーもその事を理解しているからこそ、拳銃を抜けずにいる。


そんなジョニーを見てチャールズは


「そこでだ、お前にはチャンスをやろう。俺とお前の一対一の決闘でこの件のケリを着けよう。お前が勝ったら俺が死のうがどうなろうが、コイツらは一切の手出しをせずにこの町から去っていくと誓うよ」


と提案したのだ。


「ふざけるな!お前の言うことなど信用出来るか!」


「なら今ここで蜂の巣になって死ぬか?あぁ!?」


チャールズは、ジョニーとは違い拳銃に手をかけることもせず両手を大きく広げてまた続けた。


「ジョニーよ。俺は確かに悪い人間かもしれない。しかし卑しい人間では無いのだ。俺がお前と一対一で決闘をすると言ったら、ちゃんと決闘をする男だ。決闘するのはお前にとってもそんなに悪い話じゃないだろう?」


たしかにチャールズの言う事には一理ある。

このままジョニーが拳銃を抜けば死ぬことは確実だが、決闘でチャールズに勝つことができれば死なずに、チャールズ達はこの町を去り、保安官を続けることもできる。


結局ジョニーはチャールズとの押し問答の末に決闘を受けることを選んだ。

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