足切りポイントその3 最低限の文章なるもの

 文章さえまともに書けていれば一次選考は通過する。前にどこかでそう聞いたことがあります。でも実際にウェブサイトで応募作品を読めるようになると、かなり文章の上手な作品も一次選考(読者選考ではない)を落ちていることがわかります。また異世界転生小説などでは、明らかに文章レベルの低い作品が書籍化されています。

 これはどう考えたら良いのでしょうか。


 まず、いつものように定義に戻りましょう。

 一次選考の目的は書籍化できない作品を足切りすることです。逆に言うと『書籍化できる文章力がなければ落とされる』ということになります。


 それでは書籍化できる文章力とは、どのようなものでしょうか。

 よく、文章なんて入賞した後でどうせ直されるのだから同じじゃないか。そう言う人がいます。また、新人賞に関わるプロの作家でも、文章の上手い下手よりも作品のパワーが大切だと言っているのを聞いたことがあります。

 しかし、どんなに稚拙な文章でもいいわけではありません。誤字や言い回し程度ならともかく、文章を直すにも限界があるはずです。また、最終選考から参加する作家はそもそも足切り後の作品しか読んでいません。つまり問題は文章力のレベルなのです。それは実際に書籍化された作品が物語っています。


 まず小説として読むことができ、キチンと完結していること。キャラクターや世界設定を読者が理解できること。そして誤字や読みにくさなどの問題がある場合は、少なくとも短期間の改稿で修正できること。

 書籍化を前提とする場合、それが最低限のレベルであると考えられます。


 ウェブ小説サイトが興隆する以前の時代において、公募作品のレベルは必ずしも高くはなかったと思います。筆者もかなり昔の公募では、ただ小説として読めるだけの小説で一次選考を突破した記憶があります。文章の選別だけで予定の通過作品数まで絞れてしまうのであれば、実質的にそれは一次選考とほぼ同じ意味を持つことになります。『文章さえまともに書けていれば……』とは、たぶんその意味でしょう。


 また、一次選考の目的はあくまで書籍化可能な作品に絞ることであり、高度な文章力を競うことではありません。

 異世界転生などのいわゆるテンプレものは、世界観もキャラクターもみんなそっくりです。転生モノのマンガ化作品を拾い読みすることがあるのですが、たまに、どれがどの作品だったかわからなくなってしまいます。しかし、これは逆に言えばキャラクターや世界設定を読者が勝手に理解してくれるということです。他の作品を読んでいる前提であれば、重ねての説明はむしろ不要になります。当然、その場合は文章力の足切り基準はかなり低くなるはずです。


 それでは一次選考を突破するには、どの程度の文章力があればいいのか。

 仮にカクヨムのレベルが公募のレベルとほぼ同じで、一次選考を突破するのが10%だとすれば、上位10%の文章力を身につけるのを目安にすれば良いと考えられます。

 ただし短編ではなく、長編を書く能力です。短編でいくら美しい文章が書けるからといって、必ずしも長編小説を書く力があるとは限りません。



 それでは、この章のまとめです。

 

 一次選考を突破するためには、最低でも短期間の修正で書籍化が可能になるくらいの文章力が必要である。異世界転生などの小説は、テンプレをすでに知っている読者が対象なので、文章力の足切り基準は低くなる傾向がある。


 さて、次回は上級者でも陥る罠。カテゴリーエラーについて考えてみましょう。


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