1ー5 風呂場にて、自分の肉体改造を誓う

 ミナミだった頃。部活から帰ってくると、真っ先にお風呂へ突入していた。

 汗や汚れや匂い、それに疲れ――それらを一気に洗い流してくれるのが、お風呂だった。


 そして現在。グリシーニャ国にもお風呂はあるけれど、それは日本のお風呂とはだいぶ違う。

 蒸し風呂――つまり、サウナみたいなものだ。

「これはこれで気持ちぃけど……やっぱ、お湯につかりたいなぁ……」

 誰もいない浴場で大きく伸びをしながら、あたしは小さくぼやいた。

 確か、国内には温泉もあったはずだけれど、あくまで療養施設という扱いだ。気軽に遊びにいくような場所ではない。

「これから先、お風呂につかることができないってのは、地味に辛いなぁ」

 ぐいぐいっと身体を動かしてストレッチしていると――ふと。真っ白な腕が視界に入った。


「……ほっそ」

 馬車から投げ出されたときも思ったけれど、ひょろっとし過ぎ。そのまま視線を下げ、珠のような汗をかいた身体全体をじろじろと眺める。


 全体的に細く、骨格が小さく感じる。余計な肉はついていないけれど、筋肉も必要最低限しかついていないという感じ。胸もお尻も控えめで、モデル体型というか。太ももなんてミナミの半分くらいの太さしかない。


「なんか……頼りないなぁ」

 まぁ、貴族のお嬢様なんだから仕方ないんだろうけれど。

 大して役に立ったわけでもない身体は、すでにあちこち痛くなっている。


 プラチナブロンドの、軽く波打つ豊かな髪。染み一つない肌。大粒のアーモンドのような形をした、緑色の目。


 お母様のことなんて言えないくらい、ジェンツィアナだってお人形みたいだ。


 それはそれで、綺麗で見映えがして、素敵なんだけど。そんなあたしはちょっと、もの足りない感じがして落ち着かない。


 貴族のお嬢様は、守ってくれる存在がたくさんいるって、今日のことで理解した。

 同時に、自分のことを自分で守れない――その情けなさと恐怖を感じた。


 柔よく剛を制すとは言え、一人目の強盗をあんなにも簡単に投げ捨てられたのは、強盗が油断しきっていたからと、タイミングがかっちり噛み合ったおかげだと、今なら分かる。

 たったあれだけのことで、背負った右肩は赤く擦れて、動かすとちょっと痛い。

「もう何年も、ほぼ毎日乱取りやってきたっていうのに、情けないなぁ」


 何年もかけて培ってきた技はあっても、土台がこのままじゃ駄目だ。


「まずは、この身体から改造していかないと……!」

 そう誓うと、汲んでおいたぬるい水を頭からかぶり、自分の尻を思いきり叩く。パァンと良い音がして、「うっし」と気合いを入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る