第5話 勇気を出して

 お仕事が終わった上野さんを確認して、勇気を振り絞って声を出してみた。

実は、私、芸能人とかを見かけても声をかけることなんてできず、遠目で見るのがやっとの性格。


「お…、お仕事お疲れ様です」

「お疲れ様です」

っと言って、上野さんは振り向いた。だけど、そこには誰もいない。

「俺、疲れてるのかな?」

彼は、ぽつりと言った。


(やばい、このままじゃ、気のせいって思われちゃう。確かに彼の声を聴いているだけで幸せだけど、私自身この状況どうにかしたい、彼と話せたら何か変わるかもしれない)


「あの、多分なんですけど、見える景色から上野さんの腕時計にいるみたいなんです、私…。」

「はぁ~?」

慌てて自分の腕時計を見つめる上野さん。

(顔が近い…改めて綺麗なお顔…って見惚れてる場合じゃない)


「あの、私も何でこんなことになってるのか、さっぱりわからないんですけど…

ちなみに私の声、上野さんにしか聞こえないみたいです。さっき、アフレコの現場で思わず声出したとき他の人は誰も気が付かなかったから…」

「君は誰?声は聞こえるの?景色も見えるの?」

沢山の疑問符だらけの上野さん。


 当たり前だ、私だって疑問符だらけだ。でも、何時間か時を過ごしてわかったこと。私には、声は聞こえるけど、周りの音は聞こえない。視界は文字盤を目にしてる様だ。それから、私は、自分の今の状況をわかる範囲で彼に説明した。そして、恥ずかしながら、彼のファンであることも…。


 (こんなに話せるなんて…。夢みたい~)と、そうこうしているうちに彼の自宅へ着いた。

(そっか、腕時計だもん、自宅行けちゃうわけだよね。めちゃくちゃドキドキです。

 自分の出演した作品の単行本や台本、DVDやCDなんかで沢山の部屋もあったり…。綺麗好きなのかお仕事忙しいわりにお部屋がかなり片付いてる。はは…私とは大違い…)






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