第6話 初めての彼の家

 上野さんの自宅に到着して、

「ここからは周りを気にせず、お話できるね」

と、彼は優しく語りかけてくれた。


(やっぱり優しい…普通こんな得体のしれない事態に直面したら、こんなに優しくしてくれないよ…)

私も彼に申し訳なさ過ぎて、

「あの~お仕事お疲れでしょうし、お食事とかお風呂とかお休みの支度ができてからじっくりお話聞いてもらっても…」

と言ってみた。

「食べながらでもお話できるよ、あっ、でも先にお風呂だけ行ってくるね」

っと言いながら彼は、浴室に向かって行った。


(きゃ~も~私の変な気遣いを気が付かれてる~

 今お風呂中か~なんて腕時計の私がドキドキしてしまった。秒針早くなっちゃうよ(笑)っとむっつりな私が出てきてしまった)



浴室から出てきた彼は、汗を拭きつつ、手際よく料理を自炊。料理が趣味というのはやっぱり本当だったんだ~と思いつつ、料理をテーブルに置き、そして私もテーブルに置いてくれた。しかも文字盤を彼に向けてくれて…

(ちゃんとお顔見ながらお話聞いてくれるんだ~こういう小さな気遣い嬉しい)

こうなる直前の私の記憶は何もない。一体、他は何を話せばいいのかな~)

と思っていたら彼から、

「ご家族の連絡先って記憶ある? 君の心は今ここにあるけど、君の体が今現在どんな状況なのかが知りたい。それによってこれからどうしたらいいかもわかるかも知れないし…」


(私も、恐々思っていた、私ってもうこの世にいないからこんなことになってるのかな…私も知りたい…けど怖い。知ってしまったらどうにかなってしまうのかな…)

「不安…だよね…もう少し落ち着いてからにする?」

彼の優しい声が本当に響く…。

(でも、私の記憶いつまであるかわからないし、人の姿だった時から、記憶力はいい方じゃなかったから、覚えてるうちに言わなきゃ。)


「旦那の携帯番号なら、覚えてる。」

と、ぽつりと私は言った。

彼はすかさず、メモを取ってくれた。

「まだ、夕方だし、早速電話してみてもいいかな?」

(怖いけど進まなきゃ…上野さんだってこんなに協力してくれてるし、私だって決心しなきゃ!!)


「お願いします」

決心して私は言った。






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