第18話 認める
そうやすやすとできるとは思っていなかった。だが、この問題に関しては自分の力でどうこうなる問題ではなかった。自分の周りに集まるのは、王の側近ということもあり、優秀な人間ばかりだった。
「・・・・なかった・・」
自分には能力がなかった。たったそれだけのこと。自惚れていた。対して経験も、知識もないくせに周りの優秀さに劣等感をいだき、自分の弱さ、醜さから目をそらしていた。そして、いつの間にか自分に出来ないことはないと錯覚するようになっていた。
なぜ人は弱さを恐れるのか、なぜ人は他人の優秀さを認められないのか、なぜ人は集団に紛れようとするのか。長年考え、悩み続けてきた。
「だが、答えはシンプルだった」
誰よりも強く有りたい、劣等感から逃げ続けることで、自分の弱さと見つめ合わずに済むから。本当に強い、優秀な人間ほど弱い人を認め、自分の弱い所を許さない。
「いや、違う。弱者を認める、自分の弱点を許さない、それができる人でなければ強くなれない」
自分は強さばかりを求め、弱い自分から意識を遠ざけていた。それが自分の弱さでもあった・・
「ハルヤ、君はそんなふうになるな。今からでも良い、自分を見つめ直してみてくれ。きっと本質が見えてくるだろう」
「・・・・・・」
ハルヤは返す言葉がなかった。グロッケンの経験は他人事とは思えなかった。つい先程まで過去へいき、自分の弱さを痛いほど思い知らされた。
「忘れていたな、この世界について知りたいのだろう。知る限り教えよう」
当時自分は、世界を変えるため、全貌をつかもうと死力を尽くしていた。バリアのこと、魔族のこと。
調査を始めて5年がたったある日。一つの情報を手に入れた。バリアについての情報だった。
100年前、古代の人間が住む世界にダンクと呼ばれる未確認生命体が交渉を行うため、古代の世界にやってきた。交渉内容は、人間の行動範囲をせばめる代償として、魔族を支配する力を託すことだった。
その生物は圧倒的な技術、文明力を誇っており、古代の人間はその力に圧倒され交渉に応じてしまった。
そして、100年の時を経て、その能力を自分が引き継いだ。獲得当時は国に配属された時同様、荷が重く、上手く使いこなすことができなかった。一ヶ月後たった頃、ある問題が発生した。
完全に魔族を封印するためには、室内から人間が魔族を力でおさえ魔術――封印魔法を使うことが必要だった。建物はその当時の最高建造物である塔が、選ばれた一人はもちろん力をもっていた自分だった。
ここしかない、そう思い腹を括った。これまで自分は、周りの足を引っ張り何人も味方を魔族の餌食にしてきた。その仮を返す、その一心で自分が犠牲になることを決めた。命を捧げ、国を救う、そうすれば自分はやりきった気分で死ねる、そんな甘い考えを持っていた。
しかし現実は上手く行かなかった。封印は作戦通り終わり、無事魔族を強制的に抑えることが出来た。だが、自分は死ねなかった。自分はみんなのために死ぬことも出来ないのか、なんのために生きているのか、絶望の淵に立たされた。重傷を負っても回復は早く自分では死ねず、内側からの干渉が出来ないことから脱出も出来なかった。500年間考え続けた。自分は何が出来たのか、何が悪かったのか、何をすべきだったのか。それを考えてももう遅かった。
「最後に情報を一つ」
それはバリアを壊す――この世界を開放する方法だった。こことは違うまた別の世界には、賢者の石が眠る伝説の部屋があるという。その賢者の石により、物理的にバリアを破壊可能な力を手に入れることができる。その世界に行くためにはグロッケンが殺し、権限を手に入れることができれば移動可能となる。
「このダンジョンにはこれまで、何千人と攻略に挑戦してきた。1000人を超えたあたりで私はある決断をした。この部屋に初めてきた者に自分を、殺してもらおうと・・・・」
「そんな・・俺に殺しなんて・・」
「もういいのだ、私は人間でも魔族でもない。いまや死ぬことのみの屍同然なのだから」
もう疲れた。それが今の本音だ。1000年間たくさんの後悔をし、長い間悪夢を見ているような感覚を覚えた。暗闇に生まれたからには暗闇で死にたい、それがいまの唯一の願望なのである。
「この剣を使いたまえ、通常の剣より強力なはず。私を殺したら戦いに使うが良い」
ハルヤは剣を受け取り、最後にグロッケンに別れを告げた。
「さあ! 一思いにやってくれ!!!」
ハルヤは勢い良く剣をグロッケンの腹に突き刺した。
”ブシャッ”
大量に血が吹き出した。長期間生きさせられたグロッケンの血は青く、濁っており、不思議と寂しさを感じた。
グロッケンは光となり、パリンと音を立てて消滅した。
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