第17話 初代王
ようやく過去に別れを告げ、前に進みだしたハルヤ。とはいえ、まだまだわからないこと、知らなきゃいけないこと、たくさんあった。
「教えてくれ、お前が誰なのか、この世界はどうなってるのか」
グロッケンはそうか・・とうなずくと石畳の上に椅子とお茶の乗った机を出した。
机に置かれたお茶をズズッと一口飲むと、グロッケンは真剣な面構えで話を始めた。
「始まりは今から1000年前のこと・・・・」
誕生は突然にやってきた。長い間暗闇の中に一人でいた。その頃は長い悪夢を見ているような気分だった。そんな中、一つの光が暗闇に灯った。その光は、尊く、そして温かみのある色をしており、言葉さえなかったが自分を読んでいた気がしたのだ。警戒しつつも恐る恐る光に近づくと、突如として光は大きくなりみるみるうちに体を飲み込んだ。しかし、自然と恐怖はなく、どちらかといえば幸福感で包まれるような気分だったと今は思う。
目を覚ますと、何もない部屋に寝転がっていた。その部屋を見渡すと、端の方に大きな服で顔を隠した生き物が立っていることに気がつく。不思議な感覚。この男を見ていると全てを見透かされて居るような、でもそれは不快感ではなく、どこか安心感を感じた。
名前を尋ねると、男はなんとか聞こえるほどの声で、”フィル”と名乗った。部屋に招いたのはどうやらこの男らしい。
「なぜここに私を?」
フィルはスッと両手を上げると何やら光の板らしきものを生み出した。すると、おもむろにその板を触り始めた。世の中にはこんなものがたくさんあるのか、と感動したのを今でも覚えている。確かにそれは光の板で、見た所どうこうできるものではなかった。しかし男はそれを使い、作業をしていた。間違いはない。
「な、なにをするんだ」
あまりの驚きにまるで疑っているのかのように聞いてしまった。先程までは一枚の板だった光が広がり、二枚目の板へと変わった。二枚目の板には町――国の城のようなものと、城下町が広がっていた。
「なんですか? これは」
フィルは質問を聞いて重い口を開いた。
「これは、お前の国」
自分の国。それはこの世に降り立ったばかりの自分には到底荷が重いものだった。第一フィルの招待を知らない状態では信用にも値はしない。まずは質問をしよう。話はそれからだ。
「一つ、いやいくつか質問をさせてもらいたい」
自分はこの世を知らない。よってこの者がどんな者かを知らない。そのため、質問を求めることぐらい簡単だった。それよりも、この男には自分は殺されない、そんな確信があった。それに加え大事にはしてもらえることもないだろうという検討はついていた。
フィルはokサインのつもりなのか、コクンとうなずいた。
「まず1つ目、ここはどこだ」
場所がわからなかったから聞いた。この質問には特に意図はなかった。もっとも、この世を知らない自分には場所を聞いた所で検討がつかないことはわかっている。
フィルはまた板を操作し、ここと言うように地図を指さした。しかし、
「何も映っていないではないか、もう良いこの質問はやめよう」
ふざけていると感じたため、質問を変えることにした。
「どうやって私を見つけたのだ」
この質問に関しては自分の興味でもあった。客観的に、自分はどう見られているのか。単純だが、暗闇にいた自分にとってはとても重要なことだった。外から見える世界と自分が見られる世界が一致していてはほしくなかった。なぜならそれは、自分の希望が消えることに値するからだ。それだけはなんとしても避けたい。
「そうだな、見つけたと言うより、俺にはそれしか見えなかった。いやなかった」
フィルからは予想外――理解できない答えが帰ってきた。それしかなかった? そこまで追い込まれていたのか? それにしては身なりは悪くない。ではどうして?
その時考えついたのはフィルが自分と同じ境遇ということ。もし、フィルも一人だったら? もし、フィルも暗闇にいたとしたら? そんなことを考え始めると疑問が増えるばかり。これでは自分を催眠しているようなものではないか。
「これでは質問の意味がないではないか。答えたくないのだな、無理して聞くのはやめるとするか・・」
無理な話だ。自由もなかった場所――暗闇に捕らえられていた自分が、この世に降り立ったばかりの自分が、何も知識もない自分が国を任されるというのだ。
その後、フィルは光となって消え、自分は無事国の王へなる、と思っていた・・・・
期待を膨らませ、たどり着いた王の座だったが、そううまく行くものではなかった。
理由は主に2つ。
国民との価値観が合わない――
知る世界は暗闇のみ、そう簡単に外の人間と馴染めるわけもなかった。ただ言えるのは、自分には適応能力がある。最初は困惑していたものの、王を努めて1年立った頃には大抵のことはできるようになっていた。
そしてもう1つは・・・・
「王グロッケン様!! また領地に侵略者が!!」
そう、この国は・・・・
”魔族が支配していた”
「そんな過去が・・」
ハルヤはその状況を自分と照らし合わせていた。自分も異世界にきて間もなく、王政を任され、文化の違い、自分の弱さを思い知った。だからこそ、当時のグロッケンに同情の気持ちを抱いていた。
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