第16話 過去に別れを

「今からだって遅くない!!! 俺が・・俺達が未来を変えるんだ!!」


”ピカッ”


――クソ!! またこれか!!! カズヤを説得するまでは・・・・


ハルヤは必死に説得を試みる。


「もうどうにでもなれ!!」


カズヤは多少躊躇しつつも威勢よく歩き始めた。カズヤの未来を変える大事な時間が今! 始まる!!

 と、思っていたが、この世界であっても結果は残酷なものになった。


――ドクン!!


途轍もない心音がハルヤの体中に響き渡る。その瞬間、視界が闇に包まれた。


「おい!! どうなってんだ???」


消えない闇の中に一つの光が灯る。その正体はあの時――初めにダンジョンで死んだ時と同じ光だった。


――まさか!! だめだ、この光に入っては!!!


ハルヤの必死の抵抗も虚しく、体がみるみる光に吸い込まれていく。


――いやだあああああああああ!!!


「はっ!!」


目を覚ますと視界に入ったのは見慣れた天井、ではなく漆黒の天井だった。

 あたりを見渡してみても、そこは家ではなくダンジョン内だった。


「うそだろ・・・・」


「こんにちは、はじめまして野崎晴哉君」


声が聞こえた方へ振り向くと、一人の男が立っていた。とても長身な全身はすらっとしており、整った顔を白く、長い髪の毛が包んでいる。その風貌は人間というより、オオカミなどを連想させる。


「誰だお前は・・」


ハルヤは白髪の男にそう尋ねる。


「私の名前はグロッケン、初代王国の王でもあり、このダンジョンの創設者でもある。よろしくね」


なんとこの男は初代王を名乗っている。現在の王はスミラ、100代目の王。王の役期は10年やそこらで、魔族に支配されていたときは交代が早かったということを含めても、100代の間初代の王が生きているとは考えにくい。更には、ダンジョンの創設者だということは魔族ということでもある。

 魔族が初代王だったということか? だとしたらなぜダンジョン内にいる必要があるのか。

 疑問はつきないがハルヤが初めに発した言葉は・・・・


「おい!! お前が俺を巻き戻した世界に飛ばしたのか! カズヤはどうなった!!」


ハルヤが初めに気にしたのはこの世界でも、現実世界でもなく、カズヤの安否だった。


「カズヤくん? それならもちろん生き返ったりしてないよ?」


「な、なんだと・・じゃああいつはあの後・・」


カズヤはあれだけの意思、威勢があっても男たちには勝てず死んだというのか??


「ちょっとちょっと、何勘違いしてるの?」


「何って、あの世界でカズヤが生きてるかどうか以外あるかよ」


論外な質問をしてくるグロッケンに対し、ハルヤは苛立ち気味に回答した。


「違う違う、何を舞い上がってるのか知らないけど、あの世界でカズヤくんが生き延びる方法もないし、君ができることはないよ?」


グロッケンの一言は驚き、という単純な言葉では片付けられないものだった。あれだけ――自分の命を三回も捧げたものが無意味だったということになる。


「どういうことだよ・・じゃあ、もうカズヤは・・・・」


「そんなのはハルヤくんが一番わかってるじゃないか、カズヤくんは10年前に死んだ、死んだ人間は生き返らないし、生き返る権利もない。それぐらい常識でしょ」


「常識なんて、どうでも良いんだよ!!! じゃあなんで、なんで過去になんか飛ばしたんだよ・・・・」


”バキッ!!”


グロッケンはハルヤが言い終わる前にこれでもかと言うような力でハルヤを殴った。


「何を言ってるんだい君は!!」


「殴るんじゃ・・」


「お前は!!!!」


またもハルヤの言葉を遮りグロッケンは怒鳴る。


「お前は!!! 過去で何を見てきたんだ!! 俺がお前をあの世界に飛ばしたのはカズヤを助けるためでも、お前のカズヤに対する償いを手伝うことでもねえんだよ!!!」


「じゃあ何なんだよ・・もうわかんねえよ・・」


「まだそんなことを言ってるのか!! もうわかってるだろ!! 死人は戻らないし、過去の間違いは直せない!! そんな現実を・・残酷な現実を・・お前が知る必要があったからだよ!!!」


「現実・・」


「カズヤを助ける? 未来を変えるだと? なめてんのかお前は!! お前みたいなやつに何が変えられる?!! 何もないだろ!?? それがわかったら黙って現実を受け入れろよ!!!」


受け入れる。その言葉を聞いてハルヤは返す言葉がなかった。カズヤが死んでから10年、嫌なことからは逃げ、カズヤを感じるものから距離を取っていた。表面上はカズヤは死んだと理解していても、心のどこかでは生き返る、自分を許してくれるなど甘い考えをしていた。自分で理解していたからこそ、認めたくはなかった。


「カズヤの両親はお前のことを責めたりしたか? お前の母親はお前を見放したりしたか?  してないだろう!!」


「皆全員、お前が罪悪感に苛まれることを望んでなんかいなかったからだろ・・・・分かれよそれぐらい・・」


グロッケンは口調さえ攻撃的だったものの、ハルヤの弱い所を優しく、包んでくれていた。


「カズヤ・・ごめん・・勘違いしてた・・もう引きずったりしない・・・・」


グロッケンの思いを受けとったハルヤはようやく”自分”に勝ち、過去に別れを告げることが出来た。


「それでいいんだ・・・・それで」

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