第19話 2000年前

グロッケンが死んだ時、一つの光が残った。光はハルヤの体へと吸い込まれていった。また過去へ送られるのかと多少身構えたが、何かが起こることはなかった。


――なんだったんだ今のは・・・・


ハルヤは部屋を後にした。しばらく歩いていると、異変に気がついた。


”壁の目がない”


それはボスへ挑戦する前のこと、壁中にギョロッとした目があることに気が付きリバースをしていた。だがそんな思い出の――気持ちの悪い目がなくなっていた。見間違いではなかったはず。その証拠に目があっただろうと、予想できる穴が無数に存在していた。


――目だけ取れたのか? だとしたらどこに?


異変は一つだけではなかった。ボスにたどり着くまでのモンスターは、倒してはいたものの、目印となるためドロップアイテムは取らずに置いておいた。しかし、それがなくなっていた。おかしい。本来、ドロップアイテムは丸1日残っているはずなのだが・・・・ 何より、ユルがいない。ダンジョンをともにし、ボス部屋にも一緒に入ったはずなのだがいつの間にかいなくなっていた。

 まず、過去に行っていた時間はどのぐらいだったのだろうか。感覚的には1ヶ月程度。


――先に帰っちゃったのかな・・ 無事だといいけど・・


段々と入り口に近づいていくに連れて、寒気を感じ始めた。その寒さは外からの冷気の影響だった。


――挑戦する日は時期的にも暖かったはずだぞ?? 一ヶ月でこんなにも気温差があるのか?


先程から何かがおかしい。外の世界で何かあったのか?

 そう思い、急いで出口まで駆ける。


出口を出ると、目を見張るような光景が広がっていた。

 ハルヤの視界にはほとんど何もなく、あるのは大量の瓦礫と、家が一軒のみだった。


――どうなってるんだ?? 何もないじゃないか・・・・


スミラは? ロゼは? 屋敷は? 王城は? 家は? 何もかもがない。どうしてこんなことに。

 こうしていても何も進まない、まずは唯一存在する家へ向かうことに決めた。”家”とはいっても明かりが灯っているのかもわからない、いわゆる廃墟らしい家だった。屋根は所どころ欠けており、壁には無数のヒビが入っている。今にも崩れそうだ。


”コンコン”


カビかけているドアをノックし、移住者がいないか確認を行う。返事はない。

 もう一度試みるが、返事は帰ってこない。鍵が空いていたということもあり、中に入ることにした。

 内装は外見ほど古くさくはなかった。机を4つの椅子が囲み、キッチンは案外きれいにされている、ごく普通のリビング。ホコリを、まんべんなくかぶったベッドが置いてある寝室。トイレ、シャワールーム、そして地下室があることに気がついた。


地下室、とはいっても特に何かがあるというわけではなく、棚がいくつか、唯一特徴的だったのは大きめ――バレーボールほどの石が一つ部屋の奥に置かれていた。棚の中も、石も、気になることはあるが部屋の中にはランプもなかったため、詮索はしないことにした。ただ、玄関に気になるものを見つけた。それは新聞? らしきもの。重要なのは存在自体ではなく、その新聞の発行日だった。

 異世界に転生した日から、2000年前。


――何が、何が起こっているんだ・・また・・また過去に来てしまったのか・・


また、といっても今回は異世界の過去。それだけではなく巻き戻った時代が桁違いだった。

 唯一知っている異世界の過去は、グロッケンの1000年前。その倍以上の時間を巻き戻ってしまった。


――どうするどうするどうするどうするどうするどうする・・・・


尋常じゃないパニックを起こし、頭が真っ白、いや、もはやこれは真っ黒だ。お先真っ暗じゃあないが、どうにもなにも手がかりのない状況から進むことなど、不可能に近いと思ってしまう。第一どこだここは、本当にあの町なのか、どうして過去なのか、どこが本当の世界なのか、だが今はそんなことはどうでもいい。今自分ができることは一つ、賢者の石を求め伝説の部屋へ行くことのみ。

 どっちにしてもここにいてなにかができるというわけでもない。とにかく、別世界に行こう。先程、グロッケンから受け取った光で能力は得た。やってやる。


”ドクン”


とてつもない心臓音とともに、視界が塞がれた。 


誰かの叫び声が聞こえる。ひとりじゃない、たくさんだ。初めての声じゃない。何回も、何回も、何回も聞いた、その叫び声を聞いていると生きている心地がしない。

 かすかにその中から囁き声が聞こえる。よくききとれなかったが、とても重要な気がする、これも初めて聞く声じゃあない・・誰の声だ? 


お前は誰なんだ???


視界が戻り、目の前には広く、そして心地の良い風が吹く大地が広がっていた。


――来たか、別世界!!


目的は賢者の石を見つけること、それだけに今は労力をかけよう・・

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