第13話 親友を救うために

「はっ!!」


目を覚ますと見覚えのある天井が視界に入った。現実世界の家だった。

 これはもしやと思い、カレンダーを確認する。


――やっぱりだ・・


死んだことにより、時間がまた巻き戻されたのか前回目覚めたときと完全に状況が一致している。

 これは好都合だ。チャンスがもらえたのだ、今は疑問などどうでも良い。

 

前回わかったことも含め、再度状況把握及び作戦を立てることにした。

 

現実のカズヤは事故により死亡する。前回それを防ぐため場所、日程を変えたことにより、裏の組織に目をつけられハルヤは死亡した。


――ん? カズヤは前回どうなったんだ?


少なくともハルヤは暴行により死んだのを体感した。しかし、カズヤに関してはいつ死んだのか、ましてや本当に死んだのか確認が不可能な状況である。それを確認するためにも自分も生きる作戦を立てる必要があった。


二回事故、事件が起きた中で共通して言えるのは「約束」が死を招いているということ。

 カズヤは毎回20日の1時に約束をしている。ではそれをしなかったら?

 具体的には、カズヤを避ける、もしくは嘘の予定を伝えカズヤが引っ越す頃まで会わないという選択肢。後者は個人的にもカズヤ的にも残酷な選択となるが、カズヤが生き残る可能性はかなり高い。約束をしないことでカズヤが死に近づくこともない、そう考えた。


8月20日午後1時


「ハルヤ、今日の放課後大切な話があるから家に来てくれない?」


カズヤが毎回のようにハルヤを家へ誘う。


「ごめん、俺んち今日からしばらく旅行行ってるから行けねえわ、ごめんな」


ハルヤは作戦通りカズヤの誘いを断る。


「旅行っていつまで?」


「うーんいつまでかはわかんないけど、結構長いって言ってたな」


「そんな、それじゃあ・・いやなんでもない、よく考えたら旅行から帰ってきてからでもいい話だった」


カズヤは気を使ってか、嘘をついてその場を収めようとする。


「そ、そうか、じゃあ帰ってきたら教えてくれよな」


「うん!!」


ハルヤは無理に笑うカズヤに目を合わせないようその場を後にした。


――ごめんカズヤ、でもお前が生きてくれるなら俺は何でもするって決めたんだ、もう甘えたりしない。


「ハルヤ!! いつまで寝てるの?? 学校遅れるわよ」


母がなかなか起きないハルヤを見かねて起こしに来る。


「だめだ、今日からしばらく学校には行けない、カズヤの命がかかってるんだ」


”ピカッ、ピカッ”


光が止まらない・・


「何を言ってるの? 良いから行きなさい」


”ピカッ”


ようやく止まったと安心していると、ハルヤは無理やり母に学校に行かせられた。当然、素直にまっすぐ学校に行くわけもなく途中にあるショッピングモールで時間を潰した。

 学校が終わる時間になるとハルヤは自宅に帰った。


「ハルヤ!! 学校から来てないって連絡があったけど、どこでなにやってたの??!」


母は問い詰める


「だから、カズヤの命が危ないんだって、明日からは絶対に行かない!!」


ハルヤはそのまま自室に引きこもり、カズヤの引っ越し日である8月25日まで待つことにした。


「ハルヤ、もう無理に行かせたりしないから・・説明してくれない?」


母が悲しそうな声でハルヤに話かけてくる。やりすぎた、と少々の後悔を感じながらハルヤは自分が未来から来たこと、未来でカズヤがどうなるか、やり直しをしていることを説明した。

 すると、


「そうだったのね、お母さんはハルヤを信じたい、いいえ信じてる、だから困ったらお母さんを頼って」


ハルヤは予想外の回答に目を丸くした。てっきり信じてもらえないと思っていた。その時現実世界で母はずっと自分のことを信じてくれていたことを思い出した。父とは自分が小さい頃に離婚していおり、いわゆるシングルマザーだった。引きこもっていたころ、友人、親戚みんなに見放され悪く言われていた頃でも母は自分のしたいようにさせてくれた。そのことを思い出し、よりカズヤを救おうという意思が強くなった。


21日、22日、23日、24日が過ぎた。


――明日か、もうやれることはない後は祈るだけだ、どうか・・どうか生きてくれ、カズヤ


翌日、カズヤは死んだ。死因は事故死。引っ越し場所に移動する際、大型トラックと車が衝突

し、車に乗っていたカズヤの家族は全員即死だったそうだ。


「どうして・・どうして死ぬんだよカズヤ!!!!!」


今回に関しては対処のしようがハルヤには思いつかなかった。キーとなっていた約束を避け、20日は事故が起きず、21日は組織ともかかわらなかった。運命ということなのか? だとしたら何が決まっていて、何が変えられるのか。

 

どちらにせよ、カズヤのいない世界に用はない。死ぬことにしよう。


・・・・


死ねない。よく考えてみれば今まで巻き戻しの原因である”死ぬこと”は他者の干渉により起きたこと、もちろん過去に自分で死ぬようなことも無ければ、死のうと思ったこともない。

 これではカズヤを救うどころか何も進まない。どうするべきか。


まず前提として、死ぬことが巻き戻しの条件なのか。死ぬことは結果とするだけで他に条件はないだろうか。


巻き戻し直前――死ぬ直前のことを思い返してみる。

 まず一度目、ダンジョンに置いてグロッケンに腹部を裂かれ、出血多量で死亡。

 二度目は、組織の人間に手足、腹部、頭部を強打され死亡。


――腹部に強い衝撃を与える


これがハルヤの出した結論だ。もし、現実世界でこの条件が適用されるなら数え切れないほど巻き戻しが行われるだろうが、なにせここは仮想現実世界。そんな法則があってもなんら不思議ではない。ハルヤは自分の腹部を殴った。

 直後、意識が朦朧とし、ハルヤはその場に倒れた。


++++++++++++


「はっ!!!!」


目を覚ますと、またもや見覚えのある天井が視界に入った。

 巻き戻しにはなんとか成功した。やはり腹部への強い衝撃が原因だったのである。もし。知らずに別の理由で死んでいたと考えるとぞっとする。


歓喜するのを程々にし、作戦を考え直した。


今回は事故死。約束はせず、全てを避けた結果25日に死亡した。

 25日? この日付をどこかで・・

 そう、始めにカズヤが死んだのは25日。仮に二回目も25日に死んだとすれば25日がキーになることがわかる。


――そういうことか、最初から25日と決まっていたのか!!


20日と21日はたまたま死因となる出来事が起きただけで、それを防いだ所で結果は変わらない。逆に言えば25日がすぎれば死ぬ可能性はなくなるということ。そう考えると重要なのは、25日をどうやり過ごせるかになる。


ハルヤは過去の傾向、これから起きる可能性をできるだけ考慮し、一つの方法を思いついた。


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