第12話 後悔

まず状況確認を行う。

カズヤが事故に合うまで4日、死亡までは9日あるが死因は事故死なため実質的なタイムリミットは4日に絞れれる。

カズヤが事故に合ったのは、ハルヤと約束してから3時間後――午後四時頃のことだ。事故を防ぐために必要なのはカズヤをその時間に外出させないこと。方法は3つある。


1つ目は、学校で大切な話を聞くこと。ハルヤを家に呼び出した理由として、大切な話――引っ越しをすることを伝えるということが挙げられる。そのため、話を早めに済ませてしまおうという方法だ。これは少々カズヤに強制する面があるため、あまり使いたくはない。


2つ目は、通常通りカズヤの家に行くこと。これは最善策に見えるが、カズヤが事故にあった時間にハルヤが行くということは、今度はハルヤが事故に合ってしまう。事故現場の当時の状況が正確に把握出来ていない状況で行くのは危険と判断している。


3つ目は、日程と場所を変えること。あの日が危険と仮定すると、その時間――その日、ついでにあの場所を避ければ事故には合わないという考えだ。


それぞれのメリット、デメリットを出した時、最善なのは3つ目だと判断した。


実行するには具体的な計画を立てる必要がある、それにあたって事故現場の状況を把握することが必要となった。


事故現場は大通りだが基本的に比較的車の通りも少なく、それほど危険性は少ない。しかし、3時から5時頃までは近くの工場の車、トラックなど交通量が増加する。事故を起こした運転手によると、カズヤはハルヤを迎えに行くためか急いで飛び出してきたという。これも日頃の交通量との差が原因なんだろうか。


肝心の集合場所だが。カズヤの家付近には二つ公園がある。片方は大通りの付近にある緑公園。もう片方は大通りからは正反対だが、治安が悪く、親にはあまり近づくなと言われている所にある新城公園。確実に事故あうとわかっている今、治安がどうこう言っている場合ではない。


日にちについては、一日後の8月21日にすることにした。


8月20日午後1時


「ハルヤ、今日の放課後大切な話があるからうちに来てくれない?」


――来たか!! ここは作戦通り実行するぞ・・


「あーごめん、今日家の都合で時間空いてないから明日でもいいか?」


「明日か・・うんいいよ」


「あ、それと集合場所を新城公園にしてもらえるか?」


カズヤは顔を曇らせ、


「いや、あそこ危ないから行くなって言われてるじゃん」


――そうくるか・・でも!!


「前俺が一人で行っても大丈夫だったぜ? 昔の話が今も残ってるだけだって、大丈夫大丈夫」


カズヤはまだなにか言いたそうだったが、しょうがないなと言い首を縦に振った。


――放課後だ・・約束の時間まで30分ある、全力疾走で帰って10分前には居よう。


役所の人並みに時間にシビアになり、急いで約束の公園へと向かった。


公園につくともちろんカズヤの姿はなかった。

 時計を見ると、


――まだ15分前だな、俺やればできるじゃん。


これでカズヤを救うことができる。カズヤが10年前に死んで以来、自分が取った無責任な行動とカズヤに対するやるせない気持ちをずっと心の中に宿していた。それが今日、あと15分ではらせるのだ。この世界で起きることが現実世界にどう影響するのか、異世界は何だったのか、いま現実世界はどうなってるのか、わからないことは山のようにある。だが、何がわかろうが何がわからなかろうがハルヤはカズヤを救いたい、これだけは確かに言える。そう思っていた・・


「おい、坊主、誰に断ってうちの私有地に足つけてんだ?」


ハルヤは誰が言ったのか理解できなかった。わかるのは大柄な男が言ったか、もしくは大柄な男か、はたまた大柄な男か、目の前には同じような男が三人立っていた。三人共、大柄、凶悪というのは共通していた。

 今にも逃げ出したくなるような恐怖に耐え、


「こ、ここは、みんなの公園だ! 私有地なんて嘘付くな!!」


ハルヤは強気に言い返した。


「ほお、威勢の良いガキだな、それなら容赦しねえ、絶対にここが私有地じゃあないと言い切れるな?」


不自然な自信に違和感を覚えつつも、意思は曲げなかった。


「そうだ! ここはみんなの公園だって言ってるだろ」


「そうか、じゃああの看板を見てみろ」


男が指す方に目を移すと、パソコンのモニターほどの看板に「2010年から私有地により無断侵入禁止」と書かれていた。


「2010年からだと・・」


ハルヤが最後に来たのは2008年のこと、知らなくて当然といえば当然である。すると男たちは、


「さっきは良くも大人をなめやがったな、俺達がしっかり指導してやるよ!!!」


ハルヤは大柄な男三人にボコボコにされた。一人からは右ストレート、もう一人からは膝蹴り、最後の一人にはハンマー投げの要領でぶん投げられた。


――やばい・・このままじゃ死ぬ・・カズヤも危ない・・・・


ハルヤはなんとか脱出を試みるが、すぐに連れ戻され、逃げられないようにと足を折れた。


男たちが暴力をやめたのは20分後のこと、その頃にはハルヤの体はボロボロだった。顔はパンパンに腫れ上がり、足は折れ、体中痣だらけだった。人生二度目の死を感じる・・


「ハルヤ!! どうしたんだよ!!」


そう叫ぶのはカズヤ、


「だ・・め・・く・・・・るな・・」


ハルヤはカズヤまで死なせまいと、最後の気力を振り絞って必死に声を出すが体は持たずカズヤにも声が届かない。


「何だお前は、あのガキのダチか、ああなりたくなきゃ今すぐ家に帰ってママのミルクでも吸ってろ」


男たちはカズヤに脅しをかける。しかし、


「いやだね!! 僕はハルヤを救うまで帰れない!!」


――やめろカズヤお前じゃ無理だ、もうお前を死なせたくはない・・


ハルヤはもはや声にもならず、心の中で叫んだ。薄れゆく意識の中にカズヤの悲鳴が響く、この感覚は二度目だ。


また死ぬのか???


また何も変えられてないのに???


また自分のミスでカズヤを死なせるのか???


ハルヤは一矢報いよう立ち上がろうと試みるがもう手足はピクリともしない。


野崎晴哉、人生二度目の死を迎える。享年18歳


――もうなにも変えられないのかな


ハルヤは現実世界、異世界、仮想現実世界、全てにおいて何も成果を挙げられていない。何度もミスを重ね、周りを巻き込んだ。なにが間違っているのか、何が悪いのか、今となっては全てが無意味に感じてくる。


ダンジョンも必死で頑張った。けど結局、自分の甘さが失敗へとつながった。カズヤの件だってそうだ、自分も助かりたいと楽をして甘さを表に出した。

 甘さ??


そうか、ようやくわかった。なにが自分に足りないのか、ずっと迷って探し求めていた。自分に必要なのは、力でも、頭脳でもない。

 必要なのは、自分に勝つこと。自分の甘さ、投げ出しそうになる弱さに打ち勝たなければ。それまでは何も出来ない。


もし・・もしもう一度チャンスがあるなら、自分に勝ちたい、みんなを・・カズヤを救いたい・・・・


・・・・・・・

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