過去の自分

第11話 迷宮の主グロッケン

封印されたダンジョン


300年前、この世界の魔法使いによって封印されたダンジョン、現在冒険者のハルヤが攻略に挑んでいる。


「ここがボスの部屋か、敵は誰に化けているのだろうか」


ギィィと大きな音を立てて扉が開く。扉の奥にはきれいな長方形の形をした石が縦に置いてあった。石にはグロッケン、と記してあった。この石の名前だろうか


「何だこの石は、これがボスっていうのか?」


そう呟くと、その言葉に反応したように石から光が壁となり、ハルヤをすり抜け消えてった。光が消えたことを観測すると、突然石が変形を始めた。硬そうな石肌は人の皮膚のようにやわらかくなり、頭、胴体、手足の3つに別れまるで人間――人間そのものになった。それどころか、ハルヤのよく知る顔、よく知る体型に変形していった。

 これこそがダンジョンのボスの最大の強さとなる、変形術である。光の壁により情報を読み取り、その人の一番大切な人に変形する。タートルの話し通りだった。


これがハルヤで言うと母親にあたった。現実世界で友人、恋人ともにろくに出来なかったハルヤを支えていたのは家族――特に母親の存在だった。別にマザコンなわけではないが、自分の理解者になってくれた母親はハルヤが心の底から信用していた人だった。


「お母さんを倒せって言うのか????」


石は変形が完璧に終わると口を開いた。


「ハルヤ、お母さんを信じて」


その声は紛れもなく母のものだった。


――これはボスが変形しているだけだ、大丈夫信じるな、倒せ、倒せ


ハルヤはなんとか自分をおさえ、ボスに立ち向かおうとする。


「ハルヤ、お母さんだよ、敵じゃない、間違えてはだめよ」


――ちがう、これは違う、ボスだ敵なんだ、敵だ・・剣を・・剣を降るんだ俺!!!


「ハルヤ、やめて、お母さんを、お母さんを助けて・・」


ボスは心細い声を演じ、ハルヤに助けを求める。


――だめだ!!俺には出来ない!!恩を仇で返すことになってしまう!!


脳内に”引く”という考えがよぎり、一歩引いたその瞬間。その隙を狙って母親から魔法が放たれ、ハルヤの腹部を直撃した。油断しきっていたこともあり、まともにその攻撃を受け、


ハルヤはその場で崩れ落ちた・・


――っ!!


生暖かい液体が体に触れ、それが血であることを認識する、その瞬間とてつもない激痛が腹部に走る。


――何だこの激痛は...腹部が切れて出血が止まらない....やばいぞこれは....


そんな激痛の中こんな考えが脳内をよぎる


――俺、死ぬのかな、まだ約束を達成できてない、、死にたくない....


異常な出血により視界がぼやける

最後の抵抗をと必死に手足を動かすが全身の感覚がなくなりつつある今は、もう激痛と出血に耐えるしかなかった。

迫りくる死に追われながらぼやける視界に一つの光が灯った。

 光はハルヤの体内に吸い込まれる形で消えてった。それと同時に凄まじい幸福感を覚えた。その幸福感に精神的に満足したハルヤは、抵抗をやめ、死を迎え入れた。


スミラ、ロゼ、タートル、みんな・・・・・・


ごめん、俺・・・・


約束を守れなかった・・・・


結局自分のエゴにみんなを巻き込んで・・・・


ごめん・・・・・


ハルヤは死んだ。





+++++++++++++++





「おーいハルヤ、今日の放課後、大事な話があるからうちに来てよ」


ハルヤの唯一の友達である、結城和也――カズヤは転校することをハルヤに伝えようと自分の家に誘った。


「大事な話?? しょうがねえな行くよ」


内心面倒臭いと思いつつも、特に用事もなかったため行くことにした。


放課後


「じゃあ家に帰ってすぐ来てね、絶対だよ!!」


「わかってる」


カズヤの家はハルヤの家から10分ほどの所にあるが、途中大通りを挟むため信号の状況によって時間が変動する。


「行くとは言ったものの今日はゴロゴロコミックの発売日なんだよな」


ゴロゴロコミック 月刊漫画雑誌の名称であり、数多くの少年からの人気を集めている。今日が月に一度の新刊発売日、好きな漫画が連載しているハルヤにとっては一刻も早く買って読みたいところだ。偶然にも昨日のお使いによりハルヤには手持ちがあるため、買わないと言う選択肢はなかった。


「まあ、読んでから行けばいいよな」


カズヤの家に行く前に漫画を読んでから行くことにした。


「ははは、おもしれー」


漫画により気分をよくしたハルヤは漫画だけでは飽き足らず、ゲームをし始めた。


「ハルヤ遅いなあ・・」


その頃カズヤは、ハルヤの到着をまだかまだかと待っていた。しかし、そんなカズヤのことを知らず、ハルヤはゲームに熱中している。


「あ、もうこんな時間、早くカズヤんちいかねーと」


時刻は4時過ぎになっていた。時間に気づき、家を出ようとハルヤが準備を始めると、家の電話が鳴った。


「ハルヤー、お母さん今手離せないから代わりに出てくれる??」


面倒くさいと思いつつも電話を取る。


「もしもし、野崎です・・・・え? カズヤが???」


電話の相手はカズヤの母親だった。カズヤが車にはねられたという連絡だった。

 教えてもらった病院にハルヤは母親ともに向かった。


病院に着くと、手術中というランプが灯されていた。


「カズヤくんは非常に危険な状態です、覚悟をしておいてください」


カズヤは意識不明、両手右足骨折の重傷だった。

手術は成功しカズヤは一命をとりとめた。しかし、


「カズヤくんの意識は未だ戻りません、心臓はうごいてますがこのまま意識が戻らないという可能性もあります」


その日は家に帰り、カズヤの容態回復を必死で祈った。


――死ぬなよ、カズヤ・・まだお前としたいことたくさんあるんだ・・・・


手術の日から5日後カズヤは両親に見守れながらこの世を去った。


事故が起きる前、カズヤはハルヤを迎えにいってくると言ってでかけたとその日に知った。


――俺が・・俺が漫画なんか、優先したから・・・・そのせいでカズヤは・・


ハルヤはとにかく泣いた。自分を憎み、カズヤに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。ゲーム漫画を優先したこと、カズヤの大切に気づかなかったこと、後悔は数知れない。その日から小学校を不登校になり、中学では2年生から行ったものの当然友達は出来ず、高校2年生で再度不登校になり現在に至る。


――カズヤ、ごめん、ごめん・・


「はっ!! ここは、家?」


目を覚ますとそこは異世界ではなく、見覚えのある部屋――現実世界の家だった。


「俺はダンジョンでグロッケンにやられて・・夢だったのか?? 」


ハルヤは自分の机に目をやる。


「2011年?? おいどうなってんだ、十年前じゃねえか・・・・」


ハルヤは文字通り混乱した。仮に異世界が夢だとしても、現在は2021年なためこの世界も現実ではない。

 まさか、

ハルヤは自室がある二階から闘牛を彷彿とさせる勢いで階段を降り、洗面所の鏡に写る自分を見て驚愕した。


「小学生に、戻ってる・・」


ハルヤは現在小学生の世界来てしまった。

 ということは、


「カズヤが事故にあったのは2011年の8月20日、今は・・」


2011年8月16日。カズヤが事故に会うまで4日間の猶予がある、この世界がどんなであれもう二度とカズヤは死なせたくない。ハルヤはカズヤ救出作戦を実行することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る