第10話 ダンジョン

王権継承日から一週間がたった。その後、反王政派の人々はハルヤの声が響いたのか大半が王政賛成派へと変わった。残った一部の反王政派も、以前のような罵声を浴びせてくることはなく、一批評者として国のことを真剣に考えてくれるようになった。ハルヤの提案である民主化は着々と進み、選挙、目安箱などが実装された。あれだけの声かけをしたハルヤだったが、王政により個人情報は保護されているため国民は伝説のヒーローとしてたたえた。


新しい住居に移動したハルヤとスミラは今後について話し合っていた。


「私はこっちがいい!!」


「いや俺はこっちがいい!!」


「子供みたいな喧嘩してどうしたんですか、ハルヤさんスミラさん」


使用人に復帰したロゼは、移動の手伝いという名目でこの新住居に遊びに来ていた。


「おっ、丁度いい所にロゼが来たし代わりに決めてもらうか」


ロゼは内心、つまらない喧嘩だろうと思っていたためその仕事を引き受けることにした。


「それで、どんな問題なんですか?」


「寝具はベッドか布団かという問題なんだ!!」


寝具、人間の体力を回復する手段として堂々のトップを誇る睡眠を支える家具。人によっては寝具が家具の中で最重要項目となる。睡眠が好きなロゼはもちろん、


「ぐぬぬぬ、悩みますねぇこれは」


「俺は断然布団が良いと思うんだ!!」


布団、日本人が古くから愛用してきた寝具。反発力はベッドに劣るが圧倒的な扱いやすさは最大の魅力となるだろう。更にはたためる、という機能のおかげで場所を取らない。


「いやいや、断然ベッドのほうが良いわよ」


ベッド、世界中に普及が進んでいるおなじみの寝具。多少場所を取るというデメリットはあるが、寝心地はとても良く、最近では低反発なベッドも開発されている。

 なかなか決まらないため結局くじにした。


「これだ!!」


後日ハルヤ邸にはでかいベッドが二つ届いた。


++++++++++++++++++++++


新居移住から2週間ほどたったある日、ハルヤは通常のダンジョンにいた。ロゼやその他の手伝いがあったおかげで移住が思ったより早く進み、余裕が出来た。それを活用しようと、自分が引きこもったことで出来なかった鍛錬を始めることにした。引きこもり期間中は我ながらとても怠惰な生活をしてしまったと今更後悔している。

 ハルヤのレベルは5。いくら上昇率が高い体質と言ってもサボれば上がることもない。一ヶ月の上昇率が低すぎると、管理所内で多少の話題になった程だ。

 その間、ユルが言っていたソウルソードを見つけ管理所にて所有物認定してもらった。


 そんな調子で時は流れ、ついにダンジョン攻略へ挑戦する日がやってきた。


「ハルヤきゅん、久しぶり」


「やあハルヤくん元気そうだね」


挑戦の朝、元王とタートルが直々に家へ尋ねてきた。

タートルと話をしているとこれまでのことを思い出した。振り返れば数多くのことがあった。美少女に拾われ、空飛ぶ乗り物に乗り、王政の問題を解決し、今は万全の状態でダンジョンに臨もうとしている。ダンジョンを攻略したら俺はどうすればいいのか、ダンジョン内で死んだらそうすればよいか。そんな不安が頭をよぎるたび、スミラ、ロゼが背中を押してくれる。


「では行ってきます」


見送りにはタートル、オズワルド、グリス、そしてロゼとスミラが来ていた。その5人に手を振り、ユルとともにダンジョンに入っていった。ダンジョンの入り口は一方通行なため、攻略成功か失敗をするしか脱出方法はない。もっとも、失敗すると死ぬ確率があるため確実に出るには成功しか方法がない。


~一層目~


一層目に出るのは、タートルの言っていた通り雑魚モンスターと呼ばれる低レベルな敵ばかり。一層目は難なくクリア。

道中、モンスターがドロップしたアイテムなどを拾うのに時間を取られ、一層目だけでも10日ほどかかってしまった。


2層に上がる階段の途中、踊り場につながるような形で部屋があることに気がついた。大きさは学校の教室人クラス分ほど。氷のような結晶が壁から突き出すようにして出来ている。暗く、冷たい雰囲気を醸し出しているダンジョン本体と比べるとかなり明るく、神秘的な空間となっている。


部屋の真ん中には女神らしきものが彫られた像が立っていた。ハルヤが触れるとその像は光を放ち、その光から像の模特児と思われる女性が出現した。その女性はハルヤの方に目をやり、おもむろに話し始めた。


「勇気ある冒険者よ、そなたの能力を見込んで魔法を授ける。これは風の魔法、体で風を作り、放つイメージをするだけで使えるようになるはずです。大事に使いなさい」


女性は最後まで言い切るとまた光を放ち、像へと戻った。どうやらこの女性は魔法をくれたようだ。


――そういえばどこかで魔法を授ける伝説の女神がいるっていう話を聞いたぞ・・本当に存在したのか・・


「これはエアストリームっていう風の向きを作り攻撃するものなのよ、自分で作れるから場所を問わないのが良い所なのよ」


何話ぶりかの登場のユルがそう説明した。


ハルヤは女性が言っていた通り、イメージをして魔法を試し打ちしてみた。

 当然風を作るという動作をしたこともする方法も知らなかったため苦労をした。ようやく使えたと思っても、制御できなかったりと問題が発生した。

 改善に改善を重ね2日ほど練習をし、ようやく制御できるようになった。


「まだ弱いけど、制御できるなら戦いには使えるのよ」


魔法を得意とするユルがいうのだから間違いない。ハルヤはその言葉を信じ女神像の部屋を後にした。


~二層目~


二層目でもタートルの話通り、雑魚モンスターのみの出現だった。二層目の半分ほど行ったところでふと壁に目をやる。タートルが言っていたことが事実かどうか確認をするためだ。タートルによると、この建物は人間の硬質化により出来ているという。

 壁に近づき、細かく確認していく。

 

 特に人間と思えるような箇所はなかったが、凹んでいるところがあったため気になったハルヤはユルに頼んで魔法で明かりをつけてもらった。明かりをつけると、それを目印にモンスターがよってくるため極力控えていたが、好奇心には勝てなかった。

 明かりをつけ確認をすると驚愕の事実が発覚した。凹んでいたのは人の”眼球”に当たる所で、その眼球は確かに動いていたのだ。要するに、三百年間も、硬質化により老化は止められていたが強制的に生きらされていたのだ。周りを見渡すと、眼球と思われる凹みが大量にあることに気がついた。気持ち悪くなったハルヤは明かりを消し、盛大にリバースした。


「あんなものを見たんだもの、無理ないなのよ。まさか生きてるなんて私も知らなかったなのよ」


帰ってきた人の精神がやられていたのもこれが原因だろう。人の眼球が無数に、しかもいきているのだ。おかしくなるのは無理ない。

 幸い廃ネット民だったハルヤは、グロ画像を見るのに慣れているせいか、多少影響はあるもののリバースにより調子を取り戻した。


困難あり、眼球ありの一、二層目をなんとか突破したハルヤは三層目――ボス部屋の前へ立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る