第6話 ダンジョン初挑戦

――今日からダンジョンか、ここで死んだら元も子もない、気を引き締めていくか。


「初めてですし、始めはモンスターが少ない所から行きましょう」


そうロゼが提案してきた。

 ダンジョンは全50階層、現在攻略(ボス討伐)が進んでいるのは35階層まで。攻略を行うと、モンスターの出やすさが全員の地図に表示されるようになる。挑戦できる階層は初級者(レベル1~15)は10層、中級者(16~30)は25層までと決まっている。それ以降は本人の実力次第。

 レベル1のハルヤはもちろん1層目から始めるわけだが、モンスターとの戦い方も知らないハルヤは地図を見る必要がある。丁度いいモンスター量を探すということだ。


ハルヤの初期装備はこうだ。

 全身黒衣の装備に、ポーションが4つ、武器は典型的な片手剣。刃渡りは40cmほどである。


一体のモンスターが近づいてくる。ハルヤは狙いを定め、


「おりゃああああ!!!」


声を出し滅茶苦茶に振り回された剣が、モンスターの近くをすかすかっと空気を切りながら通り抜けた。

 その直後、小柄な割に勢いが強い攻撃をを青いオオカミが仕掛けてくる。案の定、その攻撃は隙だらけのハルヤの体に直撃する。その攻撃でダンジョン内にのみ存在する、自分の頭上のダメージゲージが少し減った。

 攻撃を食らったハルヤを、やれやれと見ているロゼが、


「攻撃は無作法に仕掛けるだけじゃ当たりません、相手の隙を狙ってそれを逃さず決めてください!!」


――相手の隙、相手の隙


呪文のように繰り返しつぶやきながら、ハルヤは相手との間合いを縮める。

 青いオオカミとの距離が4mほどになった瞬間、ハルヤは攻撃を仕掛けた。敵の頭上が、隙だらけなことに気づいたのだ。

 一発目の攻撃で油断していたオオカミは無惨に砕け割れ、宝石をドロップして消えた。――これがこのダンジョン内での死。人であれダンジョン内での死に方は関係なく、遺体はガラスのように砕け散ってあとかたもなくなってしまう。その残酷さから冒険者が挑戦を控え、ダンジョンが過疎状態に陥ったこともあるほどだ。


「ナイスです、ハルヤさん! この調子で続けましょう」


今日のノルマは今の青いオオカミを5体倒すこと。

 このオオカミは、レベル1の…いわゆる雑魚モンスターだが、空振りを繰り返しているハルヤは何度も攻撃を受けたため、五体を倒し終わる頃にはHPゲージが半分にまで減少していた。これこそ、塵も積もれば山となるということだ。

 平均の冒険者は自分のレベル-2ぐらいのモンスターを狙う。これは安全マージンといい、冒険者なら誰もがやっていることだ。冒険者の目的は攻略ではなく、金稼ぎなためわざわざ自分の命を必要以上にかけるメリットは、どこにもない。


 攻略を進めているのは攻略ギルドという強者ばかりが揃ったギルド、もしくは王国公式パーティーが行っている。


「ふう、ミスは多かったけど初陣ってことを考えればこんなもんかな」


ノルマが終わったハルヤは換金を行うために管理所へ戻ることにした。


――やっぱモンスターと戦うだけあっていつ死と隣合わせってことか。きをつけなきゃだな。


換金は管理所の換金専用の機械(こっちでは機械を魔法機と総称しているらしい)にかけると自動で換金してくれる。

 収益は日本円に換算すると約1000円ほど。いくら命をかけているとはいえ、いくら程度の低いモンスターを倒してもお金はあまり入らないらしい。

 ダンジョンで生計を立ててる人は、大抵レベル10から20ほどのモンスターを週2ほど倒しているそうだ。それでも収入は、一般のサラリーマンよりほんの少し多いか少ないかである。世知辛さはどの世界でも同じようだ。


「よーし、少ないけど初ダンジョン記念ということで、おいしいもん食いに行くぞロゼ!!!」


「はい!!!」


近くに、ロゼの行きつけの店があると言うのでそこに行くことにした。


――尽くロゼの顔の広さには驚かせられるな・・・・・


「今日は俺の奢りだ! 好きなだけ食えっ」


「きゃー、ハルヤさん最高です!!!」


ハルヤはいつしかロゼに搾取される日々が来るんじゃないか、という心配を放り投げ気前よく奢ることにした。


「ところで、ロゼはなんで商店街にこんな知り合いが多いんだ?待ち行く人の大半がお前のこと知ってただろ?」


ロゼはその場にあった鳥を頬張りながらこう答えた。


「ロゼは昔からここで買い物したり、仕事をしたりと、色々お世話になったんです。商店街の人は、皆さんあたたかくていい人ばかりなのでいつのまにか顔見知りになっていました。それだけのことです」


ロゼはとても嬉しそうな顔をしていた。

 その夜は食い、飲み、食い、飲みを繰り返しとても楽しい夜となった。


・・・・・・・・


朝になるまでは!!!!!!!!!


「うわああああああああああああああああああああ」


ハルヤが朝からとんでもない悲鳴を上げた。それを見かねた寝起きのロゼは、


「また叫んでるんですか? 朝ぐらい静かにしてください・・・・」


寝起きから叫び声を聞かされるロゼは少し機嫌が悪い。


「お、おい、ロゼさんよ、俺の金を、金をしらんかえ?」


焦りのあまり訛り始めたハルヤ。その焦りの原因は財布から金という金が全て消え去っていた。


「ああ、昨日あったお金は皆ハルヤさんの内臓に有りますよ」

 

昨日はテンションが上がりすぎのため、会計はハルヤの財布を使ってロゼが行った。そのため会計金額を見ていないハルヤは金の減り用に驚愕していたのだ。


「どうしたの?朝から騒がしいようだけど」


声の方を振り向き、視界に写ったのはスミラの姿だった。

 寝起きなのか、一昨日会ったときとは違った服装――寝間着姿だった。


「い、いやなんでもない!うん、なんでもない!き、気にしないでくれ」


許嫁相手にこんな無様な――テンション上がりすぎで全財産を使用したなど到底言えるばずもなく、苦しい言い訳をしてしまった。

 しかし、それを不審に思ったのかスミラは問いかけをやめなかった。


「大丈夫、ロゼちゃんが寝ている所を襲ったとか、ロゼちゃんの前で全裸になったとかじゃなければ受け止めるから!」


「いやいや、スミラの中で俺ってどんな変態だよ!!」


スミラは王族、要するに国一番のお嬢様育ち。父親は娘を溺愛し、娘に近づく男を毛嫌いしていた。その影響もあってか幼少期はほとんど異性との関わりがなく、いい印象を持っていない。ただ、特に父親に対し好意を持っているというわけでもなさそうだ。これが過保護の限界。


なんとか誤解を解いたハルヤは改めてスミラに現状を報告した。


「なるほど、王族になればお金に関しては困らないと思うけど、それまで1ヶ月はあるしこれからは管理をロゼに任せたら?」


その意見は最善とも言えるだろう。ロゼはハルヤよりよっぽと現実的な使い方をするため浪費は考えにくい。現状、ともに生活ということでわざわざ現金を渡すこともない。しかし、


「やだ」


ハルヤはまるでおもちゃを買ってもらえなかった子供のような返事をした。その理由は、


「自分の金は自分で管理する、無駄遣いしてもそれは自分の責任!!それが我が野崎家の教訓だからな!!そこは譲れん!!」


いってしまえば、無駄な意地を張っているということだ。教訓は確かに存在はしている。しかし、それは後付にしか過ぎず、女子に――年下に金を管理されるのが恥ずかしかったという本音を隠すための口実に過ぎなかった。


「なんかわからないけど、ハルヤのお金だものね、私達がどうこう言う話でもなかったわ」


すんなり引き下がったスミラに対応に少し寂しさを感じつつもホッとしたハルヤだった。

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