第5話 再会
「そうだな、流石につぎは行く宛がないだろう」
ロゼは「フッ」と小さな鼻を鳴らし、自慢気にこういった。
「舐めないでください、当然有りますよ?」
今回の買い物はロゼの人脈の広さに驚かされた。意地を張ったハルヤは俺だってと言わんばかりの顔で、
「俺だってこの商店街に知り合いぐらいいるさ!!!」
「では、装備屋より先にそのお知り合いの方に挨拶しなければなりませんね」
あくまで信じていないロゼはからかい程度にそういった。
知り合いといっても異世界に来て初めて会話をしたあの店の店主。対面した時間は約30秒。言葉を交わしたのは2回程度。何より相手が自分を覚えているかが怪しい。
ハルヤは曖昧な記憶を頼りに初めての店に行った。
「よお、おっちゃん元気してたか?」
ハルヤはできるだけ思い出してもらいやすいように当時のテンションを再現した。当時のテンションといえば、異世界に来た焦りと言葉が通じた何よりの喜びがマッチしてテンションが上がったのを覚えている。その時の店主の引き顔は、今思い出しても恥ずかしさと無駄にテンションを上げてしまった後悔で死にたくなる。
――こんな思いは中学生のとき仲が良かった女子に告って無様に振られた時以来だな。
「お前誰だ?」
なぜか――いややはり覚えられていなかった。第一、特徴がないハルヤを一日に何百の生き物を接客している店主が覚えているはずがない。その肝心の生き物もみんな個性あふれる共々。
「いやいや俺だよ俺、金なくて店から追い出された俺だよ」
他人から見ると荒手のオレオレ詐欺にしか見えないのだが、
「うーんそんなやつもいたようないなかったような......」
――しょうがないあきらめるか
諦めかけたその時!!少年マンガのような大逆転が。
「思い出した思い出した。無一文のうざい小僧か」
「うざい小僧とは失礼だなっ!!!」
「たりめえよ、俺は金もってないやつと盗みをするやつが嫌いなんだ」
サラッと犯罪者と同じくくりにされたが、思い出してくれたのでそんなのはどうでもいい。
「今日は金あるんだろうな?」
「あるある、買い物させてもらうぜ」
ロゼが硬貨いれを出していたのに気づいたハルヤは自慢げにこう言った。
「俺が払うよ、実はさっきタートルからお金をもらってたんだ。癪だけどタートルからのお小遣い的な」
貴族――王族関係者なだけあって少しお金をもらうだけで袋がいっぱいになる。
「そうなんですね、じゃあお願いします」
この店はどうやら肉屋らしい。塊の肉が何個か天上から吊るされている。部位をお願いすると、その部位だけ切り取って売ってくれるらしいが、なにせこの後も用事があるため生肉なんか買ったら腐るのは目に見えている。幸いこの店は調理後の商品も売ってたので、今回はコロッケらしき物を買った。
「ありがとさん、また来いよ!!」
「知り合いがいるっていうのはホントだったんですね」
「そりゃあ、俺は嘘はつかない主義なんだ」
これは正真正銘の嘘である。もちろんハルヤは菩薩でも仏でもないので人並み程度――必要以上の嘘をついている。
「では、装備を買いに行きましょう」
装備屋は先程の肉屋、ポーション屋と比べるとほそぼそと店を構えていた。しかし、内装は外見と比べとてもきれいにされていた。壁全体はシンプルに木でできているが照明は不必要に、豪華に装飾されている。ものによっては剣の形をしたランプまである。壁にはハルヤの身長ほどの剣が、棚には装備が何個もおいてある。
ハルヤはそんな商品には目もくれず、店の端に乱雑にまとめておいてある装備に目をつけた。
その装備はただの黒い全身用装備だったのだが、ハルヤは運命を感じていたようだ。その他にも、腕につける盾――いわゆるバックラーを購入した。ハルヤは生粋の黒好きなので全身を黒に固めた。
「よし、装備も整ったことだし、明日からダンジョン行くか。ダンジョン中はロゼはどうしてるんだ?」
「もちろんご同行いたしますよ」
「そうか、でも危なくないか使用人がダンジョンなんて」
あまりにも優秀なため忘れてしまいそうになるがロゼは13歳、現実世界で言うと中学1年生に当たる。そんな少女を、飢えたモンスターがうじゃうじゃいるダンジョンに同行させるなどハルヤの善心が痛む。
「安心してください、私こう見えて強めの種族ですから戦いに関してはそこらの冒険者より強いですよ」
どうやら強いらしい。レベルも40と、平均の冒険者が30なことを考えると強いのは確かなことそうだ。
「そういやダンジョンでお金稼ぎって具体的にはどうやれば良いんだ?クエスト攻略とか?」
「具体的にはですね、ダンジョンのモンスターを倒すとガイファと呼ばれる赤い宝石のようなものをドロップします。冒険者登録をしている人ならそのガルファをダンジョン総合管理所で換金することでお金を得ることができます。クエストがしたいのであれば管理所の受付で自分にあったクエストを探すことができますよ」
「へえなるほど、じゃあその管理所に行って今日中に冒険者登録だけするか」
「そうですね、ちなみに登録にあたってレベルについての確認をされますよ、ハルヤさんはどうでしょうね、楽しみです」
レベル確認....ハルヤはこの世界に来てからというものの自分の能力には飽き飽きしている。今回もレベル10とかそんな所だろう。
「はあ、どうせ低いんだ期待しないでおくよ」
「? 勘違いされてると思うんですがレベルの初期状態はみんな一律で1ですよ?」
「え、じゃあ何を確認するつもりなんだ?」
「レベルもスキルと同じで適正みたいなものがありまして、上がりやすさがどのぐらいか確認するんですよ」
「なるほどね、まあそれでも変わりはないけど....」
ダンジョン総合管理所は総合管理所というだけあってかなりでかい施設になっている。通常ダンジョン、ダンジョン総合管理所は例のダンジョンを封印した魔法使いの一族が管理しているらしい。
「ようこそ、ダンジョン総合管理所へ、本日はどのようなご要件でしょうか?」
受付の方はホテルマンぶりの丁寧な対応をしてくれた。
「えっと、冒険者登録をしたいんですが、、、」
「冒険者登録ですね、まずはレベル適正の確認を行いますのでこちらへ」
案内されたのは試着室ほどの大きさの個室。中には椅子、頭にかぶるであろう解析装置らしきものが要されていた。
「それではここに座ってこの解析装置をかぶっていただきます」
ハルヤがかぶるとピッ、ピッ、という音を立てて作動した。音が止むと受付の方がなにやら魔法らしきものをハルヤにかけ始めた。魔法をかけられている間はユルにスキルチェックをされた時のように全身をなにかがかけめぐる感覚があった。一通りかけ終わると解析装置は止まり、
「終わりました、結果は紙にまとめますのでお席でお待ちください」
管理所の所内には待合室のような空間があるためそこで待つことになった。
10分ぐらいがたっただろうか、受付の方が処理を済ませ出てきた。
「野崎晴哉さんのレベル適正は10となっています。最高が12なのでかなり分類に入ることになります」
何もしていないハルヤだが、ようやく救われた気がした。伸びしろですねえ、と叫びたくなるような伸びしろだった。要するに、やればできる子(Y・D・K)ということだ。
「続いて、冒険者カードを作成します。これは照明にもなりますので重要となります」
冒険者カードは自分の血を垂らすことにより情報が取り込まれ文字がうかんでくるらしい。
「これで冒険者登録は終わりです、明日から冒険者としてダンジョンに入場可能となります」
こうして冒険者ハルヤの戦いが今!始まる!!
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