第4話 異世界観光
――誰だお前ら???
自分の目の前に一人、奥にもう一人少年が立っている。顔はよく見えないが奥にいる少年はなにやら必死な表情をしている。手前の少年はゲームらしき物を持って何やら楽しそうにしている。
すると、車が走ってくる音が聞こえてきた。その音はだんだんと近づいてくる。その音が最接近した瞬間だろうか、奥にいる少年が吹っ飛んだ。まるで車に轢かれたかのように5mほど少年が飛んだ。
手前の少年はそんなことを目にもくれずゲームをしている。
――おい..助けろよ....おい!!!
叫んでも手前にいる少年は動こうとしない。
――君のせいだから....待ってたのに....探したのに....
轢かれた少年はそう言いながら近づいてくる。左腕は骨折しているのか力が入っていない。
――来るな、来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな
来るな来るな来るな来るな来るな来るな
「来るなああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
叫びながらハルヤは飛び起きた。
「うーん、どうしたんですかハルヤさん、こんな早い時間から叫んだらだめですよ....」
隣にはロゼがいた
「ご、ごめん、夢か、あれ?どんな夢を見ていたんだっけ....」
内容は覚えていないが何やら恐怖を感じる夢を見ていた。
気にしていても仕方ないので切り替えることにした。
「おはようロゼ」
「おはようございます、ハルヤ....さん..」
寝起きのロゼは、使用人時のしっかりした印象とは対象的に服もはだけて、髪も寝癖を超えて噴火した火山を連想させるほど爆発している。何より寝ぼけているのかぼーっとしている。意外にも朝に弱いのである。
「ほらロゼ起きろって。朝食食べるぞ」
「ふわぁあい」
+++++++++++++
「よし、これからの計画を立てよう」
「くんくん」
「まず、ダンジョン攻略の期限はこれから10ヶ月。タートルによると攻略には最低でも5ヶ月はかかるらしいから多めにとって7ヶ月開けておこう。それと、スミラとの結婚が1ヶ月後にあるから準備やら移住やらで1ヶ月取られるとして、休暇は1~2ヶ月だな」
「どこに行きますか???ハルヤさん!」
「クンクン」
ロゼのテンションが以上に高い。タートルによるとこの屋敷に来てから週1の休みはあったものの、しっかりとした休みは5年ぶりだという。
「そうだな、この地図にある商店街にいきたいかな」
「クンクン」
「良いですね!!美味しいもの食べましょう!!!」
「クンクン」
「って、ちょっとまてえええええい!!!!ユルはさっきからなにクンクンしてるんだよ!!!」
「なにってあんたが臭いのよ」
「え、まじ?クンクン」
昨日はロゼと寝ることに意識を持っていかれたせいか風呂に入るのを忘れていた。激動の一日だっただけあって、汗をよくかいたのは確かだ。
「よ、よしまずは風呂に入ろう!!」
+++++++++++++++++
仕切り直して出かけることにした。
まずは、朝言っていた通り商店街に出かけることにした。
「この屋敷は街の外れにあるので馬車をロゼが手配しておきました」
この屋敷に来たときに乗ったセルは、スミラのように王族関係者、もしくは貴族のみが使用できるそう。その他の国民が乗ろうと思うと、使用可能者とともに乗るほかないらしい。
「馬車は馬車で新鮮でいいな」
飛ぶ船はもちろん、現実世界で馬車など乗る機会も無ければ乗る必要もない。
「着くまで時間が有りますし、ロゼの昔話でもしましょうか」
「お、いいね聞かせて」
よく考えたら、年齢すらも知らない少女となぜこんな仲良くできているのか自分でも驚きだ。それはスミラも同様だが。
「ロゼは、山の奥にある小さな村で生まれました。山にはたくさんの動物がいて、ロゼも狩りなどを手伝っていました。屋敷に来たのは、丁度6年前のことです。ある事情があって屋敷に引っ越したのですが、ただ住むだけでは申し訳が立たなかったので働くことにしました」
「6年前か....急に来て働けたということは今は24ぐらいか?」
「?? ロゼは今年で13ですよ」
「じゅうさああん??!!!!」
思わず叫んでしまった。24というのは言い過ぎでも低く見積もって16歳ぐらいだと予想していたのだがそれを下回ってきた。ハルヤは「じゃあ」と前置きしてから、
「7歳から働いてたってことなのか?」
「そういうことになります」
ハルヤは尊敬、驚きとともに、自分との差を感じていた。当然といえば当然である。スキル属性はなし、知識も勇気もない。現在居候の身からしたらものすごい劣等感を覚えるに違いない。
「すごいなロゼは、俺なんて7歳の頃は妖怪バッチ見るか漫画読むぐらいしかやってなかったぞ」
「それほどでも....」
ロゼは謙遜していたが心なしかドヤっている気がした。これもロゼに対する劣等感から出た大人気ないところだろう。
そんな話をしていると商店街が見えてきた。
馬車は商店街の近くにある馬車ターミナルならぬ馬車乗降場に止まった。
「ようやく着いたな、ん?なんだあの人だかりは」
「ああ、あれはですね王政のことを悪く言う人たちですよ。気にしないでください」
どうやらどの時代――どの世界でも対立はあるようだ。ハルヤは王政反対派と聞いて他人事ではないことを自覚した。
商店街には、食品、日用品、武器など様々なアイテムが買えるらしい。ハルヤたちはポーションを買いにいった。というのもハルヤが商店街に来たのはただ遊ぶだけではなく、ダンジョンのために準備をするためでもあった。
「ここがロゼおすすめのポーション屋です、知り合いがやってるので遠慮なく選んでくださいね」
着いたのはなんの変哲もない店。店内には紫、青などいわゆるポーションという商品が陳列していた。
「こんにちはおじいさん」
「お、いらっしゃいロゼ。ん?今日はお連れさんもいるのかい?」
「こんにちは、ハルヤって言います」
「ハルヤか、よろしく」
店主のおじいさんは愛想がよくとても明るい人だった。ロゼいわく昔はかなりもてたという。真相は不明だが。
「今日はどんなポーションを探しにきたんじゃ」
「今日はハルヤさんのためのポーションを買いに来ました」
「ハルヤくん、属性は?」
「なしです」
「そうかなしか、珍しいもんじゃな」
「なしだとオーダーメイドしかできん。オーダーメイドは質は良いが少々値がはるぞ」
「それでお願いします」
「ハルヤくん、ポーションを買うのは初めてかい?」
「あ、はい、初めてで知識もなくてよくわからないんです」
店主のおじいさんは知識がない、と言った瞬間に少しワクワクしたのか若返ったような気がした。いや絶対した。その反応を見るとつぎの返答はきっと、
「おお、そうかそうか、それではワシが説明をしてやろう」
ドンピシャの大当たり、大抵、なにかに詳しい人が説明をできる状況になると、目を全開にして前のめりになり、決め技でもあるあくまで仕方がないという雰囲気を醸し出しながら「説明してやろう」と言う。初心者はこれで一発KO。ハルヤが前回これを食らったのはタートルがダンジョンについて説明するときだ。
異世界2日で二回とは....
「まず、ポーションは色によって種類分けされている。色は基本的に四種類で属性と同じ。赤は火、緑は風、青は水、黒は土じゃ。効果はそれぞれの属性の技を出せることじゃ。現在開発されている技の数は属性一つに6つほど。なしの場合は紫色をしておる。なしは調合して作るせいか一つで2つぐらい技がでるのじゃが、効果は半分づつだから結局一緒になるな」
「なるほど!じゃあ俺はなにとなにを調合するんだ?」
「ハルヤくん、君には火と風を混ぜた[フレアブレス]を授けよう」
フレアブレス、名前の通り火の息のような攻撃。メリットは広範囲に渡って攻撃できること。デメリットは自分の視界も塞がれるため連続攻撃には向いていないこと。
「良いポーションを買えたぜ。また来るよおじいさん!!」
「いつでも来て良いんじゃぞお」
二人は店を出てまた歩き出す。
「でも良かったのか?おごってもらっちゃって」
「良いんですよ、ロゼがしたいと思ってしたことですし、何よりハルヤさんはお金ないじゃないですか」
「ぐっ....確かにそのとおりだ。」
この世界のお金の稼ぎ方は2つ、ダンジョンでモンスターを討伐すること、普通に働くこと。国民の8割は後者を選んでいる。命が惜しいからだ。この世界に来てその機会がないから安心していたが、現実世界とは違い一歩間違えれば死を覚悟することになる。しかし、お金はほしい。
「俺も普通のダンジョンで練習がてら金稼ぎたいな」
今言っているダンジョンは昨日タートルから説明があったようなものではなく、オーソドックスな地下へと続くダンジョンのことだ。こっちは昔からあり、封印でできているとかではないので安心である。
「それでしたら今日のうちに装備を整えちゃいましょう!!」
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