第40話 市長と国王

ケミン達が街の買い物から帰った日の朝、市長アルフレートは、頭を悩ませていた。ケミンの残りの税収を婚姻の儀に使う事になってしまったからだ。


とりあえず国王様に相談してみよう。私では解決策が見つからない。

「すまないが精霊師を呼んで来てくれ」


秘書に精霊師を呼ぶように伝える。

精霊師が市長室に入ってくると指示を出す。


「ケミカリーナ様とキュリア様から現在貯まっている税収を婚姻の儀の予算に組み入れて欲しいと要望が有った。金額は123万金貨だ。それを国王様に伝えて欲しいのだ。緊急連絡扱いとして、出来たら謁見の申し込みもお願いしたい」


 「解りました」そう一言いうと精霊師は、手を胸の前に組み俯きながら呟く。


市長の言葉を一言一句正確に呟いている。相手は王国の精霊師だろう。暫くすると返信が有ったようで精霊師が話し始めた。


 「緊急連絡受領しました。ケミカリーナ様とキュリア様の要望について早急に国王様に御伺をたてます。謁見の申し込みについて国王様から日時の連絡があり次第お伝えいたします」


「有難う、謁見の日時が判ったらすぐに教えてくれ」

 「はい。では失礼します」


市長は、今後の展開を考える。国王と謁見をし事態の解決に努める。空地に屋敷建設の要請が有った場合最優先で建設を行う。大工を確保しないと拙いな・・・


その日の夕方、精霊師から連絡が有った。俺は市長室に精霊師を呼んだ。


「国王様からの通達、婚姻の儀の予算について要望は保留、謁見については緊急のため2日後の午前に可能との事です」

「解った。有難う。下がってくれ。」


精霊師が出ていくと、今度は、工業組合長が来た。

「市長、ケミカリーナ様が、購入した土地の建物の件でお耳に入れたい事が・・・」

「どんな屋敷にするのか?」


「いえ、まだ正式に決まった訳では無いのですが、アパートを建てたいと建築課に来たそうで」

「アパートだと!ケミカリーナ様は市民と一緒に住むつもりなのか・・・これは参ったな」


「市長如何致しましょう?」

工業組合長は気不味そうに聞いてきた。


「アパートを建てたいと言ってきたのならそれに従うしかないだろう・・・請け負うのは何処だ?」

「はい、ローレンス商会を紹介しましたが・・・」


「ああ、成程、王室御用達か・・・では、契約が決まったら私の所に来るようにローレンス会長に伝えて欲しい。他になければもう下がってくれ」


私は頭を抱え込みながら言った。工業組合長は、察したのか、「失礼します」と言って出て行った。

私は秘書に明日の朝一で王都に出発できるように早船の準備を頼んだ。




然し、また頭の痛い問題が起こった。市民と一緒に住むなんて土地を準備した意味が無いだろう・・・

警護を万全にして緊急避難通路も作らないとな・・・ああ、頭が痛い・・・


もし万が一ケミカリーナ様や奥様方に何かあれば、私は死罪だな・・・

此れも国王様に相談するしかあるまい・・・「はぁぁっ」私は深い溜息を零した。






次の日の朝、早々に早船に乗り込み王都に向かう。早船には船頭が3名乗っており、昼夜を問わず交代で船を走らせる。王都までの通常は2日掛る道程を1日で到着できるのだ。次の日の朝、船着き場に降りると早朝営業の食堂で朝食を食べる。謁見は午前との事なので時間的に少し余裕が有るからだ。


朝食を食べ終わると店を出て、城に向かう。そして門番に要件を告げる。


「私は、ジェンナー市長のアルフレート・ロワイエだ。緊急の案件で国王様に謁見の許可が出ている。取次ぎをお願いする」


そう言いながら私は身分証を差し出す。門番が身分証を持って詰め所に入り暫くすると出てきた。

「確認できました。迎えの者が来ますので、少々お待ちください」


詰所の待合所で待っていると待女が来て案内される。応接の間に連れてこられた。


緊急案件のため、無理やり時間を作ってくれたのであろう。暫く待っていると国王様が入室してきた。


俺は跪いて待つ。


「アルフレート、面を上げよ。一寸立て込んでるでな。挨拶は抜きじゃ。要件は、ケミカリーナ様の税収の件かの?」

正に好々爺という言葉がぴったりの国王様がニコニコしながら言った。


 「はい、恐れながら申し上げます。其れも有るのですが、もっと重要な案件が出来まして、ケミカリーナ様がジェンナー滞在用の土地にアパートを建てたいと所望されたのです」


「なに?其れは誠か?市民と一緒に住みたいと言う事なのか?」

 「はい、しかし警備の問題も含めまして如何したものかと御相談に参った次第です」


「ふぉふぉふぉ、そのアパートは大盛況になりそうじゃの、儂もジェンナーに行った時には、そのアパートに泊まらせて貰おうかの」

 「国王様、御冗談を・・・警備が・・・」


「儂の警備は、王国騎士団が居るから大丈夫じゃ!其れにジェンナーには、警護隊が居るじゃろうが。警護隊員を優先的にそのアパートに住まわせれば良いじゃろ。市が借り上げて警護隊宿舎にしたら良い。残りの分を市民に開放して住まわせれば良いのじゃよ。勿論、宿舎の分の賃貸料は市が持つのじゃぞ」


 「成程、警護隊の宿舎に・・・名案ですな」


「儂とてキュリア様やケミカリーナ様には、めったに逢えんのじゃ!ケミカリーナ様の滞在中に逢えるのであれば、こんな僥倖はないわ、ふぉふぉふぉ」


 「ケミカリーナ様達は、8月の一月程ジェンナーに滞在の予定です。然し、ケミカリーナ様のアパートを賃貸するのはおやめください。今まで通り、リバーサイドクラウンへお泊りになって頂かないと設備なのどの事ありますし・・・」


「8月かの、あい分かった!まあ、賃貸の件は冗談じゃよ。儂がフロアーを押さえたら市民から不満が出るじゃろ。其れよりも税収の件じゃ、123万金貨を婚姻の儀の予算に組み込めとな、王国はそんなに貧乏だと思われてるのかのう?」


 「いえいえ、ケミカリーナ様が、金額が多過ぎると申しまして・・・あの方は全くお金に執着が無い様でして、最初は王国に寄付するとまで言われました」


「ほんに無欲な事じゃのう。それが神たるゆえんかの。では、警護隊宿舎の賃貸料に当てなさい。いきなり予算を組むのも大変じゃろうからの。ケミカリーナ様には気付かれないようにな」

 「はい、仰せの通りに」


「此れで懸案事項は終わりかの?次が待ってるからの儂は行かせてもらうかの」

 「はっ、有難う御座いました」


国王様の退出を確認すると私は安堵した。解決策が有って本当によかったと・・・

私はお城を出ると直ぐにジェンナーに戻った。


そして、警護隊宿舎変更の手続きなどを済ませた。








数日後、市長室にローレンス会長が、訪ねてきた。挨拶が終わると話す。

「ローレンス会長、隣の土地の建物の契約は、済んだのか?」

 「はい、5階建てのアパート20棟の契約になりました。管理契約も結んであります。」


「成程、市からの要望を伝えるから実施してくれ、ケミカリーナ様の住宅の警護所を必ず作る事、ケミカリーナ様の住宅に緊急避難用の隠し通路を作る事、其れと警護隊宿舎として500戸確保したい。勿論、ケミカリーナ様の住宅を守る形でだ。宜しく頼む」


 「500戸の賃貸料は如何程で?」


「賃貸料についてはそちらで決めて貰って良いが、あまり相場とかけ離れているようなら指導が入るからその心算で、其れとわかっているとは思うがケミカリーナ様の住宅を最優先で建てて欲しい」


 「では賃貸料は、1戸10金貨程度を予定しています。確定し次第連絡いたします」

「ケミカリーナ様達に万が一の事が有ったら大変な事になるからな、厳重に頼むぞ」


 「はい、其処は抜かりなく進めていきます。私も命が惜しいので」

「お互いに大変な事になったな・・・」


 「はい、参りました・・・」


二人は顔を見合わせて苦笑いする。そしてローレンス会長は、失礼しますと言って出て行った。




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