第25話 家を作ろう

夕食は豪華だった。何処の宮廷料理だよ。


エルフのメイドに給仕をして貰いながら食べ終わる。エルフも俺の奥さんになるのなら一緒に食べた方が良いのだけど、メイドの仕事が最優先との事で断られてしまった。


もう夜の帳が、降りている。相変わらず月のない星空は、天の川がくっきりと浮かび上がっていた。


俺は、バルコニーに出てみた。庭の中央にある噴水の回りには、いくつもの小さな光が、点滅を繰り返しながら飛び交っている。上を見ると今日で最後でなるであろう、林檎の家が見えた。


俺は顕現体になり、久しぶりに上空に昇って行く。満天の星空を見に来るのはいつ以来だったか・・・


ぽわんっとすずちゃんが、現れた。


アイデンティティーとやらはどうした?


「慌てて分身を置いてきちゃたのよ!」


「その姿を見るのも久しぶりだなぁ、女神騒動以来だったか?」


「そうね、あの時は、大変だったわね、この姿の事は、教典に載っちゃてるのよ、だから・・・」


恥ずかしそうに俯きながら言った。


「教典迄有るのか?本当に女神様だなぁ」


「人間の初代国王が私の事を記録に残したのよ、それがいつの間にか教典にされたの、私としては良い迷惑よ!」


「その気持ちは解る。俺も同じ立場だったら嫌だな」


「でしょう?初めて意見が一致したわね!」


「其でね、前から聞きたかったのだけれど、ケミンってよく星空を見に来るでしょ?如何してなのかなぁって」


「此処が初めてすずちゃんと逢った所だからかなぁ?此の星空の中だけが、君と二人きりになれる場所だから」


(ええええー!其ってどう言う事?まさか告白されてる?何故?あんなに・・・)


「此の宙には月がないけれども、俺にとっての月は、すずちゃんだから『月がとっても綺麗ですね』なんて言いたくなった」


 「ケミン如何して・・・あんなに嫌がってたのに・・・」


すずちゃんの目には涙が泛んでいる


「嫌がってたのは、嫌いだからじゃないよ。苦しいって言ってるのにいつも放してくれないから」


 「それなら、その言葉、本気にしていいの?」


「ああ、大好きだよ、すずちゃん」


 「ケミン・・・有さん・・・」


俺とすずちゃんはゆっくり近づく、そして重なりあい一つの光となった。お互いの愛を確かめ合うように・・・


そして、林檎の家の最後の夜を二人で過ごした。














朝、目覚める・・・ク・ル・シ・イ・・・息が出来ないよ!!


俺は起き上がると隣を見る。一糸纏わぬ姿のキュリアが寝ている、何か満足そうな寝顔である。


まあ、仕方ないか・・・でもこの分身は、やっぱり凶器でしかないな!


寒そうなので布団をかけてやり、額をペシッとしてチュッとしてやった。


服を着替え、ルームウエアーを異次元収納に収めておく、せっかく作ったし・・・


俺が外に出るとラヴォージェとハニーが早速打ち合わせをしていた。ラヴォージェには、もう資材が生っている。本当に此の二人は仕事が早いな!


俺の専属メイドのヒュパさんとメリトさんも来ている。


「おはよう、みんな仕事が早いね」


 「「「「おはよう御座います、ケミン様」」」」


俺が踊り場の卓に着くと直ぐに紅茶が出てくる。ショートヘアー、エルフメイドのメリトさんが、紅茶の担当なのかな?


 「ケミン様、朝食の準備も出来ておりますが、如何致しますか?」


ヒュパさんが、言ってくる。


「他のみんなは如何してるの?」


 「一足先にすまして貰っております。今は其々の仕事に付いております」


「俺達が一番遅かったのか・・・キュリアが起きて来たら一緒に食べるよ」


 「畏まりました、ダイニングに準備しておきます」


紅茶を飲み終わるとハニーがひょいと抱き上げてくる。ぽよよんが軽く当たる。このくらい優しくされると嬉しいんだけどな・・・


 『ケミン様、此処のお風呂とキッチンを移設しますわ、ケミン様の御部屋の物で移設する物は有りますか?』


「俺の部屋には無いからいいよ」


 『分かりましたわ、昨夜は少し妬けましたわ・・・』


そう言いながらキューッと抱きしめられた。


「え?何?」


 『昨夜の事、皆知ってるのですわ』


「ええええーーー?何で?」


 『あんな処で見せつけられたら誰でも気づきますわよ!』


 「仕方ありませんな、多分、王国でも大騒ぎになっているはずです」


ラヴォージェが不安な事を言ってくる


 「ケミンおはようって!何抱かれてるのよーー!」


キュリアは慌てて俺を取り返そうとする。


 『キュリア様は、また昨夜ケミン様を独り占めなさったのですから、今日は私達ですわ』


「キュリア、昨日の事は、ばれているみたいだよ、皆に見られてたらしい」


俺は諦めたように言う。


 「えええーーーケミンと二人だけの秘密だと思ってたのに・・・」


 「お二人とも朝食の準備が出来ておりますので、ダイニングにお越しください」


真面目な顔でぶった切ったなー ヒュパさん!


俺はハニーから降ろしてもらいダイニングに入った。




朝食が食べ終わり外に出ると働き蜂達が作業を始めていた。


ラヴォージェの東側に建てる様だな。穴を掘ってるって事は地下倉庫も作るのかな?


一緒に林檎の家も解体されていく。


リンゴの皮を剥くように外壁が剥がされて・・・おいおい!綺麗に剥けるな!壁ってそんなに薄かったのかよ!


三戸の林檎の家が剥き終わるとすべての室内が見えるようになる。


そして、岩風呂とキッチン道具が運ばれていった。其れ本当に使うのかよ!ブランコはやめてくれ!


林檎の外壁は、ラヴォージェの根っ子掃除機で吸い込まれていった。本当にその根っ子は便利だな!


働き蜂の数は1万を超えているので、ラヴォージェが忙しい、建材をどんどん生らせても直ぐに消えていく。装飾品も生ってるな・・・もう一階部分は建築が終わってるし・・・


俺は地面に降り立つ。庭も一緒に整備されてるし、屋敷の裏には巨大な厩舎も出来てる?


「あの厩舎みたいのは何なの?馬小屋にしては大きすぎるよね?」


 「あれは僕の相棒のお家だよ、ケミン君」


ベルが傍に来て言った。今日の装いは、空色のワンピースに薄手の白色のジャケットを羽織っている。瞳の色に合わせたのかな?真赤な髪と対照的でオシャレである。引籠りとは思えない。


「相棒って、飛空蜥蜴ワイバーンの事か?あんなに大きかったかい?」


 「あの子はまだ赤ちゃんだからね。もっと大きくなるんだよ。其れとー!引篭もりだったけれど、僕だって女の子だからね!服装の事だって気にするよ!」


青筋立てて怒られた・・・考えただけで通じるの止めて欲しいわ!


ベルと話しているとヘディとラーニャが来る。ヘディとラーニャが武装してるよ!初めて見た!


ヘディは、チェーンメイルに大きな鋼鉄盾スティールシールド、武器は三又槍トリシューラである。


ラーニャは、虹龍鋼皮ドラゴンレザーのブレストプレートにハーフパンツとロングブーツ、両手には鉄鋼の鉤爪スティールタロンが装備されている。盾と爪ってそう言う事だったのかよ。メッチャ凄い装備だけどこれって必要なの?


 「『ケミン様を守る』にゃ」


「あ・ありがとう。凄い重装備だね・・・」


メッチャ棒読みになってしまった。でもこれ過剰防衛だろ?そう思うのは俺だけか?


 「虹龍ドラゴンなんてこの世界では最強な筈なのに其の鱗を装備してたら過剰だよね。ハハハ」


ベルは乾いた笑いをしてる。ベルもそう思うのか!俺は正常だった。


「其れで、虹龍って見た事ないんだけど・・・」


あっ、つい言ってしまったが、此れは失言だろ、自分でも解るわ!


 「『ケミン様、虹龍退治に行く』にゃ」


やっぱりこうなったか・・・


「行きませんよ!今は皆さんの守護精霊が先です!」


二人は顔を真っ赤にしてケミン様とかお慕いしていますとか言ってる・・・


「兎に角、先ずは皆で一緒に住む事だよ」


そんな話をしているうちに考えられない程の豪邸が建っていた。


此の設計って誰がしたんだよ――――!


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