第6話 インセクターの集落訪問

俺は今、大森林の定期巡回中である。北の端から南の端までくまなく見て回っている。一部地域を除いて・・・


 一部地域とは、勿論ハニービーの集落地域である。インセクターの集落発見以来、其処には一度も行っていない。俺自身がこの後、この集落が如何になるのか楽しみで途中経過を観たくなかったのもあるし、俺が行ってもし気付かれたら俺を歓待する為に開発の手が緩むだろうと思っての事だ。


 しかし今日は、最後に行こうと思う。約束の七日目だから。実に楽しみである。傾国の美女達、数千人に囲まれて・・・ヤバイ鼻痔が出そうだ・・・今から興奮して如何する!気持を落ちつけよう。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー


 そうだ!キュリアも呼ぼうか。村を見せてくれたお礼をしていなかった。俺は湖畔に行く事にした。顕現してキュリアを呼ぶ。

「おーい!キュリアいるかー?」

 「何々?呼んだ?」


ぽわんと顕現体ゲンブツで現れた。

「おっ!すずちゃんだ」

 「なんで貴方は、この姿だとすずちゃんて呼ぶのよ・・・キュリアで良いじゃない。」

恥ずかしそうに言ってきた。


「何処からどう見てもすずちゃんだろ?それ以外ないよ!」

分身と違い過ぎるとは、口が裂けても言えない・・・まな板だし・・・


 「あー!!また、まな板って言ったー!!!蟻のくせにーーー!!」


このやり取り前にもやってたな・・・思っただけで通じるの止めてほしいな。

 「そういう仕様なんだから仕方ないでしょ!!プンプン!」


若干怒り気味である!頬が膨らんでいる。


 「それで何?何か用事なの?」


「ああそうだった。この間、村を見せてくれたろ?そのお礼にインセクターの集落を一緒に見に行こうと思ったのだよ。」

腰に手を当てちょっと偉そうに言ってみた。


 「ああー!進化したインセクターね。私も見てみたいわ!」嬉しそうに答えた。

「それじゃー行こうか?分身で行く?そのまま行く?」


一応聞いてみた。何となくだが嫌な予感がしたからだ。

 「そうねぇ、分身で行くわ!私の美貌を見せつけないと!!」

何、対抗心燃やしてるんだよ・・・


「此処からは距離が大分あるけど大丈夫なの?。歩くの大変だよ?」

 「歩かないわよ?飛んで行けばいいのだもの。」

そんな事を言いながら分身に変わった・・・今日も北欧風の服を着ている。


どっから出したんだよ!


「空も飛べるのかよ!どんだけチートなんだ!」

 「チートじゃないわよ。これが普通なの!魔法で飛ぶだけだしー。行きたい方向に風を吹かせてそれに乗るだけだもの。」


「風に乗るって、たんぽぽかよ!!」

 「似たようなものね!さあ行きましょう!」


おおー張り切ってるな!

「じゃー付いて来て」


俺は先導するように飛んで行った。













 インセクターの集落に上空に到達すると俺は目を見張った。もう集落なんて規模ではなく完全に街だと思った。巨大な建造物スが彼方此方に存在する。

「久しぶりに見て吃驚した。こんなに成ってたのか・・・」


 「貴方も久しぶりに見たの?此れ凄いわねぇ。うちの村なんて比じゃ無いわ。インセクターの繁殖力って恐ろしいわね。」

ゴキブリみたいに言うなぁ・・・否定はしないけど・・・ちょっと呆れ顔になる。


 「ちょっと!私、あの黒いカサカサ動く奴、嫌いなのよ!名前言わないでー」

ムンクの叫びみたいな格好してる。相当嫌いなんだな。

 俺たちは最初の建造物の近くに降りていった。








 ゆっくり降りていくと出迎えが来ていた。俺はキュリアと一緒に踊り場に降り立つ。北欧風の長身美女と小さい光のシルエットを女王蜂とお供達が迎えてくれた。


 「ああっ。ケミン様ようこそ御出で下さいました。歓迎いたします。」


今度は人型なので綺麗なカーテシ―になっている。ミニスカートを抓んで上げると見えそうでヤバいな。何この眼が♡みたいになってるの?何でこうなってるの?

「有難う女王様、此方は、キュリアだよ、隣の湖の精霊だよ。宜しくね。」


キュリアも紹介しておく、なんか変な感じだな・・・ 


 「湖の大精霊様キュリア様ですか。お初にお目にかかります。インセクターハニービー種です。宜しくお願い致しますわ!」なんか語尾が強かったな・・・


 『此方こそ宜しく!!』

何対抗してるんだよ・・・初っ端から不穏だなぁ・・・


「まあまあ、女王様、今日は招いてくれて有難う。二人で街の中を見学したいのだけど良いかな?」


俺は二人を落ち着かせるように言った。

 「女王様だなんて・・・私の事は、ハニーとお呼びください。」


 『ハニーですってぇ!』


キュリアそこで反応するのか・・・青筋経って目が尖って美人が台無しじゃないか・・・

 『美人ぽっ・・・』


「お前は、百面相かよ!」

「まあいいか、じゃーハニー街を案内してくれるかな?」


 『ハニーって呼ぶんだ・・・』

「それは呼ぶだろ?俺がハニービーって名前付けたんだし?可笑しくないよね?」


「可笑しくありませんわ、ケミン様、では街を案内いたしますわ。」

なんか、キュリアがワナワナしてるけど・・・先に進もう。






 ハニーに連れられて中に入ると其処は巨大な蜂の巣だった。当たり前だけど・・・


ハニカム構造の区画が、幾つもに別れて、貯蔵庫だったり蛹の部屋だったり幼虫の部屋だったり、卵の部屋だったりが、整然と並んでいて其々に働き蜂が働いている。休眠部屋もあるようだ、まるでカプセルホテルみたいだった。一番奥には、ひときわ大きな女王の部屋があり、そこで卵を産むらしい。


 「此処が私の仕事部屋ですわ、今は一日二十個ほどの卵を産んでいますわ、これでも数が大分減りましたのよ、この姿になる前は一日百個ほど産んでましたの。」


キュリアは、呆気に取られて言葉も出ないようだ。気持ちはわかる。

「はぁ、凄いね。一気に人数が増えるわけだ・・・因みに今は、何人くらい居るの?」


 「大人として仕事をして居るのは、二万人ほどでしょうか、この建物一棟に五千人ほど住んでおりますわ、今は、六棟目を建設中ですわ。」

「二万人・・・あれから十倍くらいに増えてるんだね。」


 「はい!ここは食料が豊富ですから!まだまだ増える要素がありますわ。」

ハニーはにっこり微笑みながら言った。シャラランっと音が聞こえる様だ。この笑顔はヤバイ傾国の美女に微笑まれたら・・・


 『ケーミーンー!!』

あれ?キュリアがなんか怒ってるな、今日は一日怒ってるなぁ・・・


 『まったく!鼻の下伸ばして!!』

「いやいや!伸ばして無いから!」


 『そんな事ない!デレっとした顔してたー!』

「何を怒ってるんだよ・・・」本当に此奴は意味が解らない・・・


 『怒ってない!』

 「仲がお宜しいのですね。」

うふふっと笑ってハニーが言った。



 そろそろ日が傾き始める。丁度頃合いなのでお暇する事にした。

「じゃーそろそろ帰るよ、ハニー今日は有難う。」『ハニーって言うんだ・・・』

小声でキュリアが何か言ってるが気にしない。 


 「こちらこそ、大した持て成しも出来ず。」

「いやいや、街の中を見せて貰っただけで十分だよ」


 「何時でもまたお越しくださいませ。歓迎いたしますわ。キュリア様もいらして下さい。」


そんなやり取りをしながら出口に着いた。外はもう黄昏時であった。空は紫に染まり星が瞬き始めている。


「それじゃーまた、何かあったらラヴォージェの所に来てね。」

「キュリア行こう。」


そう言って二人で飛び立った。女王は手を振っていた。








 二人で上空で止まる。

もう日が沈み夜の帳が降りている。二人だけの時間が来た。


「どうだった?キュリアあれでどの位エナジーが溜まるかな?」

 「正確には解らないけど、千年は短縮できるんじゃないかしら、それに獣人も居るんでしょ?各種族の自然放出量だけでも相当量になると思うわよ。」


「獣人はそこまで多くないけどね。千年短縮しても10日は寝ないとだめかな?」

 「えぇっ?寝るの?」

吃驚した声を出している。


「うん、時間解除すると何が何だか分からなく成るだろ?それならば、ラヴォージェの中に塒でも作って寝てようかなって思ってたんだよ。」


 「そう なの・・・どのくらい寝るつもりなの?」

しょんぼりしながら聞いてくる


「とりあえず五百年くらいかなぁ。様子見で起きて分身が出来るようだったら作ろうかなって思ってるよ。キュリアは如何するの?」


 「私は、もう分身もあるし人の国が出来たからもう少し見てようと思うけど・・・私も少し飛ばすかもしれないわ。」


分身は消してぼわんと顕現体になった。

「あ!すずちゃんだ!」

 「もう!少し寂しくなるわねぇ。」


「いやいや!五日だよ。寂しいならすずちゃんも寝たらいいじゃない。五百年位は放っておいても大丈夫だろ?一緒に寝る?」

 

「一緒に寝る・・・バカ!」

顔から湯気が出そうなほど赤くなってるようだボシュッって聞こえてきそう。


「アハハハハ、冗談だよ。」


俺は揶揄いながらいった。すずちゃんは拗ねている。そんなやり取りをしながら夜は更けていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る