第5話 ウサギと蜂と人間達

人間進化しちゃった事件以来、キュリアには会っていない。たぶん忙しいのだろう。毎日会っていたのだから少し寂しい気もするが、キュリアの邪魔をする訳にも行かないので来るまで放置しておく。


 転生してから半年くらい経った。鳥も飛来する様になってきた。あちこちに鳥の巣も出来た様だ。生前俺は、梟が好きで、飼いたい鳥だった、仕事が忙しくて世話も出来ないだろうと諦めていた。今は、時々眺めに行っている。あの愛らしい姿を見ていると少し心が和んだ。


 だいぶ食物連鎖も整ってきたように思う。そこで一度、五百年くらい飛ばそうかと思っていた。

「ラヴォージェ、森もだいぶ豊かになってきたし、五百年くらい寝ようと思うのだけど」


 「ケミン様、何か忘れている事は御座いませんか?」

大概おちゃらけているラヴォージェが、真面目な調子で話している。

「忘れていること?何かあったか?」


 「はい、そろそろ忘れている事が、来る頃だと思いますよ。」

「忘れ物が来る?」


財布は落としてないしなぁ、てか財布を持ってなかったよ。お金要らないもの。

 「財布ならここにありますよ。」


ラヴォージェの花がひとつ実になり、パンとはじけて財布が出てきた。

「それ意味あるのかよ!財布要らないから!」

声を出して突っ込む。


 「要らなかったのですか・・・」

そう言うと財布が消えた。なんで出したんだろう。此奴は時々、意味不明なことをするよな。


そんなやり取りをしていると何かが此方にやってくる。ぞろぞろと・・・


 「やっと来たようですね。ウィローモス達です。」

「あー確かに忘れてた。種族集めるのに半年掛ったのか。」


顕現!!ぽわんと音がして姿が現れる。見えないと困るだろうから顕現して迎えることにした。


 ウィローモス達は、大集団になっていた。俺が森を探索したときには、数十匹くらいだと思っていたが、今は百人以上いるようだ。バニーガールもいる。人間より乳房の数が多い二対か、子沢山なんだろうな。カップルも出来ている様だ。夫婦で子供を両脇に抱えあやしながら歩いてきている。一度に四人も産むのか・・・


 そしていつ見ても毛並みは素晴らしいな。本当に触ってみたくなる。顔を埋めてモフモフしたら気持ちよさそうである。


 「ケミカリーナ様、我が種族、集結致しました。何なりとお申し付けください。」

「硬いなー。ケミンでいいから。それに皆で楽しく暮らしてくれたらいいよ。場所は何処にする?」


 「解りました。ケミン様、南にある川と支流の合流地点辺りにしようかと思います。」


「ああ、あの辺りは森にしてはわりと開けてるから住みやすそうだよね。良いと思うよ。」


 「有難うございます。それでは早速移動します。」

皆で一斉にお辞儀をして移動していった。慌ただしかったな。少しくらい休んで行っても良いのにな。


 「歩けるのが嬉しいのでしょう。たぶんあちこち寄り道しながら来たのだと思いますよ。それに、ずっと休んでいた様な物ですから、休みは必要ないのでしょう。」


ラヴォージェが言った。確かに生まれてから動けなかったのなら、歩けるのは嬉しいのかな?休みが必要ないとは思わないけどなぁ。


 「ああ見えてあの者達は、頑丈なんです。ちょっとやそっとでは、疲れないのですよ。」

「成程、疲れ知らずなら嬉しさのあまり動くって事か。」


 「そうですね。今頃は、ダンスでもしながら歩いているのではないですかね。」

「ウサギのダンスかよ!あいつら本当に踊るの?」


 「分かりません。ハハハ。」

冗談だったのか。笑いながら言っている。


 今日も日が傾き始めている。とりあえず、もう少し此の侭で居る事にするか。星でも見てこよう。

 上空に上がったが、今日もキュリアは来なかった。人間の進化だと相当忙しいのかな?


キュリアは真面目だから世話を焼いてるのだろうな。







 数日後、今度は女王蜂達がやってきた。十人のお供と一緒に上空を飛んで来ていた。

 「ケミン様、ご機嫌麗しゅう。」


 昔の貴族みたいな挨拶だな。両手は左右に軽く折り曲げながら広げ、中の手は腰のあたりに添えている、スカートを着ていたら軽く抓んでいるだろう。足は、右足を後ろに交差させて軽く関節を曲げている。軽く腰を折り会釈しているように見えた。見た目は昆虫だけどね。蜂だけどね。



 「集落が完成しましたわ。是非一度御越し下さいませ。歓迎いたしますわ。」

嬉しそうに微笑んでいる。多分・・・てか表情が、無いからわからない。


「おおー、良かったね。それで今は、何人くらい居るの?」

 「多分、二千人は居るかと、正直申しまして毎日卵を産んでおりますので正確な人員は把握しておりませんわ。皆私の子供達ですもの。」


「ああそうか、幼虫も居れば蛹も居るし、毎日卵産んでたら判らないよね。それにしても多いね。体は大丈夫なの?」

 「それが私の仕事ですから、大丈夫ですわ。それより、何時頃お越し頂けますか?」

もじもじしながら聞いてくる。こういう仕草を見ると女性なんだなと思う。


「そうだなぁ、七日後に、また森を見回るからその時に、寄らせてもらうよ。」

あまり早くても悪いだろうしね。


 「分りましたわ、歓迎の準備をしておきます。七日後にお待ちしておりますわ。それではごきげんよう。」

用事が済んだとばかりにそそくさと立ち去ろうとする。


「ああー。ちょっと待って、集落完成のお祝いを上げるよ。」

危なかった、進化させ損ねるところだったよ。

 「お祝いですか?」


「そう、集落完成伴って君達に名前を付けようと思うんだ。これから君達は、ハニービー種と名乗ったらいいよ。」


色々考えたけど結局普通になってしまった。


 その瞬間、女王蜂達は、光に包まれた。光が終息すると其処には、十一人の美女達が居た。


 女王蜂だった人を見ると、身長は蜂だった頃とは変わらず、二メートル以上あり、黒髪のショートヘアーで触覚のように髪の毛が、立っている。ツインアホ毛か?瞳は大きく虹目である、これは複眼の名残であろうか、本当に綺麗な目をしている。鼻はわりと小さく、口は薄い唇から八重歯が二本覗いている。


 身体は完全に人だが、腕が四本ある。黒いブラウスを着ており、これまた巨乳で、目のやり場に困る、ミニの黒いフレアスカートで裾には、白いフリルが付いている、


足は、すらりと長く虎縞のストッキングを履いている。


 もちろん翅も元のままだ。蜂だものなぁ。後ろの十人も身長は小さいが、全く同じ姿形をしていた。子供というよりコピーだと思う。

 「ああぁ、ケミン様、有難うございます。」


 感極まった声で、目を潤ませながら言った。後ろの十人は抱き合って喜んでいた。

これは色々ヤバイな、こんな、傾国の美女と言っても相応しい人から言われたら・・・


 惚れてまうやろーーー!


「喜んで貰って何よりだよ。これからも皆で仲良く暮らしてね。」


俺は平静を装いながら言った。もう彼女は凝視できない。俺も一応、男なんだな。肉体が有ったら多分息子が反応してたな!今ほど、分身が無くてよかったと思った事はないだろう。


 余りの嬉しさにお供に来た娘達は、八の字ダンスを踊っている。それって餌場を示すダンスだろ?喜びのダンスじゃないだろ?俺の常識が間違ってるのかなぁ?


 一頻りダンスを踊った後、やっと落ち着いてきた。


 「それではケミン様、私達は、帰りますわ。七日後にお待ち申しております。ごきげんよう。」

そう言って飛び立っていった。


うーん、あんな美人になるとは思わなかった。未だにドキドキしている。でも、虫なんだよなぁ。そこが残念である。


これで七日は、普通に居ないとだめだな。


とりあえず、今日は行動終了だな。何となく疲れたよ。


 「ケミン!ケミン!いる?湖畔に来て頂戴!」

あー、久しぶりにキュリアからだな・・・なんかご立腹の様子だな。俺は何もしてないのになぁ。何を怒ってるんだろう?だいたい想像つくけど・・・


とりあえず行ってみるか・・・


俺は、森と湖の境にある湖畔に飛んだ。そこには、案の定、仁王立ちしたキュリアが居た。

表情はプンスカと怒っている。真っ赤なドレスで襟元には、レースが付いており、かなり高級そうな装いである。頭には、ティアラまで乗っていた。


「やぁキュリア。久しぶりだねぇ。あれから如何してたの?」

極めて平静を装いながら言った。


 「如何したも斯うしたも無いわよ!私、女王にされそうに成ったんだから!!」

えらい剣幕で有る・・・俺のせいじゃないのになぁ。


「女王に?また何で?」

だいたい想像はつくが、一応聞いてみた。


 「人間が進化したからに決まってるじゃない!私が名付けしたのが判ったらしくて大変だったのよ!」

もう涙目になっている。相当大変だったようだ。


「進化したらどうなったの?」

 「姿は変わらなかったけど、一段、知恵が付いたみたいで、村が国になってたのよ。それで私が初代女王にって・・・」


「あぁ、アダムとイブが、知恵の実を食べたって事ね。」


 「もう大変だったんだからーーー!国の名前も決めて、大臣たちも決めて、国として動くか確認してさー!次の王様を指定してやっと解放されたんだから!!」



「お疲れ様でした。それで国の名前は?」

 「もう面倒だからケミカリーナにしたわよ!」


「何で俺の名前なんだよ!そこはキュリアだろ!!」

 「五月蠅い!!!もう決まったの!!!自分の名前だと恥ずかしいもの。」


俺だって恥ずかしいのになぁ。肖像権の侵害にならないか?名前だけだと無理かな?それにこの世界にそんなのはないか・・・


 「兎に角、国は出来たから、人口も増えるわよ!本当に大変だったわ!!あー疲れた!!」

大仰にいってるなぁ。ちょっと慰めてやるか。


「はいはい、大変だったねぇ。それで俺は如何したらいいかな?」

 「じゃーぁ、キュリアちゃん大好き、愛してるよって言って!!」


「言うかそんな事!なんで愛してる事に成ってるんだよ!」

 「チッ、騙されなかったか。」


舌打ちしてるし・・・なんで騙されると思ってるんだよ。可哀想だからちょっとは言ってやろうかと思ったけど、此奴は絶対に勘違いするからな!


「しかし、久しぶりに会えて良かったよ。これからまた自由になるのか?」

 「うん。やっとだよ。四ヵ月も掛かっちゃった。」


「そうか本当に大変だったな。俺も色々あったよ。」

俺は、会えなかった四ヵ月間の事を詳しく話して聞かせた。


また、キュリアとの時間が戻ってくる。そんなことを思いながら・・・


 二人の夜は更けていった。

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