第4話状況確認と村を見よう 後編

今俺は、キュリア湖の畔まで来ている。村まで歩いて2時間ほどの場所である。この辺りは比較的人が来ない場所らしい。一応、顕現して待つことにした


 湖を眺めてみると水平線が広がっている、広すぎて向こう岸が見えないのだ。湖面は朝日に照らされてキラキラと輝き、所々で小さな波紋が広がっている。魚たちの食事タイムなのであろうか、水面に落ちた虫を食べているようだ。風はそよそよと流れ湖面を揺らしている。遠くの方では、朝霧が湖面に漂い上空には虹も掛かっており、なんとも幻想的な風景になっている。


「綺麗だなぁ」思わず独り言ちた。

 「ワタシ、キ・レ・イ?」



「おおぉー ビックリしたー!お前は口裂け女かよ!!!」

思わず突っ込んでしまった・・

いつの間に来ていたんだ。本気マジで焦った。


 「私、綺麗でしょ? うふふ♡ 惚れた? ねえねぇ?」

「綺麗なのは、湖だー!!惚れるか!!」


 「えーーー! 私が湖だもの!この風景は私だもの!だから私が奇麗なの!惚れたでしょ?」

あっ 言われてみれば、確かにそうか、でも何か腑に落ちないな。この奇麗な風景とキュリアは何か違うような・・・


「確かに綺麗な風景だけど、それで何で俺が、惚れたことになるの?」


 「だって、生前の最後の占いで二人で綺麗な風景を見ると恋愛が成就するって言われたんだもの」


なにそれ!俺は、関係ないじゃん!俺、占い信じないし!てかどれだけ前の話なんだ!

 「関係なくない!わたし、貴方のこと・・・」


なにかごにょごの言ってるな。なんで顔が真っ赤なんだ?まあいいか・・・


今日の服装は、北欧風なのかな?色々なの持ってるんだなぁ。女性だから当たり前か。


「この服も可愛いでしょ?割とお気に入りなの。」


ショルダーレスのブラウスで胸元まで大きく開いている。一際、胸が目立つ仕様だ。

この分身を見てると顕現体(現物)を知ってるだけに若干哀れに思う。俺は目を逸らしながら言った。


「うんうん、似合ってるよ。」

 「そう、良かったぁ。有難う!!」


喜んでるな・・・まあいいか・・・


「そろそろ行こうか、早く見てみたいんだよ。」

 「解ったわ、姿を消して私に付いて来てね。」


やっと村に行ける。ワクワクしてきたな。姿を消し後に付いて行く事にする。

湖畔のわき道を村に向かって歩いて行く。なぜか、キュリアもウキウキしているようだ。


こころなしか足取りも弾んで見える。

 「デート、デート、ケミンとデート」


 なに浮かれてるんだよ此奴は、訳分からないなぁ。村の見学に行くだけなのに・・・そんな事を思っていると、キュリアは、拗ねたような膨れっ面でこちらを見ていった。


 「良いのよー私が嬉しんだから!ちゃんと付いて来てね!」

そんな事を話しているうちに村に近付いてきた。




 村に続く道の両脇には、畑が広がっている。いろいろな野菜、小麦などが、青々と育っていた。畑では、農作業をしている人達がいた。畑に向かって両手を伸ばし手のひらを向け何かつぶやいている。すると、手のひらからシャワーのように水が撒かれたのである。


 「ウォーターシャワーよ、あれが魔法なの。」


おおー!あれが魔法なのか!初めて見た!村人が普通に魔法を使えるんだな。


 「そうそう、今のは水魔法で、風魔法も土魔法もあるわよ。風魔法では家畜の餌になる草を刈ったり纏めたり、土魔法は畑を耕したりね。」


なるほど、仕事で魔法を使うのがこの世界なのか・・・


俺たちは村の中に入る。50軒ほどの集落であろうか、村の中央には、倉庫のような大きな建物と広場がある。広場では子供たちが楽しそうに遊んでいた。


キュリアに子供達が、近付き一緒に遊んでいる。


子供かよ!まぁキュリアらしいと言えばらしいけど。

一通り遊んだ後、キュリアは子供達を連れて川岸まで来た。川の水を魔法を使って押しやっていく、空気の塊を押し付けているように見える。


 半円状に水が無くなり子供たちが底に降りる。すると水の壁から魚が飛び出し川底でピチピチ跳ねている。それを子供達が、ワイワイ騒ぎながら拾っていく。


全員が、魚を拾えると川岸に戻らせ魔法を解く。すると何事もなかったように水が戻り元の状態に戻った。

 子供たちは嬉しそうに「お姉ちゃんありがとう」と言いながら帰って行った。



 俺達は、また村に戻り、他の場所を見て回ったりした。家畜用のサイロも有ったり倉庫には、村人が十分食べていけるだけの食糧があった。鍛冶屋もあるようで、生活道具を作っている。皆で働き皆で分けて食べる。そう言う生活をしている様だ。 生活水準が高いとは言えないが、普通に生活できている。俺はもっと原始的な生活をしているのかと思っていた。


 国という概念がないと言っていたが、この村が小さな国みたいになって居るのだろう。

それぞれが適職を持ち、この村の中だけで、自己完結できるのだ。大きく纏まる必要がないのだろう。


今後人口が増えてきた時に新しい方法が始まるかもしれないが・・・



 「どうだった村の様子は?」

今は、日課の星空の下で話している。


「思ったより生活水準が高かった。もっと人口が増えたらどうなるのか楽しみだね。」

 「そうなんだけど、中々増えないのよねぇ。あの村は子供を含めて四百五十人位居るのだけど其処から殆ど増えてないのよ。原因は不明なのよ。」


「キュリアが、判らないならこっちに来て二ヵ月弱の俺にはもっと判らないなぁ」

「そう言えば、人ってあれ以上進化するのかな?」


「ラヴォージェが、インセクターの女王に名前を付けると進化するって言ってたよ。人も村長に名前つけたら進化したりして?」

 「それは考えてなかった!人って名前が、付いていると思ってたから!」


「それはそうだけど、俺達の名付けって種族名を指定するみたいだよ?岩ウサギに名前付けた時、種族だって言ってたから。」


 「それじゃー、貴方達は人間種ですって言ったら進化するのかな?」


その瞬間、下の湖の方で何か光り輝いた。そしてゆっくり消えていく。


「あー、遣っちまったな、キュリアおめでとう」

俺は笑いながらそう言った。


 「えぇぇぇ、今ので名付けになっちゃうの?」

キュリアは、驚いている。目を大きく見開きこちらを凝視している。


「今まで名付けたことなかったのか?」


 「名付けなんて私の貰った情報にはなかったわよ。」

「それもそうだな、俺も偶然付けた事になったし」


 「もう早く言ってよー。これからどうなるんだろう?」

「判らないけど、何か変わると思うよ。」


明日になったら判るよと慰めておく、キュリアは慌てて居る様だが、なってしまった物は仕方がない。



そんな話をしながら今日も夜が更けていった。

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