第3話 状況確認と村を見よう 前編

約1ヵ月ほど俺は、普通に過ごしている。時間を飛ばしてもよかったのだが、劇的に変化していて、此処は何処?私は誰?浦島太郎?みたいになるのが嫌だったのもあった。


 それに、日々成長する果樹をぼーっと見ているのもそれはそれで楽しかったりするのだ。


最初の1週間で木々は成長し花を咲かせていた。花には蜜蜂や蟻が集まってきたりして昆虫の数もかなり増えてきているのも解るし、数日で林檎が赤くなるのを見ていると無性に食べたくなったりした。まだ食べられないけど・・・


 果樹は、大森林に満遍なく行き渡っているようだが、南北に長い大森林だから北と南では、果樹の種類が偏っている、寒さに強い果樹は北の方に南の方には、バナナやマンゴウと言った果物まである。


 果樹が増えれば、動物も増えていった。爬虫類や草食性の動物では、鹿、野生の山羊や馬や羊、兎、雑食の猪、猿、川の近くにはテンや鼬、両生類や魚達など、それらを狙う肉食獣も増えてきていた。


 中央部のラヴォージェ周辺は、なんでもある。定期的にラヴォージェが種を蒔いているからだ。歌を謡いながら・・・



 「イリュージョン♪イリュージョン♪イリュージョン♪イリュージョン♪不思議な花が咲くよー♪不思議な種が出るよー♪」


何で謡いながらなのか、意味が解らない。何がそんなに嬉しいのか・・・

まぁ、役に立ってるから良いのだけれど、少し五月蠅い・・・


「ラボージェ?燥ぎ過ぎだよ!ちょっと五月蠅いよ!」


 「申し訳ありません。ケミカリーナ様、森が発展していくのが嬉しくてつい・・・」


「あー、ケミンでいいよ。そこまで畏まらなくても良いから。まぁ、嬉しいのは解るけど程々にね。」


 「解りました。ケミン様、程々にします。」

と言いながらラヴォージェは鼻歌を歌い出した。結局、歌うのは変わらないのか・・・

これはもう諦めるしかないか・・・



 今、ラボージェには、巨大な薔薇の花が咲いている。もうかれこれ1週間近く咲いているのではないだろうか。今回は、珍しく直ぐに種にはならなかった。色も種類も違う,真っ赤な薔薇や紫の薔薇、色とりどりである。花が大きければ、寄ってくる昆虫も巨大になるようだ。


 今は、巨大な蜂のような昆虫が、複数飛んできては、蜜を集めているようだ。


 蜜蜂と足長蜂の中間のような蜂で、顔には、巨大な複眼があり、長めの触覚もある。胴体はすらっとしていて、足が六本出ている。お腹は膨らみ気味で縞模様が付いている。前足には花粉団子が付いている。一見すると黄色いポンポンを振るチアリーダーのようだ。中の足は花びらで体を支え、後ろ脚はかなり長くなって、葉っぱの上に立っているように見える。


 身体のサイズは、触覚の先から後ろ脚の先までで、160㎝は超えているだろう。


くっ 俺は、蜂にも負けるのか・・・虫に負けるのか・・・ガクン


そこは置いといて俺は、こんな巨大な蜂達が、いったい何処から来るのか興味が湧いた。

 そこで、後を付いて行く事にしたのだ。蜜を集め終わったのか、飛んでいく蜂に視線を固定し、適当に距離を置きながら付いて行った。羽はかなり大きいが、せわしなく羽搏いている。ブーンという羽音が、離れていても聞こえてくる。北西に二十キロほど進んだ所に湧き水が岩肌から湧いている場所が何カ所かあるのだが、その近くに巣は存在していた。


 もう巣というよりは、巨大な建造物だった。何本もの木を柱にしてその間に巣を作っていた。巣のちょうど中間あたりに踊り場が出来ており、蜂達が出入りしているのが解る。それも二足歩行で・・・数百匹の蜂達が巣の周りを飛んでおり、巣作りをするものや餌を集めに飛んで行くものなど、せわしなく働いている。インセクターの集落だったのだ。


 いつの間にこんなに湧いたのか・・・果樹の見回りをしている時には、全く気付きもしなかった。いきなり数百人の集落が現れたのである。かなり動揺した俺は、思わず顕現してしまった。それに驚いたのは、蜂族のインセクターである。一瞬で数十人の蜂族に囲まれてしまったのだ。俺は、ばつが悪くなり言った。


「ごめんよ。驚かすつもりは無かったんだ。俺は、ケミカリーナ大森林の意思だよ。ケミンと呼んでほしいな。君達は俺を害することは出来ないし、俺も君たちを害さないから安心して欲しい。誰か話の出来る者はいるかな?」


 話の出来る者を呼んでも何を話して良いか分からないから少し困るが、意思疎通できる者がいないと困るからなぁ。


 そんな事を考えていると、集落の踊り場に一人の蜂族が出てきた。一回りも二回りも大きい蜂族で、身長は、2mを優に超えている。デカすぎだろ!たぶん女王蜂なんだろうなぁ。


その蜂族はその場で跪き、俯いていた。それを見たほかの蜂族たちは、俺を取り囲むのを止め道を開けた。俺は、女王蜂らしき蜂族に近付いて行った。


 「ケミカリーナ大精霊様、本来此方から御伺せねばならぬ処、此方に来て頂き、恐縮至極に御座います。私は、蜂族を取り仕切っている女王蜂に御座います。以後お見知りおきを宜しくお願い致します。」


硬い!!ちょっと疲れそう。


「そんなに恐縮しなくていいから、俺はそこまで偉くないよ。大精霊も要らないからね。ケミンと呼んで欲しいな。それで、何時頃からここに居たの?」



 「ケミン様ですか?解りました。こちらに住まわせて頂いたのは、二週間ほど前になります。この森に着いた時、あちこちに果樹の花が咲き誇っており、この場所に定住することを決めたのです。集落が完成したら御伺に行こうと思っておりました。」


 ああ、二週間前か丁度一通り見終わった後に来たって事か、しかし、二週間でここまでの集落が作れるのか、凄いな。


「此処に定住してくれるのか。有難う。皆と仲良くしてね。あと困った事が有ったら何でも相談してね。」


 「あぁケミン様、定住を許可してくださいますのね。有難うございます。私たちも誠心誠意尽くしますわ」


なんか急に女性らしくなったな・・・しなしなしてるし、複眼だから表情はよくわからないけど・・・まあいいか・・・


「じゃー俺はもう戻るから、何かあったらラヴォージェの所においでね。」



 「ケミン様はお優しい・・・解りましたわ。ごきげんよう。」


蚊の鳴くような声で言っていたがよく聞こえなかった。


何か言ったみたいだけど・・・まあいいか・・・俺は戻ることにした。





いまだに鼻歌を歌っているラヴォージェの所に戻ってきた。よく飽きないで歌ってられるな!

「ラヴォージェさん。まだ歌ってるのですねぇ・・・」

 「これはこれはケミン様、お帰りなさいませ。蜂族の集落はいかがでしたか?」



「お前は知ってたのかよ!なんで言わないの?びっくりしたじゃん!!」

 「知ってるも何も飛んで来ていたではないですか。一目見たらわかりますよ。だから花をずっと咲かせていたのですから。」



「俺は、インセクターなんて見たことなかったよ!!ちゃんと教えてよ!!」

 「なるほど、それは失礼しました。これでまた住民が増えると浮かれていたものですから。」


ああーそれでずっと鼻歌とか歌ってたのか・・・まだ歌ってるし・・・

 「それで、女王蜂にはお名前を付けたのですか?」

「いや、付けてないけど・・・・」


 「なんと!!!おあづけだったのですか・・・名前を付けてあげれば、もう一段進化したのですが・・・」

「そういうことは早く言ってよ!!可哀そうな事したじゃん!」


 「前に岩ウサギに名付けなさってたから、てっきり解ってるものだと思いまして・・・」

「あれは偶々だから!ウサギなのに水草の名前になってちょっと可哀そうだって思ってるんだから!」


 「ではこうしましょう。集落が完成したら此処に女王と来るように蜂達に伝言しておきます。その時に名付けなさればよろしいでしょう。」

「そうか。それもそうだ。今度はきちんと考えてあげよう。」


そんなやり取りをしているうちに夜の帳が降りてきた。




俺はまた、上空に昇って行く。これは、ほぼ日課に成っている星空を眺めるために。

上空に着くとキュリアがいつものように追ってくる。


 「ケミン、今日は何してたのかなぁ?私に教えて?」

「すずちゃんか、今日は、インセクターの集落を見つけたよ。数百人はいたかな?」


 「あら、良かったじゃない。新しい住民が増えたのね。インセクターは増えるのが早いからエナジーが溜まるのも早くなるわよ。分身に一歩近づいたわね。」



「そうだな。分身は、早く欲しいな。そう言えばさ、村に行った事が有るって言ってたよね?人の暮らしってこの世界はどうなの?」


 「見てみたいの?じゃー明日一緒に行ってみようか。私は分身で行くから貴方は、ついてきてね。顕現すると人は、驚いちゃうから顕現しちゃだめよ。」


俺は、インセクターの集落を詳しく話した。そんな事を話しながら夜は更けていった。

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