海と、人

バブみ道日丿宮組

お題:やば、潮風 制限時間:15分

海と、人

 人の声がしたという彼女の言葉を信じないわけじゃないが、可能性はかなり低い。

 とはいっても、確認しに行かないのはもっと可能性を阻めてしまう。

「……ん」

 大分海に近づいたこともあって、潮風がたまに吹いてくる。

 人の怒鳴り声のような風はときより、身体を竦ませる。

「……」

 後ろを振り返れば、彼女が座って縮こまってた。

「鬼、鬼の声がするの!」

「もしかして潮風のこと?」

「違うの! 鬼、鬼なの!」

 要領を得ない返しだ。

 周囲に目を向けても、それらしいものはない。

 あるのは壊れた住宅……それも空爆によって破壊された残骸。この場に生き残ったのは僕と彼女と数名。今は二人しかいないから、誰かがいるというのはとても重要なことだ。

 もしかしたら、外の情報を持ってるかもしれない。

 もしかしたら、助けてくれるかもしれない。

 もしかしたら……敵かもしれない。

 いろんな情報が取れるのには間違いはない。

 だから、撃たれても大丈夫なように防弾チョッキを二人きて、頭にはヘルメットをかぶってる。

「声はどっちから聞こえるの?」

 あっちと、彼女は指差す。

 それは海岸にある洞窟を指差してるようで、

「あの中?」

 再度言葉を作った。

「怖いよぅ」

 抱きつかれてしまった。

「大丈夫だから、ほら見に行こう」

 怖がる彼女を地獄に落とすみたいな言葉だが残してくよりいいだろう。

 ここに彼女と僕しか残らなかった主な理由が彼女。怖がりで、行動したがらない。いわゆる、お荷物というやつだ。

 本当は僕も外に情報を集めに行きたかったが、彼女を置いてくことはできなかった。

 小さい頃からの友だち、幼馴染を一人ぼっちにするのは無理だった。

「穴があるね」

 洞窟の前までくると、洞窟にいくつかの穴があいてあり、そこを風が通ってるのが確認できた。

「ごーぎーごぎー、怒ってるの」

「違うよ。これは洞窟を揺らして起こってる音だよ」

 見てご覧と、その穴に彼女の視線を向ける。

「人じゃないよ。ただの土。ある意味人じゃなくて良かったよ」

 視線を彼女から、海へと移す。

 そこには青い海はなく、赤い海ができてた。

 潮の匂いはなく、化学塗料の悪臭。生命が生きられない場所がそこにはあった。

 海が無事であれば、魚釣りなどをして食料確保もできたんだけどな。

「戻ろうか」

 びくつきながらも、彼女は僕の後ろについてくる。

 これからもこんな出来事が増えてくのだろうか。


 未来は闇の中に存在してるのかもしれない。

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海と、人 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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