サクラ
最弱の枝が天から降ってきた。ある朝僕が登校していると、頭に衝撃。両腕を広げたほどの長さの細い枝が落ちてきたのだ。こいつはいったいどこから落ちてきたんだろう。
振ってみる。折れるのが心配ですぐにやめた。
少年の心をくすぐる棒や枝とはまるで真反対。この枝を好む少年はまずいないだろう。
僕以外には。
すぐに折れてしまうような繊細さは、まるで女の子のように庇護欲をそそった。それにソメイヨシノは挿し木によって増えると聞いたことがある。この枝がなにかは分からないけど、庭に植えて水を上げていれば、木になるかもしれない。
挿し木しよう。僕は細心の注意を払って、最弱の枝をランドセルで一旦学校に持っていき、下校するときにそうっと持ち帰った。気分はお姫様を護送する騎士の気持ち。
どんな風に育つのだろう。最弱の枝を庭に植えて、じょうろで水をやる。
三日経つと庭の土に根付いた。五日経つと新芽が枝から発芽し始めた。学校で植物図鑑を調べても、該当する植物がない。僕は何を拾ってきたんだろう。
水をやりつづけて一年が経った。枝は僕の背丈を少し越すほどに成長し、大きく膨らんだつぼみをつけている。この一年、枝を育て続けたが、枝への関心は衰えるどころか増すばかりだ。
つぼみが徐々に開いていく。おや、桃色の花びらからたおやかな手が出てきた。少女の手だ。僕は夢中で、彼女の手を掴んで引っ張った。怖いという感情はなかった。
すると、まばゆい桃色の閃光が炸裂する。目をぎゅっと閉じ、開けると、枝は庭から消えていた。代わりに僕と同じ年ごろの少女が、手を繋いで微笑んでいる。彼女の桃色の瞳には、僕だけが映っている。
きっと天からのギフト。僕と、彼女—――サクラが恋に落ちるまで時間はかからなかった。
お題:「天」「少年」「最弱の枝」
ジャンル:「純愛」
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