とある午後
「んー! 美味しかったぁ」
「満足してもらえて良かったよ」
「ふふっ。流石さんちゃん」
「言い過ぎだろ?」
いやいや、本当に美味しかったよ? っていうよりね。私、服装の事ばっか気にしてて、何処に行くとか全然考えてもなかったんだよ? なのにさんちゃんが自然とエスコートしてくれて……その時点で嬉しい。
お店も私好みだしさ? こんなのハート鷲掴みされない訳ないじゃない。
それに、お互いのご飯シェアしたのに追加でチキン南蛮くれてさ? やっぱり優しい…………はっ!
まって? あの時全然気が付かなかったけど、かかっ間接キスじゃ!?
キャー。待って待って一気に顔が……
「ん? どうしたフェリシティ?」
「ふぇ? なっ、何でもないよ?」
「そうか。じゃあ次は……」
おっ、落ち着きなさいフェリシティ。
間接キスで動揺するなんて……つつっ、付き合ってるなら当たり前なんだから。
うんうん。
当たり前なんだよっ!
「よっと」
「あっ! このぉー」
ハァ、ハァ。ぜっ、全然ボールが取れないんですけど?
っていうか、黒前にもこんな室内でスポーツが楽しめる場所があるなんて正直驚き。やっぱり、体を動かすのはいいなぁ。
それに、
「大丈夫かー? フェリシティ」
「まっ、まだまだぁ」
さんちゃんバスケ上手すぎでしょ?
流石県代表に選ばれるだけの事はある。小さい頃に言ってたもんね?
『俺、NBA選手になるからよぉ』
その言葉を信じて、日々ネットで情報を見てたなんて恥ずかしくて言えないよ。
「休むか?」
「うん……って、隙あり!」
「あっ!」
「やっ、やったぁ!」
「やられたわ」
「ふふっ」
けど、こうして2人でバスケが出来るなんて……やっぱり嬉しいな。
「お待たせしましたー日替わりスイーツセットになります」
「来たな? おぉ、これは……」
「ショートケーキにチーズケーキ! 美味しそう」
結局あの後、バスケにバレーに卓球と汗を流した私達。
正直、もう大満足だったんだけど……さんちゃんは止まることを知らなかった。外に出た瞬間、
『じゃあ次は糖分補給だな?』
いやもうね? 甘いもの好きとしては……と言うより、全女子がテンションの上がる言葉だと思う。
こうして案内されたのはここスイーツショップ。そして滅茶苦茶美味しそうなケーキ達。
「じゃあ食べよぜ?」
「うんっ! いただきまーす」
おっ、美味しい。美味しすぎる……
「んー! 美味しい!」
「確かにっ! やっぱ美味しいな」
最高だよ……最高だよ……さんちゃん!
「フェリシティ、どこか行きたいとこあるか? って聞いたけど、ウィンドウショッピングって……」
ごっ、ごめんねさんちゃん! どこ行きたいかなんてパッと浮かばないよ。だって、2人で居るだけで満足なんだもん。
それでも精一杯出した答えがこれなんですっ! ゆっ、許してちょうだい。
「こうして歩きながら、他愛もない話をする。これも立派なデートでしょ?」
「おっ、おう。確かに」
って、どの口が言ってるのぉ! あぁもう、撮影ならスラっと言えるのに。全てが恥ずかしく感じちゃう。とっ、とにかく自分が言い出した事なんだから話題よっ! 話題!
「あっ、見て? さんちゃん? スポーツショップ」
「うん?」
「これって……なんか滅茶苦茶格好良いバスケットシューズ!」
「そうだな」
「さっきの動きといい、やっぱりさんちゃんはあの頃以上にバスケ上手いなぁ」
「そうだといいけどな……」
あれ? ……あっ! やってしまった! 私のバカバカ! なんでさんちゃんがバスケ部に入ってないか知ってるじゃん。それこそ、さんちゃんの口からは聞いてないけど、伯父さんから……黒前高校のバスケ部監督から聞いたじゃない。あとアリスお姉ちゃんからも!
やっ、やばい。地雷を踏んじゃった。
「さんちゃん……?」
「あっ、悪い悪い。何でもないよ」
めっ、めちゃくちゃ暗いよぉ。雰囲気ぶち壊したぁ!
あぁどうしようどうしよう。考えてフェリシティ。さんちゃんのテンションを上げる、この雰囲気を和らげる策を考えて!?
話題? 今からだと不自然過ぎるよ。
じゃあ一体……あっ! 手……手を……うん! えいっ!
「えっ? フェリ……」
「うん? どうかした? さんちゃん」
つっ、繋いじゃった! さんちゃんの手のぬくもり感じるよぉ。
「いっ、いや。なんでもない。そっ、それよりアッチ見ないか?」
「うっ、うん」
少しだけ握る手に力が入ると、徐に手を引いて歩き出したさんちゃん。
心臓の音が大きい。顔が熱い。
だけど、心の底から嬉しい。
こんな光景が、この時間がいつまでも続いて欲しい。
これからも、ずっとずっと。
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