金髪の女子高生

 



 世間の学生らが夏休みを満喫している。

 そんなとある日。


 ブランコに乗る2人の内、左側に座る金髪の女子高生。

 そんな彼女は……テンション上がりっ放しだった。


「本当? おかしいねっ」


 表向きは明るい表情で言葉のキャッチボールをしているように見えるが、あくまで表向き。

 心の中では、



 はぁ……さんちゃん。格好良過ぎっ!



 常にそんな感情に溢れていた。

 まぁ、そんな状態になるのも致し方ないか。


 今この状況は、それこそ約11年間待ち焦がれた光景なのだから。


 金髪隻眼を携えた彼女の名前は、フェリシティ・グレース・テイラー。イギリスから、ここ日本の黒前高校へやってきた転校生だ。


 正直これだけ聞いただけでも、いくつか疑問が浮かんでくるだろう。

 なんで日本?

 ここに来てそんなに経ってないのに日本語上手くない?


 それらは至って普通の疑問だ。誰だってそう思う。

 ただ、その答えは簡単だ。


 全ては隣に座る彼に会いに来る為。

 そして約束を果たす為。


 幼少期のフェリシティはその可憐な顔は元より、どちらかと言えば大人しい女の子だった。

 両親は共働きではあったが、フェリシティとの時間は惜しみなく作るなどその関係は良好そのもの。幸せな家庭環境の中、すくすくと育っていた。


 そんな中、彼女は5歳の時、両親の出張の関係で日本を訪れる事になる。滞在中、国内のあちこち飛び回らなければならない日本出張。その間預けられたのが、彼女の母親の姉。そう、ここ黒前に住んでいる伯母の家だった。


 両親と離れるのは寂しいと言えば嘘になる。ただ、彼女にとっては日本にプチ旅行で来れた。そんな嬉しさの方が勝っていた様だった。


 全く違う景色と空気。飛び交う日本語。

 優しい伯母夫婦に、まるで本当の妹の様に可愛がってくれる従姉。


 毎日が楽しかった。毎日が新しい発見ばかりだった。

 そしてそんなある日、彼女は意を決して1人で冒険に出掛けた……そう近くの公園に。


 ただ、その公園で待ち受けていたのは、同じ位の子ども達による怪奇の目とハブこうとする雰囲気。そして容赦のない悪口。

 その頃、殆ど日本語が分からなかったフェリシティも、表情や雰囲気でに見られているのは察していた。


 怖い。泣きたい。

 しかし、そんな感情に押しつぶされそうになった時……颯爽と現れ、そんな雰囲気を一蹴した子が居た。


 そう、それが隣に座る算用子拓都。そして、フェリシティはそのヒーローに恋をした。

 早口で何を言っているかはよく分からない。けど、その仕草と手を引いてくれた行動だけで、味方なのだと理解出来る。


 そしてその日から、2人はほぼ毎日この公園で遊ぶ様になった。


 アスレチックやジャングルジムに丘の上から駆けっこ。当時日本で流行っていた戦隊シリーズごっこ。

 何とも男の子らしい遊び方だったが、フェリシティは不思議と嫌ではなかった。それどころか、楽しくて仕方がない。


 そしていつしかお互いを、【ティー】【さんちゃん】と呼び合う程の仲になり……2人の間には常に笑顔が溢れていた。


 しかし、そんな時間も永遠じゃない。

 両親の出張が終わり、イギリスへと帰る日が近づく。


 フェリシティは嫌だった。けど、そればかりはどうする事も出来ない。


 そして最後の日。勇気を出して口にした。

 従姉に教えてもらった、大切な人にだけするお願い。そして大事な約束。


『アノネ、サンチャン。ショウライワタシト……ケッコンシテクダサイ』

『けっこん? なぁに言ってんだよ! 良いに決まってるだろ?』


 そんな嬉し過ぎる返事を胸に、フェリシティはイギリスへと帰った。

 拓都から貰った戦隊シリーズ、劇熱戦隊バトルレンジャーの変身ベルトを大事に抱えながら。


 こうしてフェリシティはイギリスに帰国。馴染みのある普段と変わらない生活を送った。強いて変わったと事と言えば、拓都と一緒に居たおかげで伝染のか、大分……というよりかなり性格が明るくなった事だろうか。もちろん、日本での思い出や、約束を片時も忘れる事はなかった。

 そしてある日の休日、母親と歩いていた時……転機が訪れる。


 それは子役スカウトだった。


 正直話の内容は良く分からない。ただ、母親とそのスカウトらしき人との会話で聞こえて来たのは、後々映画……という単語。


 その瞬間、フェリシティの脳裏に浮かんだのはヒーローの姿。

 そしてあの日貰った、変身ベルトの裏に書かれていた、さんようしたくとの名前。


 もし子役として活躍出来れば……女優としてスクリーンに登場出来れば……その映画が日本でも公開されたら……


 離れていても、自分の事を忘れないのでは?


 彼女の答えは一瞬で決まった。


 そこからの彼女の努力は目を見張るもの。

 感情表現やセリフの暗記は勿論、日本語の勉強まであらゆるレッスンを進んで受けた。その背景には会うことの出来ない拓都に、スクリーンでも何でも良いから自分の姿を目に触れて欲しい。動機としては不純だったかもしれない。


 ただ、それだけで続けられるほど甘くはない。

 彼女にとってその仕事は合っていたと言っても良い。いつしか演じる喜びを心から感じられるようになったのだから。


 こうして数々の映画にも出演し、有名になったフェリシティは16歳になった。


 16歳。

 その年齢が示すことは1つ。勿論彼女がそれを忘れる訳がない。

 だからこそ、両親に話し説き伏せ……ここに来た。いや? 戻って来たという方が正しいか?


 そう、この黒前に。


 黒前高校へ来てからは色々あった。

 余りの嬉しさに恥ずかしい事をしてしまったり、拓都に迷惑も掛けた。ちょっとした現実を目の当たりにして落ち込んだ事もあった。


 だが、今はこうして11年越しに再会し、その姿に顔が熱くなり、胸がキュンキュンしまくる。 

 それ程までに……彼氏と呼べる関係になった、隣の男の子の存在は大きいらしい。


「おーい? 聞いてるか? フェリシティ」

「ふぇ? もっ、勿論だよぉ」



 って! ヤバイヤバイ見惚れちゃってたよぉ! ダメダメちゃんと話は聞かないと。それにしても……やっぱり格好良いなぁ……



 良い意味でも悪い意味でも、頭の中が彼の事で一杯になる位に。



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