第10話 倒せない敵

 5月下旬 ある日の朝

 俺は徹夜明けで帰ってきた。



「あ゛ー」

「おかえり悠莉」


 職員室的なところには快音しかいなかった。


「ただいま。ここで寝るね! もう気力ない」

「あ、うん」


 職員室的なとこにあるソファーに倒れ込んだ。


 ◇◇◇


 午前 屋上

「なあ、お前、名前なんて言うの」


 傍から見たら独り言言ってるやばい奴。俺は中の怪物に話しかけてみる。


「名前なんか聞いてどうする」


 こいつの声は俺にしか聞こえてない。


「名前ぐらい教えてくれてもいいだろ」

千騎せんきだ」

「ふーん……いい名前じゃん」

「なんだよ」



「千騎は強いの? っていうか強いんでしょ?」

「うん。強い。お前が今まで戦ったのよりは確実に」



「じゃあさ」

「俺、まだお前を信じきれない。だから面白くないやつとは戦わない。つまり、助けない」

「じゃあ、死にそうになったら、どうしようもなくなったら助けてくれる?」

「……いいよ。また適合者見つけんの、めんどくさいし」



 午後

「今日は4人?」


 悠楽がそう聞いた。相手は快音くんだ。


「そう、4人」


 4人とは俺、夏向、悠楽、桜愛の4人。

 悠莉はいるけど快音くんが座ってるソファーで爆睡中だ。


「今回は廃墟。警察が調査で中に入ったら連絡が途絶えたってことで急きょ依頼された。でも、いける人上でいなくて、俺も行かなきゃいけなくて、悠莉はこんなんだからさ、頼む」



 と、いうことで廃墟にやってきた。


 結構大きめの家。住んでた人が自殺して、今は空き家。



「うわぁ……結構おっきい……」「やばそう……」「怖い……」


 次々にそう言った。


「勝手に入らないでください」


 そう言われたが、悠楽が学生証を見せて、中に入った。



「空間閉鎖」


 悠楽がそういうと廃墟の周りに黒い膜が現れた。


「これは……?」

「住宅街だし、真夜中なわけじゃないから、音とか俺たちのこととか色々隠すために張る膜」


 悠楽がそう答えた。


「行くか」

「うん」


 俺たちは家の中に入った。


 ◇◇◇


「確実にいるよね? ここ」


 桜愛がそう言った。みんなうなずく。怪物がいることはわかる。


「一緒に行動しよう」


 ◇◇◇


「ここ、なんか変な気がする」


 俺はそう言った。


「確かに怪物は近くなってるけど……」


 夏向がそう返す。


「そうじゃなくて、見た目横長だったけど、縦に結構長いなって」

「確かに言われてみれば……まさか」


 夏向が悠楽を見る。


「うわぁっ! くっ……」


 桜愛が怪物に掴まれた。


「桜愛!」


 一歩足が出た。それを悠楽が止める。


「待て」


 そして桜愛の方を指さす。桜愛は剣を怪物に突き刺した。怪物は桜愛を離す。桜愛はこちら側に戻ってくる。


「桜愛、大丈夫か」

「大丈夫。ありがとう、悠楽くん」



 あたりを見回す。


「あ、あれ……」


 怪物の奥を指さした。


「あれって……死体……?」


 奥に死体らしき何かがあった。

 怪物とそれにやられた人を前にして、俺は足が動かなかった。


 少しの沈黙。それを破ったのは悠楽で、


「夏向、凛空、桜愛、冷静になれ。戦うしかないんだ、いくぞ」


 全員頷く。



 まず初めに走り出したのは桜愛だった。


「止まれ。 はぁっ!」


 相手の動きを止めて『毒殺』を決める。

 そのあと俺が追撃する。3連撃で蹴る。でもそのあと逆に蹴られてしまった。吹っ飛ばされて壁に激突した。


「痛っ……」


 夏向が剣で攻撃しようとする。夏向もぶっ飛ばされてしまう。


「水龍、行け!」


 夏向と入れ替わりで、悠楽が水の龍を出した。さすがに対応はできてなかったが全然平気そうだ。



「これ、呼んだ方がいいかな……? Aとかの人……」


 夏向がそう言った。


「この状況でどうやって……?」


 桜愛がそう言う。



 怪物が攻撃してきた。桜愛が剣で受け止める。


「くっ……」

「桜愛、頭!」


 悠楽がそう叫ぶ。

 桜愛が頭を下げたタイミングで悠楽が雷を発射して怪物に当たる。


「ありがと!」


 ひるんだところに俺と夏向が近距離攻撃をしかける。さっきと同じように二人とも飛ばされる。


「凛空、これ、任せた方が良さそうだな……」

「うん……」

「桜愛、解放頼む。あとは、下がっててくれ」

「あれ、やんの? 悠楽」

「それしかないから」


 そして俺、夏向、桜愛は後ろに下がった。



 桜愛のオーラが変わった気がした。手を横に広げる。すると怪物から血が噴出した。

 次に悠楽が右手をスライドさせる。その手の跡が光る。


「流星」


 そう言うと光ってるところから光の玉が発射された。

 怪物は素手で何発も受け流した。たださっきより反動は大きかったようで少し血が垂れている。


「くそっ……」

「厳しすぎる。誰の攻撃もまともに当たらない。悠楽であれなら、当たっても……」

「夏向くんの言う通り。快音くんとかじゃないと倒せない……」



「ちょっと、試してみてもいい?」


 俺には考えがあった。どうなるかはわかんないけど、3人を守るにはこうするしかない気がした。


「悠楽、いい?」

「わかった」

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