第5話 怪襲

 この後は個人のランクに分かれて色々するらしい。俺は技すら使えないので同じランクの人はいないはず。すると鳴宮さんが、


「君はまず魔力を使えるようにならなきゃね」

「は、はい」

「俺が教えてあげる。魔術の基本」

「ありがとうございます! 鳴宮さん!」

「快音でいいよ。うちの家、結構魔術師じゃ有名な家系で、鳴宮なんていっぱい居るからさ。夏向とかは快音くんとか呼んでくるかな。それでいいよ。」


 某アイドルの上下関係みたい。


「わかりました。俺は何でもいいです」

「じゃあ呼び捨てで行くね」



「魔術の使い方の基本になるとこなんだけど、まず、全身の力を体のどこか一点に集める。そんで、魔力を当てる目標を明確に定める。そして、集めたとこから目標に向かって魔力を出す。これを応用して、いろんな術式を組む。さっき夏向、悠楽、桜愛が剣を一瞬で出したのはこの応用で、一瞬で作り出してた。慣れてくればそういうのもできるようになると思う。イメージがしっかりしていればなんだってできる。術式は魔術師の数だけある。まあ、壮大すぎるか」


 俺もやってみた。集めることはできたけど、うまく出せなかった。


「君はゴリゴリの近距離戦タイプなのかな」


 そう言われた。


「どういう意味ですか?」

「パンチとかキックとかをメインでやるタイプなのかなって」

「俺、サッカーやってました、キックはできると思います。一定の意味では」


 そう言うと、


「じゃあ、それでやってみようか。しばらくは」


 俺の攻撃方法は、足に力を集めてそれで相手を蹴る。そんな感じだ。



「あの……俺って、ぶっちゃけ魔術師としてどうなんですか?」

「うーん……サッカーとか、結構スポーツやってたっぽいから、体がしっかりしてる。あと、上達は早いと思う」


 だからどうということはない。ただの好奇心。


 ◇◇◇


怪襲警報かいしゅうけいほう、怪襲警報、Bランク以上及び高校生以上の魔術師は学区全体を警戒せよ」


 急に流れた音声。周りにいた人たちが一斉に動き出した。


 夏向が俺に近寄ってくる。


「凛空、行くよ。」


 夏向は俺を校舎まで引っ張って行った。


 そこには同い年位もしくは年下の子達が集まっていた。


 ◇◇◇


 怪襲かいしゅう・・・怪物が大勢襲ってくること。


 特に魔術師が集まっている魔術学園は魔力に引き寄せられてよく襲われる。その分強い魔術師も多い。だから特に危険はないが稀に敷地内に入ってくることがあるから呼び出しの対象外の生徒は校舎内に隠れている。


 ◇◇◇


 フードを被る。フードには結構大き目の猫耳が付いている。本物の耳にはヘッドホンがしてある。目が一瞬白色に光る。戦いの始まる合図。

 一歩踏み出し、目標の怪物まで一直線。

 そしてその目の前の怪物を斬る。傍から見たら何をしたかわかんない。それが狙いでもある。


「逃げて下さい」


 誰かは視認してない。でもなんとなくわかる。一応同級生、表校舎の藤川凜々花だ。

 ちょうど表校舎の帰る時間。一般人を守り、誰なのかを知られず怪物を倒す。普通の仕事とは全然違う。だからBランク以上の強さ又はそれなりの経験がある高等部以上の人が繰り出される。


 凜々花が逃げた後、後ろから近づいてくる怪物がいる。ちょっと遊んでやろう。


 俺は気づかないふりをする。そして俺に手をかけようとしてくる。すると俺の周りの魔力の膜にふれて俺には触れない。そしてバックノックで怪我した。


「気付いてないとでも思った? そんな簡単にやられる様な奴じゃねえよ。相手を間違えたか、誰かの指示か、どっちだ」

「…こ、これは…自分の意思だ」


 誰かの指示ね。わかったわかった。相手にもならないようなやつだけど、相手してやるか。


「戦うか? 逃げるか? どうする?」


 何も言わず、逃げるを選択した。逃げられると思うな。


 逃げる方向から魔獣を投入する。


「ファルコン、ユウキ、クロス。」


 怪物向かって左右どちらからも攻撃する。ちょうど怪物のとこで交わるように。時速50キロで突っ込む。仮に外してもうまく飛べるし、後ろには俺がいる。そしてファルコン・ユウキどちらの攻撃もヒットし、怪物は散る。


「ファルコン、ユウキ、よくやった。」


 隼のファルコンと鷹のユウキ。最高の相棒だと思う。


 近くに怪物の気配が無くなった。


 ◇◇◇


 悠莉に負けたくない。兄として悠莉に何かあった時に守りたい。もう、あんなにはなってほしくない。思い出したくもない。


 走り出せばもう止まれない。


 怪物を見つける。相手の属性は…炎だ。


「水龍」


 水の龍を作り出して攻撃する。水属性の術式。


 魔術には属性がある。そして怪物の使う魔術、通称『怪術かいじゅつ』。それにも属性があり、相性もある。普通の魔術師なら相性より力で圧倒する方がずっと楽だけど。


 その怪物は多分散った。姿は見てないけど、気配が消えた。



 一般人が襲われかけている。行くか…あれは…想空…一応同級生。仲はめっちゃ悪い。でも助けないと。


 相手の属性・水。


「雷!」


 手の平を怪物に向けた。想空に当たらないように雷を発射した。さすがに精度が悪くて当たらなかった。当たんなくても斬りこめばいい。


 黒剣。


 踏み込んで加速。そして斬りこむ。


 想空の後ろから行ったからバレたかも知れない。しょうがないと言えばしょうがない。命に比べたら。


 怪物は散った。


「え……悠楽……?」

「ここは危ない、逃げろ」


 バレた。終わった。



 怪襲は終わった。


 今日の学校の時間も終わった。


「凛空、妹が危機を脱した。会いに行くか?」

「え……」

「今頼れる家族、お前だけなんだよ。会いに行ってやれ。妹なんだろ?…どんな形であろうと」

「…うん。会いに行く。会いに行きたい」

「いくぞ。仕事もあるんだ。今日。初仕事」

「え、」



 午後6時30分

 とある病院。地元の病院よりずっと広い。ここは魔術師界と提携をしていて、魔術での怪我とかを専門に見てくれる人がいるらしい。


 危機は脱した。意識が戻るかはわからない。あとは本人次第。そんな説明を受けた。


「凛香。俺、頑張るから。それで次の誕生日は一緒に祝う。だから、凛香も頑張って欲しい。でも、嫌ならそれでいい。俺は頑張って強くなって、帰ってくる」


 言葉はおかしいかもしれない。でも伝えたい思いを全部伝えた。




 病室を出た。病室の外には悠莉がいた。


「なんか魔術とかでどうにかならないかなぁ……」


 強がってそう言ってみた。


「できないことはない。おすすめはしない」

「やったことあるの?」

「昔1回だけ。失敗だったけど」

「そっか」

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