第3話 魔術師の世界

 上層部との会議なんてめんどくさいものだ。

 でも、『さっさと終わらせてくれ。』今回だけはこんな事言えない。


 上層部はめんどくさい。過去にばっかり囚われて、挑戦しない。だから新しい技に弱いんだ。それで何度救ってやったか。


 こいつらは何としてでも今新しく生まれた怪物適合者、風晴凛空をどうにかして処刑しようとする。考えを曲げさせるのは一苦労だ。



「悠莉、君がやらなくていいんだぞ。なのになぜそこまでこだわる?」


 どの口が言ってんだ。


「これでも担当者なんでね。守った意味、ないでしょ」

「そもそも守る意味なんてないだろう。そのまま怪物にやってもらえばよかっただろう」


 欠片が飛んでったらまた1からになるんだぞ。探すのは俺らなんだ。


「欠片は怪物にわたっちゃいけないものだろ? こっちで管理してても何個か無くなったりしてるだろ」


 数人が嫌な顔をする。痛い所を突かれた感じか。


「安全の意味で適合したならその中に保存しておけば取られないだろ」

「ちゃんと耐えられるかだってわかんないのに?」「暴れだしたらどうすんだよ」


 口々にそう反論する。めんどくさい。そんなこと考えてないわけないだろ。


「暴れだしたら即斬る。戦力にもなるだろ」



 少しの沈黙。そろそろ折れてくれ。


「戦力にするなら当然途中で死ぬこともあるだろう? そうなれば最初の保管という目的は果たせないのでは?」


 ん? 完全な矛盾だ。


「あなたたちは最初に処刑することをすすめましたよね? 矛盾してますよ」


 馬鹿か。ちょっとは考えろ。それにそんなに簡単に死ぬと思うか?SSランク怪物が。

 

 すると上層部のリーダーの一言。


「わかった。処刑はナシだ。但し、監視はしておくこと。後は任せる」


 やっと折れたか。長かった。


 ◇◇◇


 目を覚ました。さっきまでの病室ではない。ここはどこなんだ。

 立とうとした。でも鎖でつながれていた。自由には動けない。

 ここはどこかの部屋だった。ドアはない。あるのは窓だけ。家具の類のものもない。


 時刻は…多分夜。窓から差し込んでくる月の光が綺麗だった。

 急に窓が開いた。優しい風が吹き込んでくる。

 そしてその窓から悠莉が入ってきた。


 入って来てすぐこう言った。


「君、生きられるってよ」


 最初は信じられなかった。だって、ルールを破ることになる。

 朝吹悠莉、何者なんだ…ルールをへし曲げてきたってことだろ…


「生きられると言われましても……」


 どうしたらいいんだ。


「条件付きだけど、上から許可が下りた」

「条件って……?」

「一つ目、怪物を倒す『魔術師』側につくこと。二つ目、監視の意味で、魔術師の学校に転入すること。三つ目、中にいる怪物の欠片を全て、全10個を回収し、取り込むこと。この三つ。軽く済んでよかったな」

「え、あ、ああ……」




 4月

 そしてその学校とやらに来た。この学校の名前は…


「国立頭脳研究小中高等学校……」


 悠莉が耳元でこう言った。


「ここはカモフラージュでここの裏校舎が例の学校。魔術学園東京本校中等部。でもちゃんと普通の生徒もいるよ」

「そうなんだ……」

「午前中が勉強で、午後から魔術系の練習。午前は一応表校舎の子と一緒だけど、授業っていうより、自習って感じだから」

「へぇ……」

「あと、そのー、表校舎の人って頭いいからここに来てるわけで色々個性凄かったりするし、勘も鋭い。だから気付かれやすかったりする。あと、うちの学年、仲悪いし色々聞いてくる奴いるから、怪物の事とか絶対答えるなよ」

「わかった。って同い年!?」

「うん。言ってなかったっけ…まあ、よろしく」

「よ、よろしく」


 そして校舎内へ。校舎は新しい方だと思う。俺の小中にくらべたら。

 まず案内されたのは校舎の裏側にあるグラウンドだった。そこに一人、誰かがいた。その人が話しかけてきた。


「君が風晴凛空くん?」

「は、はい。そうです」

「僕は魔術学園東京本校、校長の如月きさらぎ歩武あゆむ。今後関わることあるかもしれないからよろしく」

「あ、よろしくお願いします」

「校長とかだけどまだ20代だから」

「26な」

「悠莉、準備できたか?」

「うん。いける。ね? 優多うた


 悠莉の後ろから女の子が出てきた。髪が長くて、黒いワンピース…とりあえず、黒い。


「いけるよ。いつでもどうぞ」


 そう言うと前に出てきた。そしてどこからか黒い剣を取り出してきた。


「初めまして。優多と申します。今回はよろしくお願いします」

「な、なにするんですか…?」

「入学テスト…いえ。転入テストですかね」

「わ、わかりました」


 それもそうか。テストくらいあるか。

 

 そしてその優多っていう子との対決が始まった。

 初めての対戦にしてはレベルが高い気がする。

 鞘から剣を出していなくてよかったがあっさり殴られ、グラウンドの真ん中から端まで飛ばされた。内臓飛び出るかと思った。グラウンドの横を誰か通った。


 優多が急に近づいてきた。


「君は強くなりそうだね」


 え…?どういうことだろう…今、あっさり吹っ飛ばされたのに…

 続けて優多はこう言った。


「君はここで何をしたいの? 何になりたいの? どんな魔術師になりたいの?」


 ここでなにをしたいか……そんなの、知らないよ。連れてこられただけだし。


「魔術師として、君にできること」


 俺にできること……


「ここしか俺が生きる場所…ないから。でも、できることしたい。怪物に殺されて、悲しむ人を減らしたい。あと…妹を元気にしたい。たとえ血がつながってなくても、妹は妹だから。これが…俺の…決意」

「……だって、歩武くん」


 ニコッと笑ってそう言った。笑った顔は可愛かった。

 校長が近寄ってきてこう言った。


「凛空、君の決意受け取った。ようこそ。魔術学園へ」

「え?」

「転入許可。俺からも、ようこそ魔術師の世界へ」

「…魔術師の…世界」

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