3、私達は過去にもう付き合っている

結局、俺を作っているのは復讐心だけだと思う。

俺は考えながら.....横に居る栗谷を見る。

栗谷は俺を見ながら笑みを浮かべている。

多分.....これは彼女なりの心配だ。

有難いもんだな、と思いながら俺は栗谷を見つめる。


「はーくん。真面目にやりなさい」


「.....はいはい」


「もー!こんなのじゃ全く話が進まないよ?」


「.....そうは言ってもな。女子と二人きりでしかもマンションってお前。無理があるっての」


「.....あ.....」


今更、気付いたのかコイツは。

俺は苦笑しながらみるみる真っ赤になっていく栗谷を見る。

全くコイツは。


もしや俺の母親が遅い事を知ってんのか。

エスパーですかね?

考えながら俺は栗谷を見る。

どう出て来るかな、と思っていたのだが。


「.....じゃ、じゃあ遅いんだ?お母さん」


「.....当たり前だろ。お前はそれぐらい気付いていると思ったんだがな」


「.....じゃ、じゃあ.....このままキスとかしても.....大丈夫だよね」


「当たりま.....ハァ!!!!?」


俺は驚愕する。

そして栗谷はシャーペンを置く。

それから俺に迫ってきた。

ニコニコしながら、だ。


だけど赤面しながら、である。

な。何つった今。

キスっつったな!?

俺は真っ赤になりながら後ずさりする。


「.....はーくん。エッチな事になっても問題無いよね」


「何言ってんのお前!好きでもない相手に.....」


「はーくんの鈍感。私がはーくんを嫌いだと思うの?」


「.....は!?」


俺は流石に顎が落ちるかと思った。

今何つったのだ。

はーくんを嫌いだと思うの?


それは裏を返せば、好き、って事だよな?

嘘だろ。栗谷が!?

どんどん壁際まで追い詰められて行く。

栗谷は四つん這いで俺を追って来る。

マジかコイツ!


「おい。冗談は止めろ。そもそも俺なんか好きになっても仕方が無いって」


「アハハ。冗談だと思う?私.....心底嬉しいよ?この状況は。寧ろチャンスだって思う」


「マジかよお前!.....俺が好きなの?」


「好きだよ?心から。じゃ無いとこんな事しないもん」


「.....く、栗谷.....」


そして唇が重なりそうな所で俺は悲鳴を上げる。

駄目だ!今はこんな事をしている場合では無い!、と。

それから栗谷の肩に手を添える。


そして見上げた。

イカンこれは。

仮にも未成年の男女なんだぞ!


「栗谷。落ち着こうぜ。取り敢えず。俺は.....お前とキスは出来ない。そもそも俺はお前を好いているか分からない!」


「私はキスぐらい良いよ。君になら」


「良くねぇよ!?お互いの気持ちが通じ合っている時にするもんだろ!キスってのは!」


「.....そうだっけ?」


「お前.....スイッチ入ってないか?」


うん。スイッチ入ってるよ?、と俺を見てくる栗谷。

いやいやスイッチ入ってるって!

純粋な答えは非常に困るんだが!?

俺は真っ赤になりながらそれでも迫って来る栗谷に慌てる。

マジにキスしそうだこのままでは。


「エヘヘ.....」


「栗谷さん。マジに落ち着いてくれ。アカン。絶対にアカンぞ」


「私は気にしないって言ったよね。だから大丈夫だって」


「.....!」


俺は立ち上がった。

それから駆け出して行く。

このままでは理性が壊れそうなので、だ。


そして自室に飛び込んでから鍵を掛けた。

心臓に手を添える。

そして考える。


「.....栗谷が俺を好いている?そんな馬鹿な事が?」


それから俺は天井を見上げてから横の棚に有る写真を見る。

栗谷と一緒に撮った写真だ。

当時からとても可愛い。

栗谷が、だ。


有難い。

とても有難いけど俺は好いてないと思う。


じゃあ駄目だキスだろうが初めては存在するのだから。

俺は考えながらドアをそっと開ける。

そして様子を伺ってから外に出る。


「.....栗谷?何処行った」


「ここだよ。はーくん」


「.....どうしたんだ?お前。生徒手帳を見てから」


「.....君は絶対に私を好きになるよ。だって.....私達はもう過去で.....キスをしたんだから」


「.....ハァ!!!!?」


その証拠の写真があるんだから。

と栗谷は話す。

何を言っている.....!?、と俺は栗谷を見る。

目をパチクリしながら、だ。

どうなっている。


「.....これ。修学旅行の時の。.....私がキスをした時の」


「.....?.....!?.....そんな馬鹿な.....」


傍に座る栗谷。

それから写真を見せられた。

そこには.....写真機か?


それで撮った様な二人きりでしかもキスをした様な写真があった。

律儀に折り畳まれているが確かにこれは俺だ。

男の方が、だ。

俺は真っ赤に染まる。


有り得無いんだが。

記憶に本気で無いんだが.....でもこれは.....俺だ。

これは全て小学校時代と言える.....が。

俺は額に手を添える。


そんな馬鹿な.....。

ってかそんなふざけた真似をしたんか俺は栗谷に!

何やってんだよ小学生で!?

割と本気で!?


「.....何で?俺.....こんなの記憶に無いんだが」


「この後に心労で倒れたんだよね。君が。.....お父さんから受けた暴力のって言えるかも。.....それで私が一方的に仲を切ったの」


「.....その事で記憶が飛んだって事か.....」


「そう言えるね。.....だから私と君しか知らないよ。この事は。でも今は私だけしか知らない。当時.....秘密裏に付き合っていた事も今は私だけしか知らない」


「.....そうなのか。この時からお前はまだ好きって事か」


「だね。アハハ」


そして俺を見てくる栗谷。

俺は.....羞恥で真っ赤になりながら。

マジか.....と呟く。

それから.....口元に手を添える。

有り得ない.....こんな可愛い子にキスなんて馬鹿なんじゃないか。


「.....でも私からしたんだよ?これ。だから仕方が無いよ。君が忘れたのは」


「.....」


「.....だから私達はまた付き合う運命にあるんだよ。はーくん。うん」


「.....」


栗谷は優しげな笑みを浮かべる。

あくまで何も言えない.....が。

でも絞り出すならこれだけは言える。


栗谷に対する気持ちが変わった気がした。

当時付き合っていた事を聞いても、だ。

参ったな.....くそう。

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