僕という存在

僕は、駅のホームのベンチに座っていた。

特に何かするわけでもなく、ベンチに座っていた。


今日は日曜日。


朝7時10分

誰もホームへはやってこなかった。


僕は何もやることもなくいつものベンチで日向ぼっこをしていた。

今日はとても暖かな、それでいて涼しい風が吹いていた。


ふと横を見ると、またいつもの猫が座っていた。

ひとしきり僕を見つめると、猫はベンチから飛び降りホームを歩き始めた。


僕は猫と一緒にホームを歩き始めた。

猫は少し歩くとその歩みを止めた。


「まだ、ここにいるのか?そろそろ時間がないはずだぞ?」


僕は鼓動が早まるのを感じた…


「そう…だね…。いちゃいけないんだよね…」


猫は僕の言葉を聞くと、ふんと鼻を鳴らし、フェンスを飛び越えていった。

僕と猫はフェンス越しに並んで歩いた。

ホームの端っこまで来ると猫が一言。


「お前がお前であるうちにここから離れるんだ。」


そういうと街へと消えていった。


「僕が僕でいられるうちに…」


僕はいつものベンチに座り、誰もいないホームを見つめていた。

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