神楽
恐るべき冷酷さを誇る枯渇の魔王の尖兵、エンブラボンと対峙した紗結とハルワタート、そして早良蛟丸。恐るべき邪悪なオーラに紗結は後ずさりするがもう後は引けない。
「紗結、ハルワタートさん、早く逃げなさい!」
深雪は残された力を込めてこの場から離れることを勧めたが紗結は覚悟を完了していたためそれには応じられなかった。
「お母さん、ハルワタート……私が椋枝村を守るんだ!」
紗結は心に潜む畏れを勇気に変換してエンブラボンに挑む! 紗結は鈴を取り出す! すると蛟丸とハルワタートから受け取った神気が鈴からあふれ出す!
「イキがっても所詮はただのニンゲン……我々魔族に敵うはずがありません……残念ですが死んでもらいますよ」
エンブラボンは冷酷な宣告をし、恐るべき短剣を取り出す。魂をメダルに変換する気だ! これは危険だぞ!
「……そうはさせへんで、骸骨男」
そこへ蛟丸が高速でエンブラボンの腕に蛇の牙で噛みつく! エンブラボンに微々たるダメージ! だが紗結から気をそらすことに成功した!
紗結はすかさず神楽を舞った。幽玄な舞は清流のせせらぎを思わせる!鈴から清浄な水が飛び出しエンブラボンを強襲する!
「くっ……これは宴会芸ですか? こんなものワタクシを止められると考えるとは……その浅はかさをソウルスティールで後悔させてあげますよ」
エンブラボンは冷静に回避! 接近して短剣刺突を繰り出す! しかし直後、短剣の刃先が消失した!
「これは一体!?」
エンブラボンは困惑! そこに蛟丸の渾身の蛇頭突きがエンブラボンに炸裂した!
「……後方不注意やで」
エンブラボンはうつぶせに倒れ伏せた! 骸骨男は屈辱に歯噛みしながら体勢を立て直そうとするが鈴から放たれる清浄な水をまともに食らってしまう。
「ウギャーッ! これは!? ワタクシの中にある魔族としての穢れが浄化されていく!」
エンブラボンは悶絶しながらのたうち回る!
その絶交のチャンスを逃さない深雪ではなかった!力を振り絞り骸骨男の頭部に刀を突き刺した!
「ハァハァ……油断大敵よ…‥」
全ての力を使い果たしたのか深雪は崩れ落ちるようにして座り込んだ。魔界の樹液の恐ろしさである。
エンブラボンの頭部は凍り付いた。
「バカな!強く恐ろしい魔族がニンゲンごときに敗れるなんて!オゴーッ!」
エンブラボンは驚愕に目を見開きながら絶命した! その遺体から大量の光の球体が飛び出し天空に帰っていった。エンブラボンはこれまでの魔族としての生で何人もの罪なき人間の魂をため込んでいたのだろうか?
「なんとか枯渇の魔王の尖兵を倒せましたね」
ハルワタートは安堵の表情で紗結を見る。それもそうだろう。今まで双子姉妹を襲っていた脅威を排除できたのだから。
「さて残りの賊徒の魂を浄化しないと」
紗結とハルワタートは神楽の力で哀れな賊徒を浄化して回るために笠森屋敷内を探索して回った。
「どうやらなんとか逃れることはできたらしいな……」
村はずれ、息も絶え絶えの様子で魅鹿王はボロボロになりながら歩いていた。
深雪に忍殺剣を食らった時、魅鹿王の魂の内部にある呪いが発動し、命をつなぎとめることに成功したのだ。詰まる話が魅鹿王は不死身なのだ。
「この調子やと、あと数百年は療養は必要やな」
ふと声が聞こえ、魅鹿王が振り向くとそこには蛟丸の姿があった。
「水神よ……邪悪な甘言に乗せられボロボロになった俺のことを嘲笑しにきたのか」
魅鹿王は蛟丸を睨みつける。
「それは、違うで魅鹿王……ウチはお前に別れの挨拶をしに来たんや」
蛟丸はシニカルな笑みで魅鹿王を見返した。奇妙な関係性がそこにはあった。
「まったく、お前はいつもへらへら笑う神様だったな……」
魅鹿王は体中の力が一気に抜けた。
「双子の片割れが俺の盗賊砦の中庭に結晶の形で安置されている……その情報をどう使うのもお前の勝手だ好きにしろ」
魅鹿王はそう吐き捨てるとしめやかに森の向こう側に去っていった。
「やれやれ……こいつは相変わらずやな」
蛟丸は魅鹿王の態度に呆れつつ森の向こう側に魅鹿王の姿が消えるまでずっと見続けていた。
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