斬魔

 笠森屋敷に常駐する武士は賊徒相手に苦戦していた。

「くっ、こいつら恐怖心が存在しないぞ!」

「このままでは押される一方だ!」

 武士は口々に賊徒の異常性を口に出していく。だがこうしてる合間に一人の武士が賊徒が鋭く伸ばした爪に襲われる!

「ウギャーッ!」

 賊徒の爪にやられた武士はそのまま地に倒れ伏せた! 恐るべき賊徒の戦闘術である!

「宮下がやられた!残り6人だ!」

「意地でも屋敷の奥に入れるな!」

 武士は危機感を募らせながらもこれ以上笠森屋敷を荒らさせはしないと決死の防衛網を築きあげる!

「グルルルル……ムダダ」

 だが賊徒はたどたどしい声で挑発する!すごく不気味だ!

「みんな、挑発に乗るな! 挑発に乗ったら奴らの思うつぼだ!」

 武士のリーダー格である古林は冷静に対処することを仲間に知らせる! みんな必死だった。しかし賊徒は不気味に包囲網を狭めようとしている。これではじり貧だ! 武士たちは神にもすがりたい気分だった。

「フギャーッ!」

その時!鋼鉄の星が賊徒の眉間に突き刺さる!突き刺さった賊徒はそのまま凍結! これを好機と見た武士は賊徒を斬撃! 賊徒は粉みじんになった!

「一体、何者がやったんだ?」

 突然の助太刀に武士たちは訝しがる。だがそれに答えたのは紺色の風だけだった。


 魅鹿王は焦りながらハルワタートの行方を探していた。エンブラボンより早く見つけ出して交渉に枯渇の魔王との有利な情勢に立たなければならないのだ。このままやられっぱなしでは盗賊王としての沽券にかかわる。なんとしてでもハルワタートを確保せねばならない。

 だがそれゆえに気づかなかった。後ろから接近する紺色の影が魅鹿王の迫ってくることを……

「忍殺剣……凍空!」

 あまりにも静かな一撃だった。あまりにも静かで疾すぎる一撃を背中から食らってしまった魅鹿王は静かに倒れ伏せた。

「あまりにもあっけなかったわね」

 紺色の影、深雪は残心しながら魅鹿王を見つめた。同時に彼女の中にある疑念が生まれていた。本当にこれで終わりなのか? 魅鹿王は飾りの首謀者で他に黒幕はいるのではないか?深雪の中で黒いものが背筋によぎる。

「気をつけろ……エンブラボンが近づいてくる……早く逃げろ……」

 魅鹿王が蚊のなくような声で警告を発した。

「えっ」

 深雪は困惑の声を出した。だが次の瞬間、禍々しい気配を感じとっさに手裏剣を投擲した!


「ほう……これは氷神の神気を込めた飛刀ですか……しかし、この程度の攻撃でワタクシの不意を打とうとはとんだ思い上がりですね」

 そこには手裏剣を手のスナップでつかみ取った骸骨男の姿があった。エンブラボンだ!

 エンブラボンの禍々しい殺気に深雪は後ずさりする。この化物は本能的な恐怖を感じ取ったのだ。

 エンブラボンの影から骸骨兵が出現する。禍々しい黒色の槍を装備している。

「ワタクシがアナタごとき路傍の石にかまっている暇はないんですよ……狙いはハルワタートのみです……呪いがあるとはいえ手を組んだ盗賊はとんだ役立たず……やはりワタクシの手でハルワタートを捕獲せねば尖兵としての意味はない」

 エンブラボンは恐るべき冷酷な口調で吐き捨てた。だがそれが逆に深雪の怒りに火をつけた!

「あなた、絶対に許せないわ!」

 深雪は回転跳躍し手裏剣を連続投擲する! 骸骨兵は次々に凍結し倒れていく!

「ほう中々、やりますね……だがこれはどうですかな……」

 エンブラボンの右手から謎の液体を発射! 深雪はとっさに跳躍回避しようとするが避けきれず被弾してしまう! 深雪の体から力が抜けていく!

「あなた……何をしたの?」

「これは魔界の樹液ですよ一滴でも当たればあなたは結晶の中に閉じ込められるという寸法です。クフフ……面白いでしょう?」

 恐るべき悪趣味な攻撃である。恐らくアムルタートもこの攻撃を食らったのであろう。

(ダメだ……力が抜けて動けない……このまま結晶の中に閉じ込められてしまうの?)

 最大のピンチが襲い掛かる! これで万事休すか! そう思われた時!


「そこまでよ!」

 巫女服を着用した紗結とハルワタート、そして早良蛟丸が堂々とエンブラボンの前に現れたのであった!

「飛んで火に入る夏の虫とはこのことですか……」

エンブラボンは酷薄な笑みを浮かべた。

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