秘策
笠森屋敷内の一室。薬師母娘に与えられた部屋に深雪はいた。笠森屋敷に駐在している武士は奮闘しているが強力な賊徒相手に防戦一方だ。このままの状況では紗結とハルワタートの身に危険が迫る。深雪は部屋で大人しくするつもりはさらさらなかった。なぜなら義娘とハルワタートを守らなければならないからだ。もはやこの状況では四の五も言っていられない。深雪は部屋の押し入れの隠し戸から葛籠を取り出す。
「紗結……ハルワタートさん……私は今からかつての姿に戻るわ……あなたたちを守るために」
深雪の瞳には強い覚悟の光が見えた。
「事態を打開する方法? 蛟丸様は何か知っているの?」
紗結は思わず蛟丸に聞き返した。
「まぁ、ウチはこれでも神様の端くれやからな……打開策の一つや二つ知っていて当然や」
蛟丸は自慢げだ。
「そんなことより早く打開策を教えてください!」
ハルワタートは焦った口調で言う。それほどまでにこの事態に危機感を覚えていたのだ。
「あぁそうやった。そうやった。今回については紗結も事態解決のために協力してもらわんとアカン」
「えっ紗結も協力するんですか?」
ハルワタートは意外そうな表情をする。
「椋枝村を襲撃したあの盗賊らは何者かが行使した変な力で魂が汚染されているんや……要は それさえをどうにかすればあとは何ともなるはずや」
蛟丸は神様としての視点で賊徒を分析する。
「じゃあ、それを何とかすればどうにかなるんですね!?」
ハルワタートは凄い勢いで蛟丸の言葉に食らいつく。
「せやで……ウチとお嬢ちゃんのなけなしの神気をかき集めて紗結に送り込むんや…そして神楽を舞うんや」
その言葉を聞いた紗結はハッとするが不安そうな表情をする。
「確かに何度か神社の祭りとかで神楽の舞を披露したことはあるけど……本当に効果があるのかしら?」
紗結の不安はもっともであった。
「大丈夫や、紗結……ウチがついているから問題ないで」
しかし蛟丸は紗結の不安を消し去ろうと優しい言葉で語り掛ける。
「蛟丸様、ハルワタート……私、やってみるわ」
紗結はハルワタートは手を強く握った。
魅鹿王は笠森屋敷周辺に陣取り、賊徒たちに指示を出していた。そこに音もなく骸骨男、エンブラボンが出現した。
「これはこれは魅鹿王殿……襲撃の調子はどうですかな?」
エンブラボンの口調には軽やかな口調にもかかわらず酷薄さを隠せない。
「襲撃の行方など最後までわからん……俺の配下が獣に堕落してなければもっと違っていた結果になっただろう……」
魅鹿王はエンブラボンに皮肉を浴びせた。
「そんなことを言っていいのですかな、魅鹿王殿? あの賊徒どもは水神の加護とやらを恐れる臆病者、ワタクシめが洗礼を施していなかったらとっくの昔に逃げ出していたことでしょう」
エンブラボンは皮肉に対して冷笑な態度を見せることで応えた。
(クソっ、こいつは無敵か!)
魅鹿王は心の中で悪態をつく!
「それでエンブラボンよ、何をしにわざわざ椋枝村に顔を出したのだ?」
「愚問ですな、魅鹿王殿……あの双子の片割れを自らの手で直接手に入れて、枯渇の魔王様に献上するのですよ」
エンブラボンは冷酷な態度でハルワタート奪取の意気込みを語った。
「なるほど、俺たち賊徒はさしずめ捨て駒というわけか……」
魅鹿王は苦笑いをする。賊徒を躊躇なく捨て駒にする枯渇の魔王の尖兵は戦慄すべき冷酷さで魅鹿王を支配せんとしていた。
「それではワタクシは双子の片割れを誘拐しに参りましょう……そろそろ椋枝村の混乱も最高潮に達する頃合いでしょう……」
冷酷な態度を崩さずエンブラボンは静かに笠森屋敷の方向に向かっていった。
「俺たちも笠森屋敷に進撃するぞ!枯渇の魔王の思惑どおりにはさせん!」
それを見届けた魅鹿王も笠森屋敷に進撃を開始した。
全ての物語が笠森屋敷に集結しようとしている。
この物語の結末を知るのは神以外にあるまい。
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