第13話 制御できない衝動を恋と呼ぶのなら、これは俺の初恋だ4
キャパオーバーとなったのだろう紗代さんが、はらはら涙をこぼす。
俺の腕に抱きついたままで泣いている彼女のあまりのかわいらしさに、理性の糸が切れそうだ。抱き締めてもいいだろうか。
「昨夜、たくさん、頭の中でシミュレーションしたのに……徹と也実ちゃんが邪魔する」
也実さんと徹くんがわたわた慌てだし、宥めようと近付くが、紗代さんに拒絶されている。
二人が近付こうとすればするほど、紗代さんの腕は俺に絡み付く。
「ごめん、紗代! 俺、浮かれちゃって」
徹くんの困り顔は眉がへにょりとしていて、紗代さんとよく似ていた。
「だって。お姉ちゃんがあまりにもその人に夢中で、さみしくなっちゃったんだもの。なんか、悔しい」
「さすがだね、なりちゃん。自分勝手」
「うるさい、愚弟」
「あいた!」
「也実は自分勝手を発動した後、後悔してヘコむのがかわいいんだよ」
「う、うるさいよ、ナオ」
「愛してるよー、マイハニー」
「やめてよ、ばか。……私も愛してる」
クール美女が頬を染め、照れた。
俺は一体何を見せられているのか。
ここは、俺も負けじと参戦すべきだろうか。
「愛してるよ、紗代さん。どんな美女も、あなたには敵わない」
「な、なんですか、突然っ」
「ぷにぷにのあなたも愛らしかったんだろうな。その時に会えていたら、頬擦りして愛でられたのに」
「な、なにを」
「あなたの全てが大好きだけど、具体的に言うと、癒やし系の笑顔が好き。優しい声が好き。くだらない話でも楽しそうに聞いてくれるところとか、努力家なところもすごく素敵だ。お金があってプロの手を借りたって、やり遂げられない人は大勢いるよ。頑張った自分を誇りに思って、背筋を伸ばして立つあなたはとっても魅力的だ。恥ずかしがり屋ですぐに真っ赤になるのもかわいいと思うし、静かな笑い声を聞いてると、幸せな気分になる。もっと笑わせて、俺があなたを幸せにしたいって思う。姉としての紗代さんも、すごく素敵だね。もっともっと、あなたのいろんな面が見たい。あなたをもっと知りたいんだ。大好き、紗代さん」
まだまだ言い足りないけれど、口をあんぐり開けた紗代さんが、これ以上無理だろうってぐらいに赤くなって震えているから、ここまでにした。
「ああもう、かわいいなぁ。キスしてもいい?」
「だめ、しんじゃう」
腰が抜けたように、へなへなと座り込んだ紗代さんを慌てて抱きとめる。
「ねぇ紗代さん。俺と結婚して」
「て、展開が早いっ」
「じゃあ俺を、あなたの本物の彼氏にしてほしい」
きっとこのまま大騒ぎに巻き込まれて、也実さんは折れそうにないから。
そうなる前に、紗代さんの答えが知りたい。
「焦らさないで、紗代さん。俺はあなたが、大好きなんだ」
「わたしも、すき」
「オーケーってこと?」
こくりと、首が縦に動いた。
「やった! ありがとう! 幸せにするよ!」
ひょいと紗代さんを抱き上げ、その場でくるくる回る。
驚いた紗代さんが、俺の首へ抱きついた。
柔らかな感触が顔に当たり、思わずでれっと、顔が緩む。
「あー……幸せ」
目をつむり、眼前のパラダイスへと顔を埋めた。
紗代さんの手が遠慮がちに頭を撫でてくれて、幸福が胸を満たす。
「本郷さん」
「んー?」
「お、おろして。恥ずかしい……」
「えー? やだ」
「みんな、すごく、見てるから……」
「紗代さんがキスしてくれるなら、考える」
「ファーストキスだから、むりっ」
「そっかぁ。なら、思い出に残るシチュエーションを考えるね」
頬なら許されるだろう。
下ろすついでに、滑らかな頬へキスをする。
ゆでダコになった紗代さんが、勇気を出して俺の頬へキスを返してくれた。
「ありがと! 大好き!」
力いっぱい、紗代さんを抱き締める。
そのまま好きを連発していたら、いい加減にしろと、也実さんと徹くんに殴られた。
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