第2話 年上美女がうぶってヤバくない?2
レイコさんの最初の希望は、ショッピング。
「あのね、彼氏に服を選んでもらうっていうの、やってみたくて。……いいかな?」
俺とつないだ手にどぎまぎしながら、申し訳なさそうに告げたレイコさん。
「もちろん、いいよ。レイコさんはどんな服が好き? 今日着てる感じの服?」
「これは、雑誌に載ってたのを、そのまま真似して……」
「へぇ! すっげぇ似合ってるよ! かわいい」
途端、赤みが引いていたレイコさんの顔が、再び真っ赤に染まった。
「あ、ありが、とう」
この反応を見るに、言われ慣れていないことは明白で。きっと男慣れも、していない。
もしかしたらレイコさんって、すごいお嬢様なのかなと考える。
「何色が好き?」
「えーと、緑、かな」
「パンツとスカートなら?」
「普段は、楽な服が多いよ」
「普段レイコさんが選ばないような物、選んでもいい?」
「うん。大丈夫」
「レイコさん、肌が白いから淡いピンクとか絶対似合うと思うんだ。今日のそのスカートもすごく似合っててかわいいし。あ、でも、すみれ色もいいよね。このワンピースとかどう? 絶対かわいいよ。着てるとこ見たい」
ちらりと見えた値札はかわいくない値段。
試着は無料だし、買うのは俺じゃない。買うか判断するのも、レイコさんだ。
レイコさんはその店で、俺が見繕った数点を試着して見せてくれた。
お世辞じゃなくて本心から、似合う、かわいい、キレイを連発した俺。
スタイルのいい美人って本当、何を着ても似合うよな。
試着を終えたレイコさんは、値札を見てから頷いた。
「全部、買います」
「え? 俺が選んだからって、気を使わなくてもいいんだよ」
「無理、してないよ。ちょうどね、洋服たくさん買い替えようと思ってたんだけど、私、センスなくて。だからね、靴とかバッグも見繕ってくれると助かるんだけど、いいかな?」
「全然いいよ。もちろん、よろこんで!」
その後は昼飯の時間になるまで、俺がレイコさんの全身コーディネートをして、レイコさんは、俺が選んだ物を全部買った。
総額はきっと、十万は軽く越えたと思う。
買った物は全部配送依頼をして、手ぶらになった俺たちは、テイクアウトした食べ物を持って近くの公園へ向かう。
この昼飯代も、女性持ち。好きな物を選んでいいって言うから、遠慮せずに食いたい物を選んだ。
公園のベンチに並んで座って、飯を食う。
空は雲一つない秋晴れ。
木漏れ日の中にいるレイコさんも、すごくキレイだ。
「お昼、こんなのでごめんね? 公園で、彼氏とお弁当食べるっていうのも憧れてたんだけど、初対面で手作りって気持ち悪いかと思ってやめたの。夜はね、夜景の見えるレストラン、予約したんだ」
「レイコさんの手作り、めちゃくちゃ食いたかったな。今度会うときは、作ってくれる?」
「今度? えーと、今度は、うん、そうだね。今度があったら、作ろうかな」
レイコさんは、曖昧に笑った。
「俺は、レイコさんが嫌じゃなければまた会いたいよ」
「ありがとう。でもヒロトくんはとっても格好いいから、何度も会ったら私、きっと好きになっちゃう」
「俺はレイコさん、好きだよ」
彼女が口にした「ありがとう」は、社交辞令に対する大人のありがとうだった。
昼飯を食いながら、彼女の話を聞いた。
レイコさんは長女で、妹と弟がいるらしい。下二人は結婚していて、妹には子供が二人、弟は奥さんが第一子を妊娠中。
「私は、両親と犬と暮らしてるの」
「犬種、何? 写真見たいな」
「ちょっと待ってね」
スマホを取り出し、レイコさんの細い指先が画面を撫でる。
隣から見えた写真フォルダは、ふわもこの毛をしたシーズーと、幼い子供の写真でいっぱいだった。
「この子たちって、妹さんの子?」
「そう。かわいくて、会うたびに写真いっぱい撮っちゃう」
「メロメロなんだね。犬もかわいい。名前は?」
「チロちゃん」
「女の子?」
「うん。私の愛娘なの」
「いいな、犬。俺も犬好きなんだけどさ、仕事の間寂しい思いさせちゃうとかわいそうで、飼えないんだよね」
「私も一人暮らしだったら飼えなかったな。うちは、母がずっと家にいるから。妹もよく遊びに来るし」
「なら結構、賑やかなんだ? 犬にはいい環境だね」
食事が終わっても会話が弾んで、お互いの仕事や家族のことについて、いろいろ話した。
俺の本業の話をすると、レイコさんは驚いたみたいだ。
「ホストの人みたいに、これが本業なのかと思った」
「違うよ。この仕事って、本業よりも副業とかアルバイト感覚の人が多いと思うよ。いろんな人と会うから、勉強になるんだよね」
「そうなんだ。本業が何か、聞いてもいい?」
「普通にサラリーマン」
「平日は、スーツ着て会社に行ってるの?」
「そうだよ」
「意外! でもそっか、今ってサラリーマンの副業がはやってるもんね。でも、どうしてレンタル彼氏を選んだの? 副業って、いろいろあるじゃない?」
「クラウドソーシングで、ライターとか?」
「うん。私の職場の人で、そういうのやってる人いるよ」
「家で一人で作業してるより、人と会うのが好きなんだ。俺と会って、こうやって過ごしてさ、帰るときに相手が笑顔になってるとうれしい」
「なるほどね。素敵だね」
そう言って微笑んだレイコさんは、最初に比べるとだいぶ緊張もほぐれて、リラックスしているように見えた。
「そうだ! あのね、食後の運動で、手をつないでお散歩したいの」
話すのに夢中で忘れてたと告げた彼女の手を取り、立ち上がる。
「レイコさんがやりたいこと、何でも叶えるよ」
「ありがとう」
ゴミを捨ててから俺たちは、続きの会話をしながら、公園の中をのんびり散歩した。
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