借り物彼氏のマジ恋

よろず

本編

第1話 年上美女がうぶってヤバくない?1

 レンタル彼氏と聞いて、人はどんな印象を受けるだろう。

 いかがわしいことはしないけど、決してメジャーな職業ではないと思う。

 顔にそこそこ自信があって、指名が取れればなかなか稼げる。そんな仕事。


 俺が登録している運営会社は、男性からの依頼は受けてない。お客様は女性オンリー。

 ルールも結構厳しくて、ドライブ、密室、実家へ連れて行くのは禁止。キスも泊まりも駄目。

 イケメンとデートしてみたいとか、浮気にならないときめき補充とか、そんな用途で使う人が多い。


 俺は結構コンスタントに指名が取れてるほうで、最近では、副業だけでも大卒の初任給並みの稼ぎになっている。


 運営会社から依頼の連絡を受けて、お客さんと直接待ち合わせの日時についてのやりとりをして。

 当日はデートして、お金をもらう。

 今日のデート相手は、レイコさんっていう三十代女性。希望は、世間一般的なデート。

 初指名なのにいきなり十二時間って、なかなかの上客だ。今日一日だけで、俺に入るのは三万六千円が確定。運営会社も挟んでるから、レイコさんはそれ以上の金額を払ってるってことだ。


 待ち合わせのやりとりで得た情報だと、レイコさんは未婚らしい。

 容姿に自信がなかったから、恋人がいたこともないとか。

 デート経験は、お見合い相手とした一回だけで、そのお見合いは破談になっちゃったんだって。


 人生で一度でもいいから、デートがしたい。

 願わくば、かわいいと言われてみたい。


 だから彼女は金を払って、俺の一日を買った。


 お客様は神様で、女性はみんなかわいいよ。

 本音はどうであれ、タレントと呼ばれる俺たちプロ彼氏は、デート相手を満足させるのが仕事だ。


 俺の今日の服装は、事前リサーチで得たレイコさんの好みを反映した、きれいめ大人コーデ。ホテルのレストランで食事ができる服装がいいと言われたから、シャツにジャケットスタイルだ。


 待ち合わせ場所の駅で電車から降りたら、レイコさんから「到着しました」のメッセージ。

 メッセージのやりとりから推測できる彼女は、きっと真面目な人。

 待ち合わせ場所に着き、辺りを見回す。

 くすみピンクのフレアスカートに、トップスと鞄が白の、セミロングの女性を探す。


 一人いた。

 いたけど……いや、まさか……。


「……レイコさん?」


 服装が該当した女性に、声を掛けてみた。


「あ、はい。ヒロトくん、ですか?」


 緊張した面持ちで俺を見上げた女性は、誰がどう見ても、美女だった。


「アールイーのヒロトです。今日は一日、よろしくお願いします」


 運営会社名と自分の登録名を名乗るいつもの挨拶をしながら、俺の脳みそがバグる。

 容姿に自信がなくて恋人がいたこともなく、デートをしたことがないという事前情報のレイコさんと、目の前の女性が一致しない。


 セミロングの髪は巻かれて色っぽく、首筋は細くて白い。

 背筋は真っ直ぐ伸びていて、姿勢がとてもキレイだ。

 華奢な肩。清楚なラウンドネックのブラウスを押し上げている胸は柔らかそうなのに、腰は細い。長いスカートの裾から覗く足首は、俺の手首よりも細そうだ。


「私、こういうのもあの……初めてで。料金は事前にカードでお支払いしたんですが、デート費用はどのようにすれば、あ、私が支払うということは理解しているんですが、あの、もしかしたら男性は、女性に支払われるのが嫌だなと思う方もいるかもと思って……」


 おどおどした小動物系の、美女。


「俺はどちらでも構いません。例えば、現金を俺に預けてもらって、デート中はそこから俺が支払いをして、最後に余った金額をお返しするということもできますよ」

「あ、そうなんですね。ではあの、どのぐらいかかるかがわからないので、都度私が払うということでもよろしいでしょうか」

「構いませんよ。一つだけ、いいですか?」

「はい。何でしょう?」

「敬語じゃなくて、いいですよ。俺はレイコさんの彼氏なんですし」

「あ、そ、そういうものですか? わかりまし――わ、わわかったよ。ならヒロトくんも、普通に話してね」


 全身真っ赤に染めて、わたわたしていて。なんだこの、かわいい美女は。


「うん。じゃあ行こっか。手、つないでもいい?」

「え? 手?」

「いやかな」

「いやじゃ、ないです」


 ゆでダコみたいに真っ赤になったレイコさんの手を取って、こんな美人とお金をもらって一日デートなんて最高じゃねぇかと思いながら、最初の目的地へと踏み出した。

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