ぼくから僕に

インドカレー味のドラえもん

僕から俺に

 ぼくの産まれた町はとても田舎で、広い土地に広い田んぼ、まばらに建つ平家は視界を遮らず、麓からまた別の麓がよく見えた。

 町のみんなは祖父母やその前からの知り合いで、人口が少ないのもあって話した事がない人でも顔と名前が一致する。

 土地で産まれた人は土地で死んでいく。排他的というわけではないが、封鎖的な小さな町。


 野畑を駆け回る五つの夏、お小遣いをポケットに詰め込んで僕たちは町に一つしかない駄菓子屋に通っていた。置物のようにレジ前から動かないお婆ちゃんは僕が生まれるずっと前からお婆ちゃんだったらしい。

 他に使い道のないお小遣いはほとんどがお菓子に消えていく。飲み物は川の水で充分だった。


 上級生になった十の帰り道、大人たちの真似をしてシガレットを咥えた。

 勘違いしたお爺さんに拳骨を食らったのも、僕たちを心配してくれていたからだと今思えば理解出来る。


 なんとなくで山を越えた十五の夜、始めて行った都会の灯りは星の光より強く近く俺を魅了して、いつかまたここにと決心させるには充分だった。


 高校を卒業と同時に家を出て、遠く離れた政令都市。成人式が近いというニュースを見て、まだ帰れないと静かに思う。

 家と職場とその間にあるコンビニが、何も無い田舎は嫌だと都会に飛び出た俺の世界の殆どだ。


 夢破れた二十五の今、俺はあの店で煙草を買っている。

 時間が止まったような婆さんが見つめる泥だらけの子供達は、あの日の俺だと少し感傷的になった。

 

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ぼくから僕に インドカレー味のドラえもん @katsuki3

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