最終話 「運命の再会~前々前世~」


「みつけた!」


リニア王子は業務中の駅員シンナゴヤに声をかけます。

尚実際の駅員は暇そうに見えてもけっこう忙しいため、用がないとき以外は話しかけないでください。


「あ!あなたはリニア王子!?」


地味な制服を着てお客様案内を続けるシンナゴヤは驚きます。

まるで313系のモーター音を録音しに行ったら、キヤ95気動車=ドクター東海があらわれて驚く音鉄のようです。

急にあらわれても準備が間に合いません。


「そ、そんな、どうしてここに!?」


「君に渡したいものがあるんだ」


リニア王子は業務用時刻表をシンナゴヤに渡しました。

「この本数を捌けるか?」そんな確認はするまでもありませんでした。

王子から渡された時刻表を見て、シンデレラは言います。


「ありがとうございますうう!!私コレ無くして始末書かかされるところだったんですうう!ほんとありがとうございましたあ!」


普通ならドン引きするのでしょうが、業務用の物品を紛失するとガチでけっこうきつく怒られることをリニア王子は知っています。

西武鉄道のスマイルトレインのようにニッコリ笑って「よかったね」と言いました。


シンナゴヤはふと我に帰り、目の前でリニア王子がいることに改めて気が付きました。

悔しがる近鉄姉さんとJR姉さんの横で、シンナゴヤは顔を赤らめます。

その色は往年の名鉄特急7000系パノラマカーのようです。

あの懐かしい電子的なミュージックホーンが脳裏によみがえります。

そして今はなき車内の様子も。


パノラマカーは先頭が展望車両になっており、自由席料金で子供も大人も、誰でも乗ることができたのです。

指定券もなく、特急券もなく一番前の展望席に座れた列車。

そう、特別な席は誰にでも開かれているのです。

あとはそこに自分から座りに行くかどうか。

今シンナゴヤの前に、新しい線路がひかれはじめました。

不幸ばかりだった運命のポイントが切り替わります。

行き先は、かつて北海道・広尾線に存在した「幸福駅」です。


今こそ、シンナゴヤの本当の姿に目覚めるときです。

やっと目をさましたかい?と、鉄道の神様が語りかけます。

「遅いよ」と怒鳴る乗客には「これでもやれるだけ飛ばしてきたんだよ」と言えばいいのです。

脳裏で前前前世が流れるなか、リニア王子は言いました。


「君の名は?」


「私は、シンナゴヤ、名鉄名古屋本線のシンナゴヤっていうの」


「素晴らしい名前だ、でもそれじゃ長い、そうだ!これから少し略して…名鉄名古屋にしよう!」


「ええ!でもそんな急に」


「そしてたのむ、僕と一緒に乗客を運んでくれないか?」


「どういうこと?」


「僕は2027年に品川から名古屋間で開通する、名古屋に来るお客様を君が東海地区のいろんな土地に運んでほしい」


「でもそれなら地下鉄さんが」


「彼らは市内だけだ」


「近鉄さんが」


「関西利用者向けだ」


「でもJRさんが」


「確かに、この地区最大手はJR在来線だ、でもしょっちゅう停まるだろう?東海道線は踏切支障、飯田線は鹿と衝突、冬の高山本線は走るか走らないかギャンブルだ。君しかいない。」


「でも、わたし地方の一私鉄だし」


「大丈夫だ、古くは名古屋御三家と言われたきみの力なら、必ずやお客様の役に立てる、不安ならグループ会社を使ってもいい」


「ありがとう!だったら名鉄バス、名鉄タクシー、豊橋鉄道、東濃鉄道、中日本航空、それに大井川鐵道も名鉄グループです、きっとお客様の信頼に応えてみせます」

「よかった、君がいてくれてよかった。」


こうして二人が喋っている間、駅の案内放送は流れませんでした。マイクはシンナゴヤが握っているからです。

でも大丈夫。

もともとシンナゴヤに慣れていた利用者は、なんの放送もなく、無事乗るべき列車に乗ってゆきました。本当の鉄道マニアは、撮り鉄でも音鉄でもなくシンナゴヤ利用者なのかもしれません。


「あ、そうそう、ひとつだけ私じゃ難しいところがあるの」


「難しいところ?どこだい?」


「金城ふ頭よ、ポートメッセなごや、レゴランド、ファニチャードーム、そしてリニア鉄道館。あそこへ行くには1つしか路線がないの。だからそこも加えてあげて」


「もちろんだよ、リニア鉄道館は僕にとってご先祖様の菩提樹だ。大切にさせてもらう」


「ありがとう!よかった、ねえ、きて、あ●なみ」


シンナゴヤは柱の陰に隠れていたあおなみ線を呼びました。


「あなたの魔法のおかげよ、ありがとう」


「あれは…魔法じゃない」


驚いたシンナゴヤは続けました。


「じゃあ貴方があのとき用意してくれた車両は?」


「あれは…レゴで作ったの」


「レゴで!?」


「そう、たくさん余ってたから、実物大の車両を作ったりモーターを積み込んだり、パーツと時間さえかければ、レゴブロックは何でもできるの、嘘だと思うなら…レゴランドに来て?」


リニア王子は感動して言いました。


「凄いじゃないか!おもちゃと思っていたレゴブロックで本物の電車が作れるなんて!素晴らしい」


急に褒められてしまい、おなみ線は俯いて言いました。


「こんなとき、どんな顔したらいいかわからないの」


リニア王子と名鉄名古屋(旧名:シンナゴヤ)が揃って…「笑えばいいと思うよ」と微笑みました。


リニア王子は続けます。


「そうそうシンナゴヤ、僕は君に、何度も会ったことがあるみたいって言ったよね」


「ええ、でも会ったことなんてないけど」


「会ったことはないさ、でも僕は君を知っていた、ずっと前から」


「どうして?」


「きみ、電車でGOになったろ?」


「…ああ!」


シンナゴヤは20年前を思い出します。

ゲームブームの最中、2000年1月に発売された電車でGO!シリーズ第5段、電車でGO!名古屋鉄道編。


「僕はゲームで毎日シンナゴヤから、そう、きみから発車していたんだよ!見覚えがあるはずさ、あのゲーム大好きだったから、何百回もプレイしたから、親が買ってくれた3500系の運転台を模したマスコンハンドル型コントローラーが壊れるほどプレイステーションで遊んだんだよ」


「あのコントローラーが壊れるほど私を知ってくれていたのね…嬉しい!あのゲーム出しといてよかった、あなたのおじいちゃんが、毎年電車でGOをプレゼントしていたもんね」


「ああ、0系じいちゃんに感謝しなきゃね」


「こんどご挨拶に行くわリニア・鉄道館へ、あおなみ線に乗って」


このとき二人は知らなかったのですが、

リニア・鉄道館の横には、結婚式場があるのです。


リニア王子の人脈とコネで、駅名を改名するというめちゃくちゃメンドクサイ事業があっという間に終わりました。

シンナゴヤは名鉄名古屋に改名。駅名看板も全て置き換えました。


古いシンナゴヤの看板は、アニメ制作会社が資料に欲しいというのであげました。

なんでも探偵もののアニメ映画に用いるそうです。


こうして2027年、リニア中央新幹線が開通。

日本に新しい時代が到来。


名鉄名古屋はリニア王子とととに、いつまでも黒字で暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シンナゴヤ(シンデレラの鉄道ver.) 登龍亭獅鉃 @shitetu4102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る