第9話

 対策室の中には、保護したウィンガーの宿泊施設や、暴走した場合の『保護室』、事情聴取を行う部屋などを完備している。

 昨夜は保護した2人も、ここで一泊したはずだが、窃盗や器物損壊の容疑の聴取のため、今日は警察署の方に連行されていた。


 昨日隼也たちが連れてきたアディは、日本国籍ではないものの、翼の発現が数ヶ月前、つまり国内に居住している最中に発現したということで、東京のトレーニングセンターに送られることになったようだった。

 彼のようなケースが一番処遇に苦慮するという。


 基本的には翼が発現した者は、自国の管理保護施設で所定の訓練を受け、十分に翼のコントロールができる、と認定された上で日常生活に戻ることを許される。

 旅行中や留学中に発現すれば、速やかに自国へ送還されるし、ウィンガーであることを隠して海外へ渡航したことがバレれば強制送還される。

 しかし、アディのように、日本国籍ではないものの、日本で生まれ育ち、生活基盤が出来上がっている未成年者を、あえて国籍のある国へ送り返すことについては、様々な方面から批判がでている。


 ウィンガーの処遇について国際ルールを定めているアイロウでも、彼のようなケースや、両親の就労などで海外移住している際に子供が発現した場合の対応については、『個々の状況に応じた対応をとること』と、曖昧な表現がされている。


 国際ルールが定められているにも関わらず、国によってウィンガーの扱いに大きな違いがあることも、大きな問題だ。

 表向きは「国際ルールに従ってウィンガーの保護に取り組んでいる」と言っている国でも、偏見や差別による迫害を黙認していたり、保護と称して軟禁状態においていたりすることは珍しくない。


 ニックやアディの母国では、特に農村部での偏見がひどく、家族ぐるみで村から追い出されたり、時には家に火をつけられたりということが実際に起こっているという。

 アディの処遇がどうなるのか尋ねた隼也に、アベはそんな事情まで滔々と説明してくれた。

 どうもパソコンに向かって報告書を作成する、という仕事はアベの苦手とするところらしい。

 隼也に話しかけられたのは手を止めるのにうってつけの理由になったようだ。


「旅行なんかの短期滞在じゃないから、日本に来てから発現したなら、そのまま滞在が許されるケースもあるみたいですけど。ニックの方は、どうもそうじゃないと須藤さんは睨んでるみたいですよ」

「…というと、翼があることを隠して日本に来たっていうことか…」


 そんな話をしていると、事務室の扉が開いて、ワタナベが戻ってきた。

 ちょうど正午を回ったところだ。

「おつかれ様です」

 隼也とアベが声を揃えて言ったのに、

「おう」

 相変わらず、ワタナベは短く応じただけで自分のデスクに腰をおろす。

 持参していたタブレット端末を開き、しばらく操作していると、部屋の隅のプリンターが起動した。

 低い機械音と共に数枚の用紙がプリントアウトされていく。


「桜木」

 前触れもなく、名前を呼ばれて振り向くと、ワタナベは今打ち出された用紙の方を示した。

「今回の経過をまとめた。読んでおけ。どうせ、須藤さんから大した説明されてないんだろ」

 意外な言葉に驚きながら、プリンターから用紙をとる。

 ニックとアディの事情聴取、彼らの親から聞き出した話の内容がまとめられていた。


「ありがとうございます。…こんな短時間に、すごいですね」

 A4の用紙2枚に印刷された内容には、午前中の事情聴取で知り得ただろう事柄も含まれている。

「話、聞いてるだけだからな。聴きながら、報告書まとめたほうたが効率的だ」

 仕事はしっかりしそうなタイプだとは思っていたが、態度とは裏腹に、後輩の面倒見もいいらしい。隼也にはありがたかった。

「しっかり、読ませてもらいます」

 ワタナベは無表情のまま、視線も合わせずに頷いた。


 ※※

 ニック・サムリット、14歳。

 3年前に父親と共に来日。母親と妹2人が母国に残っている。

 父親は元高校教師。来日当初は神戸、大阪を転々としながら、工場などで短期労働者として仕事に従事。そこで知り合ったブローカーの紹介で1年前に現在の食品加工会社に就職。社員寮に入居し、アディ・ボリラックの家族と知り合う。

 同じ国の出身、ニックとアディが同じ年のこともあり、家族ぐるみで親しく付き合っていた模様。

 本人の供述では翼が発現したのは一年前、社員寮に入った後とのこと。発現時の状況については、よく覚えていない。

 父親に相談したところ、新しく入ったばかりの職場で面倒を起こしては良くないと、しばらく様子を見ることにした。

 アディの翼が発現した際には、ニックのみが目撃。2人で相談し、コントロールできるようになるまで、隠していることにした。

 倉庫や公園での破壊行為は、自分が先導して行ったとのこと。理由はむしゃくしゃしていたから。盗みはイタズラ半分で。盗んだものは近所の子供や友達にあげた。

 中学校での友人関係にトラブルがあったことが引き金だったと認めている。

 トラブルの相手の同級生が市営団地に住んでいるため、自転車などの証拠を残せば、疑いの目を向けることができるのではと考えた。


 ※※

 アディ・ボリラック、14歳

 父親は20年前から、母親は15年ほど前から出稼ぎで来日している。

 両親は、神奈川の工場に勤務していた際に知り合い、結婚。アディを出産後、帰国し現地で仕事をしていたが、日本で教育を受けさせたいと、4年前に再来日している。

 父親は食品加工会社に派遣労働者として勤務。

 母親は近くの飲食店でアルバイトしていたが、店が半年ほど前に閉店。

 現在は昼間は弁当屋、夜は夜間清掃のアルバイトをしている。

 父親の夜勤と母親の清掃の仕事が重なった日には、一人で留守番をしていた。

 ニックが引っ越してきて以来、学校でもプライベートでも2人で行動することが多かった。

 翼が発現したのは3ヶ月ほど前。学校でのトラブルのことをニックと話していた時。当時、双方とも両親は夜間で留守。

 興奮状態になったアディに、ニックが自分もウィンガーであることを告げ、なんとか落ち着かせた。

 この時の状況について、アディとニックの証言はほぼ一致している。両親には、アディの意向で翼のことは話していない。

 アディによれば、ニックは翼の発現をきちんとコントロールできているが、自分はちょっと興奮しただけで発現させそうな時が多く、そのため、学校も休みがちになった。

 ニックはなんとかコントロールさせられるようにしてやりたいと、家族の目を盗んで人気のない雑木林や集会所の裏に連れ出し、翼を出す練習をした。

 結果ー出したい時に翼を出すことはできるようになったが、出したくない時でも興奮すると抑えられなくなることはあった。

 なるべく学校ではニックと共に行動するようにしていた。

 また、翼を出して体力を使った後は、比較的に気持ちが落ち着いていられることがわかったため、公園の木を抜いたり、倉庫を壊したりした。(悪いことをしたと思っている。すいませんでした、と思い出したように付け足した)

 興奮状態だったこともあり、中古品ならいいだろうと、ボールやラケットなどをイタズラ半分に盗んだ。

 ニックは止めようとしたが、自分が強引に破壊行為や盗みに付き合わせた。

 自転車を市営住宅の駐車場に放置することを提案したのも、自分だと主張している。


 2人の聴取結果の後に、ワタナベの考察らしき文章が加えられていた。


 ※※

 ーどちらが一連の事件を主導していたのかは、双方の話が食い違っており不明。お互いに相手をかばっていると思われる。

 公園の木を引き抜く、倉庫の扉を壊すなど、暴力行為そのものが目的で、窃盗はイタズラ半分だったと思われる。

 学校での同級生とのトラブルから、市営住宅に故意に手がかりを残したことは認めている。

 ー空き家荒らしの件について

 カギをこじ開けようとしていた空き家は、カギが簡単に開けれないか様子を見ていた。盗品をあの家の物置に隠していたが、手狭になった為、家の中に置けないかと、扉をいじっていたところを、老人に目撃された。

 供述を受け、該当の家の物置を調べたところ、古いテニスボールやラケット、非常食などがしまわれているのが発見された。(庭の隅にあり、使われている様子がなかったことから事件当時、警察では中を確認していなかった)

 スケボーで市営住宅の方へ逃走したのはニックの判断。


 供述の様子を見ても、ニックの方が冷静で頭のキレる子供だと思われる。

 アディは直情型。この年頃の子供らしい大人に対する反抗的な態度が目立つ。

 アイロウの方針として、アディについては翼の発現が日本国内に居住している際に確認されていることがほぼ確実なこと、滞在期間も長く、両親も今後日本に居住し続け帰化も検討していることなどから、日本のトレーニングセンターにて発現コントロール訓練を行うことがほぼ決定した。

 ニックについては、同居する父親や周囲の人間の聞き取り調査を重ね、処遇を検討する予定。


「別に日本でトレーニングさせればいいんじゃないですかねぇ。いつ発現したにしろ、今日本で学校も通ってるんだし」

 いつのまにか、後ろから報告書を覗き込んでいたアベが言った。自分の報告書作成に戻る気は無いらしい。

「それは今後も日本でニックの面倒を見ます、ってことだぞ。ウィンガー1人トレーニングするのにいくらかかるか知ってるか?その後の就業支援や健康診断だって、全部税金から出るんだぞ。ただでさえ、東南アジア系のウィンガーが問題になってる時に、これ以上国内で翼の発現が増えちゃかなわないだろ」

 ワタナベが自分の机のパソコンを叩きながら、蔑みを隠そうともしない口調で口を挟んだ。

「子供だからって下手に同情するな。自分の国を危険に晒してまで他の国の人間1人、2人守る意味なんかない」

「はぁ、まぁ、それはその通りですが」

 アベはきまり悪げに頭をボリボリかいた。

「せめてコントロールの訓練して、向こうで支障なく生活できるようになってから帰したって…」

 ワタナベは手を止めてクルリとこちらに向き直った。

「訓練しようがしまいが、国に帰ったら支障なく生活なんかできねえんだよ。だから他の国に逃げてくるんだろ。迷惑きわまりない」

 吐き捨てるようにそう言い切って、ワタナベはまたパソコンに向き直った。

 アベはそれ以上は言葉を続けず、黙り込んで自分の席へ戻った。


「あ…の…ひとつ聞いてもいいですか?」

 隼也は斜め向かいの席のワタナベの方へ身を乗り出して、そっと声をかけた。

 なんとなく雰囲気からして、無視されるかとも思ったが、ワタナベはちらっと目だけ隼也の方を見た。

 聞きたいなら聞け、ということだと判断して隼也は続けた。

「東南アジア系のウィンガーが問題になっているって、どういうことですか?」

 隣にいるアベが何か言おうと隼也の方を見たが、ワタナベの様子を見て、すぐに自分のパソコンに視線を戻した。

「相変わらず、研修では現在の次々変化する事態については触れないんだな」

 ボソっと呟くように言って、ワタナベは背もたれに寄りかかった。軽く、背もたれが軋む音がする。

「ウィンガーに家族性、遺伝性の要素は認められない、って聞いてただろ」

 隼也は頷いた。自衛隊時代の研修でもそのように聞いたし、ここへ来る前の研修でもそれは同様だった。


 ウィンガーの発現は北アメリカ、ヨーロッパ大陸を中心に始まり、次第に世界各地で報告されるようになったが、先進国での報告が圧倒的に多い。このため、発現には環境因子が大きく関わっているのではないかと以前から言われている。

 医療や科学の力を最大限に活かして、どの国も発現の可能性の高い子供を早期に見つけ出そうと研究を進めているが、今のところ、感情の高ぶりが発現時には共通して認められる、ということ以外分かっていない。

 つまり、兄弟姉妹に翼が発現したからといって、他の兄弟に翼が発現する可能性が高くなるわけではないし、親がウィンガーだからといって、子供に翼が現れる可能性が高くなるわけでもない。(ただし、ウィンガーが子供を持ったという報告は極めて少ない)

 これはアイロウからも公式見解として出され、ウィンガーの家族を疎外したり、忌避したりしないようにとの意味合いも込め、広く広報されてきたことだった。


「そもそもアジアや南米、アフリカでウィンガーがあまり確認されなかったのは、発現した子供を隠したり、内々で"処理"していたからだと言われている。だいぶ前から言われてたことなのに、アイロウでも調査をしてこなかった。面倒ごとが増えるのが嫌だったんだろうな」

 ワタナベは苦々しげに顔を歪めた。

「ここ5年ぐらいで東南アジアや南米でもウィンガーの報告が上がってくるようになって、やっと調査も入るようになった。で、この地域では兄弟や、一つの集落から複数のウィンガーが出ていることが多いと分かってきた。つまり、一人に翼が発現すると、その周囲の人間に発現が見られることが多い」

 隼也には初めて聞く内容だった。驚いている隼也にワタナベはさらに付け加えた。

「伝染性があるんだよ、あいつらの翼は。そんな奴らが国内で制限もなくウロウロしててみろ。パンデミックの原因は、間違いなく奴らだ」


 昼食をとりにいくと言ってワタナベが出ていくと、アベは物言いたげな顔で隼也に向き直った。

「さっきの、伝染するうんぬんの話ですがね」

「え、ああ」

 隼也がアベのパソコンをチラ見すると、報告書はなんとか仕上がったようだ。

「あれ、あんまり言わない方いいですよ。なんかそんな論文だか、報告だか出した研究者がいたらしいんすけど、アイロウで公式に出してる話じゃないですから」

「あ、やっぱり…聞いたことのない話だとは思ったけど」

 ワタナベの威圧感のある話し方に押されて、鵜呑みにするところだった。

「まあ、そんなウワサが出回っているせいで、アジア系や南米系のウィンガーに警戒心が強くなってるのはあるみたいですがね。ワタナベさんの場合は…あの人、ウィンガーがとにかく嫌い、というか…」

 アベはそこで言葉を濁し、ドアの方を気にしてから声のトーンを落とした。

「どうも、身内の人がウィンガーの起こした事件で犠牲になったらしくて。ウィンガーにえらく嫌悪感持ってるんですよ」

 そう聞けば、ワタナベの若干過激とも思われる言動にも、須藤に対する反発にも納得がいった。


「須藤さんも伝染性の話なんかしてなかったけど…その話、知ってるのかな」

 アベは可笑しそうに笑った。

「もちろん。あの人はなんでも知ってますよ。でも、余計なことは絶対に言わない。頭のいい人ですよ」

 ワタナベと対照的にアベは須藤を崇拝しているようだった。

「ワタナベさんがあんな態度とりつつも、須藤さんと仕事してるのも、須藤さんの有能さを分かってるからだと思います」

「なるほどね…」

 隼也は小さく頷いた。

 初日にワタナベやアベと挨拶程度の会話を交わして以来、顔を合わせる機会もろくになかったが、この二人とは色々話してみるべきだなと、改めて思う。


 須藤は質問はしてくれて構わないと言っていたが、どうも肝心のところをはぐらかしてきそうな気がする。

 核心にダイレクトに迫りたい時はこの二人の方が役に立ってくれそうだ。

 せっかくの機会なので、アベを昼食に誘うと喜んでついて来た。


 オフィスビルが軒を連ねるこの辺りでは、サラリーマン向けにランチを提供している店も多く、開拓しがいがありそうだった。

「自分もまだ、それほど詳しくはないんですけど…」

 隼也がどこかオススメの店があれば教えて欲しいというと、アベはそう言ってから以外な場所を挙げた。

「市役所、行きませんか?」

 一瞬、隼也の頭の中は?だらけになったが、聞けば市役所の食堂がなかなかお得なのだという。

「今からだと…日替わりはなくなってるかな」

 アベがつぶやいた通り、20食限定の日替わりランチは売り切れていた。メインの生姜焼きにゴハン、味噌汁、選べる小鉢が一品ついて500円は確かに安い。

 ほかのランチや丼物もリーズナブルな価格とあって、結構混んでいた。

「ゴハン、大盛り無料ですよ」

 食券の券売機に並んでいると、後ろからアベが教えてくれた。

「確かにいいね、ここ」

 あまり天井の高くない、飾り気もない食堂。食券を出してしばらくすると番号で呼び出される。

 どちらかというと、高速のサービスエリアや大学の学食を思い出させる。だが、雑然とした雰囲気も含めて隼也は嫌いではなかった。むしろ、気取りがなくていい。

 隼也の言葉にアベはちょっと嬉しそうな顔になった。

(わかりやすい男だな。まぁ、このぐらいの方が、仕事の上では付き合いやすい)

 須藤やワタナベの顔を思い浮かべながら、隼也は思った。


 Bランチの唐揚げ定食、ライス大盛りにポテトサラダを追加して、いっぱいになったトレーを掲げるように持ち、アベは奥の空いている席へ向かった。カレーセットのトレーを持って、隼也も後に続く。

 アベは見た目を裏切らない食べっぷりで、あっという間に唐揚げの山を減らしていった。

 隼也もかなり食べる方だが、最近は運動量が減ったことを考えて意識して、食事量をセーブしている。

「足りますか?桜木さん、結構いい体してますよね」

 本気で心配そうな顔をして聞いてくるアベに隼也は苦笑した。

「そろそろ気をつけないと、食べた分だけ脂肪になるからさ。ここ来てから引っ越しの荷物運びしかやってないし」

「え、何言ってるんすか!まだ25ですよね」

 そんな理由で食事制限など考えられないと言いたげだ。

「いやいや、気をつけないと、腹回りとかヤバくてさ。そういえば」

 と言いながら、カレーを口に運んだ。格別特徴があるわけではないが、いわゆる家庭的な味だ。がっつり空腹な時なら2、3杯はいける。


「ワタナベさんて、いくつくらいなの?須藤さんよりも結構上みたいだけど」

「あー、確か三十後半くらいじゃないかな。事務の子と音楽かなんかの話してた時、四十近い中年にそんなこと分かるか、とか言われたことあって」

「へぇ、それにしては若い、というか精悍な感じというか」

 動きが若々しい、と隼也は思い返していた。

「前、何やってたかとかは全然、言わないんですよ。須藤さんとか室長は把握してるんでしょうけど」

 話ながらも、アベは口と手をせっせと動かしていた。大盛りのライスがあっという間に減っていく。


「あ、でも、警察の宮本さん、いるじゃないですか」

 いるじゃないですかと言われても、隼也は名前だけでまだ会ったことはない。対策室と警察の連絡係になっている人物らしいが…

 それでも隼也はひとまず頷いて、相づちをうった。

「あの人、ワタナベさんにはなんだか一目置いてる感じなんですよ。オレなんか完全に若造扱いなんですけどね。だから、前職、警察関係じゃないかと自分、思ってるんですよ」

 それもまた、短絡的な発想だな、と思ったが、一応

「なるほどね」

 と、同意しておいた。


 須藤より年上で、仕事もできる、となれば一目置かれるのは当然だ。聞いてる限り、宮本という人はそれなりの年配らしいし、そんなベテラン警察官からすれば、アベなど確かに、経験も知識もないヒヨッコにしか見えないだろう。


「なあ、いつぐらいから一人で仕事任された?」

 アベがほぼ食べ終えたのを見計らい、隼也は気になっていることを聞いてみた。

 水を飲もうとしていたアベの動きが一瞬止まり、不思議そうな顔で隼也を見返した。

「え、昨日の桜木さんだって、須藤さんのサポートすっかり任されてたじゃないっすか?」

「え…?いや、オレは訳もわからず付いていっただけで…」

「オレなんか聞き込みとか調査の仕事ばっかで、須藤さんに同行しての現地調査なんてしたことありませんよ」

 本気で羨ましそうな様子のアベに、隼也は続ける言葉が見つからなかった。

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