第11話
休憩時間に外に出たのは久しぶりだった。パン屋もコンビニもあるけど、お昼ご飯はあまりこだわらないから朝のうちに買っておいてけっこう休憩室で本を読んでることが多い、休憩時間を落ち着いて過ごせるようになったって証拠なのかな。
今までは、どこの職場でも誰かを前にして食事をしようとしても緊張してしまってうまく食べられなかった、用もないのに外に出てお店で食べたり、ランチを食べる時間も胃袋もないから、ケーキとか甘いものとコーヒーだけ頼んで好きな本を読んでいたりしてたな。
まるちゃんがほんとうにおいしそうにご飯を食べる姿を見てなんだかすごくかわいくて。ちいさなおにぎり一つですませる私にそんなんじゃ午後元気でないよって卵焼きをくれた。甘じょっぱくておばあちゃんがつくってくれた味に似ていたな。そうやって休憩室に一緒にいても疲れないし、たわいのないことを小さな声でおしゃべりして、笑いあえた。そんなことが日常になるなんて今までの私はとうてい思えなかった。
この職場は、こんな臆病な私を受け入れてくれている気がしてた。
だけどなんだか、ミミさんが1週間休んでから、ずっと胸騒ぎがしてうまく眠れなかった。ちゃんと処方された薬も飲んでいたのに焦燥感がいっぱいで、今もなにかしなきゃいけない気がして、休憩室でのんびり座ってられなくてお店の周りを30分も歩きまわってしまった。おなかすかないけど、コンビニでチョコレートを買ったから外で座ってすこし食べようかな。時間を確認しようとスマホを取ると同時にポケットからミミさんがくれたドラゴンフルーツに似せたゆるキャラのストラップ落ちた。拾い上げて浜瀬はそいつをじっと見つめた。悪い予感を打ち消すように浜瀬は頭を横に振る。ふっと息を吐いてあたまを上げた浜瀬の目線の先に、あのちいさな大人が目に入った。
鼻から吸った空気で肺が膨らむ。この時間のレジがだれなのか考えなくてもすぐに思い出せた。浜瀬はいのるに言うように心の中で「冷静に」と唱えて歩き出した。
間に合え。
浜瀬の頭はもう、まるでいのると同じように真っ白になって。考えることを手放していた。
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