第14話
いのる、どうか謝らないでほしい。
私は、自分が守れなくてくるしかった。
どうして世界には、人の気持ちがわからない人がいるんだろうってことばかり私の心を支配して、脅かして、私の精神をめちゃめちゃにしていた。
私はミミさんを尊敬していた。
だけど、それだけじゃなかった。
私は私のことを追いつめた人みたいに、ミミさんを追いつめるあいつが、ミミさんだけじゃなくいろんなバイトを辞めるほど追いつめても何事もなくお店にやってくるあいつがどうしても許せなかった。
はじめてこのお店に入った日、
「きみは優しくて目をつけられそうだから気を付けた方がいいよ」
「そんなに何人も辞めているのにどうしてあの人は問題にならないんですか?」
霜村副店長はだるそうに、まるで糞みたいな話だからしたくないんだけどって言うみたいに口を開いた。
「…ここは、テナントだけど。元々は駅の持ち物だから。店長よりも上にいるやつらの頭が固いんだ。あいつ、身体障碍者だろう」
「え」
「あの身長がそういうことなんだよ」
考えてもみなかった、身体障碍者だから悪いことをしても、なにも言えない…?
「やってる本人もわかっているはずだ、あいつを簡単に問題だと言って店内に入れなくすることは差別になる可能性がある」
霜村副店長はふぅーっと深いため息をついた。
「そういう問題を嫌がるやからが上にはやまほどいるんだよ」
こんな…
こんな世界だいきらいだ。あの人の命とミミさんの命も他のバイトの命も差別も区別もしちゃいけないはずだ。ただの体裁のために、悪いことをした人に悪いということもできない。これがなにが平等だって言うんだ。障碍者も健常者みんなが許されるなら、健常者も障碍者もみんなが裁かれるはずなのに。
「霜村副店長はそれでいいって思うんですか?」
「俺、バイト上がりのしがない副店長だからね」
「…そうですか」
だれだって自分のことが大事だし、バイトなんて辞めたっていくらでも代わりはいるんだ。そういうのが当たり前なんだって、霜村副店長を責めたって仕方ないこと。
「あいつはすげえ嫌いだよ」
明後日の方を向いたままの霜村副店長の顔は読み取れなかったけれど、それが本心で、それ以上は何もできないのも彼の本心なんだって言うのは分かった。
「
「はい?」
「きみのことを勘違いしていたのかも」
「なんですか」
「優しくて傷つきやすそうだと思ったから忠告したけど、きみみたいなやつが一番爆弾を抱えていそうだ」
ゆっくりとこちらをむいた霜村副店長はまっすぐに私を見ていた。なにもするなよ、と釘をさしたつもりだったのだろうか。凄むような迫力はなく、ただ心配しているようにも見える。
ふっ、と笑みがこぼれた。人間、第一印象だけではその奥の心まで読み取ることはできない。霜村副店長は適当な言動でここの真面目なバイトさんたちには嫌われてる気がしていたけど、こういう上司を私は嫌いじゃないと思った。
「どうでしょう」
「まあいいけど」
それ以上、霜村副店長は私に何も言うことはなかった。私ももう何も言わなかった。
あのね、いのる
私は、このときから決めていたのかもしれない。規則やルールでどうにもならないことなら、私ができることはなんなんだろうって考えた。明らかにどちらが悪いのかわかっているのに、泣き寝入りするしかないこの世界を私の中の爆弾が吹っ飛ばすほどのことはできるのかなって。
いのるはすぐに爆発してしまいそうだったから、私は止めたけど。いのるは純粋でまっすぐで、汚れていなくて、あんな奴のせいで人生を踏み外しちゃいけないんだって思ってる。
いのるの手は汚させない。
絶対に。
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