10年前に戻ってからどうしたら世界を変えることができるのだろう

10年前に戻ってからの幼馴染との日常 ①


 ジリジリジリジリ!! と目覚まし時計が盛大に重低音を鳴らした。

 少し寝不足のせいで体が重く、「ん……」と声を漏らしながら、もぞもぞと布団から這い出てきて、騒がしい目覚ましい時計を黙らせる。

 寝不足の頭では何も考えることができず、しばらくぼーっと虚空を眺めていると、徐々に目が覚めてきて脳が勝手に昨日の出来事が急に頭の中でフラッシュバックしはじめた。


『俺はゆいのことがずっと好きだった! もちろん今も!!』


『こんな俺でよかったら、ゆいが愛想つかすまででいいから、これまで通り一緒にいてくれないか?』


 ゆいと向き合い告白した昨日の出来事を思い出した瞬間、俺は布団にくるまり直して頭を抱えた。


「死にてえ……」


 俺の過去に戻る前も合わせれば、25年以上の人生における初告白だ。

 その初告白で普段の俺では絶対に言わないような、恥ずかしい言葉を並べ立てて完全にノリとテンションで思っていることを赤裸々に伝えてしまったのだ。

 恥ずかしくないわけがない。

 結果としては望んだものが得られたといってもいいのだろうが、恥ずかしくて死にそうだ。

 せっかくゆいと一緒に居られることになったというのに顔を合わせられる気がしない。

 よくよく冷静になれば、いくら放課後誰もいないと思っていた教室とはいえ、まだ学校に普通に生徒が残っている時間である。誰かに見られてもおかしくはない。

 抱き合っている姿を学校の誰かに見られていたらどうすればいいんだ……。


 ただ伝えたこと自体に後悔はないのだ。


 多分踏み出すことができないまま時間を過ぎ去ってしまえば、俺一人では人生を変えてやろうとも思えず、諦めて後々後悔することになっていたと思うから。

 それでも羞恥心が消えてくれるわけもなくしばらくの間そんな風に呻きながら死んだような目をして横になって唸っていると、眠気が襲ってきた。

 昨日の夜も今みたいに恥ずかしさがフラッシュバックしてしまったせいでテンションがおかしくなり、満足に眠れていないのだ。

 朝の眠気はなかなか強力で布団にくるまった状態では抗いようもなく気づけば眠っていた。





   佐伯ゆい





 朝食を作り終えて直人くんの部屋をコンコンとノックしたのですが、返事がありません。

 とっくに直人くんが起きているはずの時間のはずですが、寝坊でもしてしまったのでしょうか。

 これ以上待っていたら、遅刻してしまいます。

 そう思って、わたしはしばらく返事がないのを確認すると、ドアを開けました。

 部屋に入ってベッドの方を見ると、スースーと静かな寝息を立てて直人くんが眠っていました。

 直人くんの無垢(むく)な寝顔が起きているときとは違って可愛らしく、この寝顔を崩してしまうのがもったいなくずっと見つめていたくなってわたしは直人くんを起こすのを少しためらってしまいました。

 そんな直人くんの寝顔をしばらく見つめていると、なんだか朝食を作って部屋に起こしに行くなんてお嫁さんになった気分でちょっと嬉しくなって直人くんの頭を優しく撫でました。


 数日前。


 わたしは直人くんにわたしの告白を断られてから、直人くんに近づくのですら怖くなってしまっていました。

 このままじゃ少し前にとてもリアルな悪夢でみたような直人くんが過労死するのと同じような離れ離れになってしまう未来になってしまうのかもしれないとそうわかっていました。

 わかっていたのに、わたしは動き出せなくなってしまいました。

 だって、わたしが直人くんに思い切って近づけたのはわたしのことを好きとまではいかないけど嫌がられてはいないだろうと思っていたからです。

 告白を断るということは実は嫌わられていたんじゃないかって思うのが、思いが通じなかったことより辛くて……。

 このままじゃ、頑張ったのに悪夢のような未来がやってくるとわかっていたのに……。

 わたしは動き出すことなんてできなくて、一人、部屋にこもってつい泣いてしまう数日間を送っていました。

 そして、昨日。


『俺はゆいのことがずっと好きだった! もちろん今も!!』


 そんな風に直人くんに告白されたのです。


「えへへ」


 そんな直人くんの言葉を思い出して、思わずニヤけてしまいます。

 だって、わたしのことをずっと好きだったなんて……ずっとそうだったらいいなって思ってたことが現実になり、頬にキスまでしてしまったのですから、ニヤけてもしかたないです。

 それに思わず直人くんに抱き着いてしまったら、直人くんも優しく受け入れてくれて、わたしの気持ちが通じたと思ってとても安心しました。

 まだ恋人になったわけではないのですが、それでも好きだって言ってくれただけで本当に嬉しくて幸せです。

 でも、これでもしも本当に恋人になることができたらもっとわたしのことを好きって言ってもらえるとなるとどれほど幸せなのでしょうか。

 そんな幸せな想像をしていると直人くんが一層愛おしくなって、直人くんの前髪をなぞるように優しく撫でました。

 すると、直人くんが「ん……」と寝言を漏らし、寝返りを打ちました。

 どうやら、もうすぐ起きちゃうみたいです。

 昨日直人くんに宣言した通り、今日からは一層気合を入れて直人くんが好きになってくれるように頑張りましょう。

 もう嫌われていたらどうしようなんて心配しなくてよくなったわたしはきっと無敵だと思うから。

 いつか絶対直人くんをオトして見せるんです。

 


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