佐伯ゆい ③
結局、わたしはオーディションに参加することはできませんでした。
元々一人で東京に行くことに反対だったお父さんに前日に熱が出ていたことがバレてしまい、病み上がりの体で東京に行くことに猛反対されたからです。
わたしにとっての初めてのオーディションだったので参加できなくて残念だったのですが、またほかにもチャンスがあるはずなので、わたしはそんなに気にしていませんでした。
そんなわけでオーディションのために東京に行くはずだったわたしのゴールデンウィーク前半の予定が突然なくなり、暇だったので直人くんの家に行くか迷ったのですが、直人くんは自分が風邪をうつしたと罪悪感を感じてしまうんじゃないかと思ったので、一人で本を読みながら休日を過ごしました。
そして、火曜日にはゴールデンウィーク前半の三連休が終了し、学校が始まりました。
ちなみに明日からは、またゴールデンウィーク後半が始まります。
休み明けの授業はいつもよりあっという間に進んで、気が付くと昼休みになっていました。
「やっと昼休みだよ! ゆいちゃん」
「陽子テンション上がりすぎでしょ。マジウケる」
そう言って弁当を持ってわたしの席に近寄ってきたのは天塚恵(あまつかめぐみ)さんと伊納陽子(いのうようこ)さんです。彼女たちとは入学した時から仲良くしてもらっていて、いつも一緒にお弁当を食べています。
早速、いつものように三人で、一つの机に椅子を寄せ合ってそれぞれ弁当を開いていると、陽子さんが口を開きました。
「それより、うちらさ! ゴールデンウィークだったけど、部活で忙しすぎて休みゼロでゴールデンウィークって感じしないよ! みんなは何してた?」
伊納陽子さんは色黒で髪が少し茶味がかっているのが特徴で、バスケットボール部に所属しているスポーツマンです。
いつも元気いっぱいで、おしゃべりするのが大好きで休み時間になると、常に何か話してくれます。彼女の話はいつも面白くてわたしは彼女の話を聞くのが好きです。
「は? 休みなかったってマジ? 前から思ってたけど、ほんとに部活しかできないじゃん。あたしだったら絶対無理」
「そういう恵はどうだったの?」
「あたしはアウトレットモールに行っていろいろ買い物してきたわよ」
天塚恵さんは天使のように顔立ちが整っており、綺麗な金髪をしているのが特徴で、日本とイギリスのハーフらしく綺麗な金色の髪は地毛らしいです。
彼女はどこの部活動にも所属していないですが、お化粧や服について詳しくてわたしもたまに参考にさせてもらっています。
それと、クラスの男子には厳しく当たっているところはよく見かけて、見た目はいいが性格は悪いとよくいわれています。
でも、仲の良いわたしたちに対してはとても優しくて、陽子さんがよく天塚さんを頼っている姿を見かけます。
「恵はほんとにおしゃれ好きだね! ゆいちゃんは?」
「わたしは……突然予定がなくなってですね。本を読みながらゆっくりしていました」
わたしは声優を目指していることは仲の良いこの二人にも伝えていません。
別にからかわれるわけではないとはわかっているのですが、声優を目指しているなんて伝えるのがなんとなく気恥ずかしかったからです。
そんなわけで、ゴールデンウィーク前半は家の予定があるということにしていたのでした。
「うー……、みんなゴールデンウィークはそれぞれ自由な時間過ごしてるよね……。うちらまだ一年だから雑用ばっかりでさー…」
陽子さんは机の上でうなだれて、嘆きました。
どこの部活でもですが、一年生は基本的に練習に参加させてもらえないことが多いみたいです。伊納さんはバスケ自体好きみたいなのですが、やっぱり雑用は嫌いみたいです。
「それは大変ですね……」
わたしがいたわるように言うと、陽子さんは「そうだ!」と声を上げると、ばっと頭を上げました。
「明日なら、うちらも休みだからさ! 三人で遊び行こうよ!」
「お、いいこと言うじゃん。どこいく?」
「わたしも行きたいです。場所はわたしはどこでもいいですよ」
陽子さんが提案して天塚さんが頷いたのでわたしも同意しました。
高校に入学してあったばかりだったので三人でお出かけすることは初めてということになります。
そんなわけで明日の予定を三人で考えながら、お弁当を食べ進めていると、わたしはお弁当を食べ終わり、明日の遊びに行く計画も結構まとまってきました。
「じゃあ、昼頃に駅集合ってことでいい?」
「ええ、それでいいわよ」
話に一段落ついたので、わたしはいつものように直人くんのところに行くことにしました。教室を見回してもいつも通り直人くんの姿はないのでおそらくいつもの校舎裏の階段付近にいるのだと思います。
三人で話すことも楽しいですが、教室では直人くんに話しかけないように言われているので、わたしが学校で直人くんと話せる数少ない時間なので、会いにいかないわけにはいきませんでした。
「じゃあ、わたしはそろそろいつもの用事があるので失礼しますね」
「待ってよ。ゆいちゃん。その用事って何?」
わたしが椅子から立ち上がろうとすると、陽子さんに呼び止められました。
「いっつも誤魔化されてたけど、今日こそ答えてもらうからね」
陽子さんがジトっとした目でわたしを見つめて、問い詰めてきます。
今日まで何度か理由を聞かれてきたのですが、その時は何とかうまく誤魔化してきました。
しかし、今日はいよいよ誤魔化しがきかないみたいです。なんとなく今日の伊納さんにはそんな有無を言わせない迫力を感じます。
「え、えーっとですね……」
わたしはどう説明したものかと考えますが、何も言い訳が出てこず、戸惑ってしまいました。
どうしたものかと考えていると、待ってましたとばかりに伊納さんがギラりと鋭く目を光らせました。
「さては男、だね?」
伊納さんは確信を持った声で言いました。
割と図星を突かれてしまったわたしは思わず胸を高鳴らし、顔を真っ赤に染め、体を強張らせ固まってしまいました。
「うっ……」
あまりにも図星過ぎて一目でわかるくらいわかりやすい反応をしてしまいました。
「ひっそり噂になってたからずっと気になってたんだ! それにしてもいいなあゆいちゃん! うちも彼氏ほしいよ!」
陽子さんは羨望のまなざしで見つめ、騒ぎ立てました。
「う、噂になってるんですか? いや、彼氏とかではないんですが……」
その様子を見守っていた天塚さんは箸をポトリと落として、天塚さんはまるで信じられないといった顔をしていました。
「ゆいに彼氏ってマジで言ってるの? ていうか、あたしその噂知らないんですけど」
「だ、だから彼氏とかではないですって」
天塚さんもすっかり信じ切っている様子で言うので、慌てて否定しました。
「またまたー、嘘をつかなくていいんだよ? ゆいちゃんが男の子と登校してたってひっそり噂になってたんだから」
確かにわたしと直人くんは学校に途中まで一緒に通っているのですが、噂にならないように同じ学校の生徒が通るようになる道では先に分かれるようにしていたのですが、誰かには見られていたのでしょうか。
わたしはそんなことを考えてどう言いわけしようか考えていると、天塚さんが近寄ってきてわたしの肩をがしりと掴むと、
「ゆいに彼氏……、どんな男? あたしに紹介してみなさい。余程いい男じゃない限りあたしは認めないわよ」
思いっきり揺らし、わたしを問い詰めてきました。
「あははははは!! 恵、彼氏を連れて行った時のお父さんみたいじゃん」
「お、お父さんみたいとか言うなし!」
「ほら、ゆいちゃん。彼氏に会いに行くんでしょ? 早く行ったほうがいいって」
「は、はい。行きますけど……、ほんとに彼氏じゃないんですからね?」
「あはは、別に照れなくていいのに」
結局誤解は解けてないみたいですけど、とりあえず後でちゃんと説明することにして、わたしは直人くんのところに向かうことにしました。
「ちょ、ゆい待ちなさいよ」
「恵、彼氏と二人きりの時間を邪魔しちゃダメだよ!」
「どきなさいよ! 陽子」
わたしを引き止めようとした天塚さんを陽子さんが『ここは私に任せて先に行け』とばかりに天塚さんの前に立ちはだかって、わたしはなんとか教室を出ることに成功したのでした。
それにしても本当に彼氏ではないわけですし、どうやって誤解を解けばいいんでしょう。
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